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第78話 最後のページ


 リリーナとエミリーが帰ってきてから、入れ替わるようにフェルとポーラが退出する。

 事情聴取のような俺の質問に、フェルとポーラは嫌な顔一つも見せずに答えてくれた。


 まず可変魔法は一般人に広く知れ渡っていないらしい。

 まぁ、俺ですら初耳だったのだ。知らない人が多いのは素直に頷けた。

 そして、その魔法が扱える二人のことを知っているのは、騎士団と貴族、それとこの王都のギルドくらいらしい。


 今まで命こそ狙われたことはなかったが、フェルとポーラの魔法に興味を示した貴族が、何度か専属の魔術師になってくれないか、と金を積んで頼みに来たことがあると話していた。

 そんな何を考えているか分からない貴族の頼みなど、もちろん即答で断ったらしいが、年に数回は同じような貴族が会いに来るのだと、何故か誇らしげに鼻を高くしていた。


 本当に迷惑だと思っているのか、甚だ疑問だが、まぁそこは置いておこう。

 重要なのは、そんな金を積んでも欲されている二人のことを、周囲に話さないということである。

 詳細に言えば、可変魔法を扱えるということを広めるのが、ダメだということだ。


 次にポーラの言葉によって遮られた、 「眉唾な話だと思って聞いてほしい」 と言われた話。

 あれが気になって仕方なかった俺は、真相を究明すべくもう一度話を戻したのだ。

 聞き出せた内容はこう。


 「可変魔法の古文書の最後のページに……人生に一度だけ触れられないモノを作り変えられる魔法が存在するという記述があったのじゃ」


 正直な話そう言われても、俺にはあまりピンとこなかった。

 要は手や瞳という触れられるものだけではなく、触れらない何かを変えることができる魔法が存在するという話なんだろうが、その魔法が何を変えられるのかも定かではないし、どんな術式でどんな名前の魔法かも書かれていなかった為、フェル自身もポーラも分からないらしい。

 まぁ、ポーラとフェルの話はここまでなのだが、可変魔法のことを教えてもらった代わりとして、俺は最後に一つだけ"お願い"を引き受けてしまった。


 それは<魔の刻>のみんなに会わせるというもの。


 ポーラとフェルは<魔の刻>の大ファンであるらしく、


 「二刀のマリー様と真槍のカルロス様にも会いたいのじゃ」

 「魔女のレティナさんも〜会いたいですね〜」


 と目をキラキラさせていた為、渋々了承せざるを得なかった。

 ポーラに関しては目が死んでいたが。


 「いつ城から出れるの?」


 という俺の質問に、


 「いつでも行けるのじゃ。別に城の出入りは自由にさせてもらってるのじゃ」


 とフェルが言っていた。


 日程に関しては結局のところ細かい話をしなかったが、俺たちの滞在期間中に会いに来るらしい。

 その後、リリーナたちがやってきたわけだが……






 「あの、リリーナ……? どうしてそんなに不機嫌なの?」


 あからさまに不機嫌な表情をしているリリーナは、今、俺の隣に座っている。

 エミリーは苦笑を浮かべて対面に座っている現状だ。


 「……」

 「まさかエルフの奴隷解放のこと……受け入れてもらえなかったの?」

 「えっと……それは大丈夫でしたよ? レオンさん」


 えっ……なら、なんでここまで不機嫌なんだ?


 リリーナがこうなっている理由に思い当たる節はない。

 この王都に入国した際もリリーナはいつも通りだったし、この部屋から出て行った時だって 「待っててくれ」 と爽やかな表情をしていたのに……


 「レオン、また……」


 不機嫌な理由を模索していると、そっぽを向いていたリリーナと視線が合う。


 「? また?」

 「……また……」

 「……?」



 「また、お前は女と一緒に居たのか!!」

 「え、えぇ?」

 「しかも、なんだあの小さい女の胸は……全てあの胸に栄養がいってるではないか!」


 リリーナは自分の胸を見つめて、ふるふると震えている。


 「ちょ、ちょっと待って? 少し誤解があるよ」

 「……誤解? あの胸を見つめておいて……何が誤解だと言うのかね?」

 「い、いや、み、見つめてなんていないよ?」

 「……」


 な、何を本当に誤解しているんだろう。

 確かにすごく大きな胸をしていたけど、そんな邪な気持ちになるわけないじゃないか。

 俺は紳士だ。紳士道を突き進んでいると言っても過言じゃない。


 これ水に浮くのかな……

 なんて決して考えてはなかった……筈だ。


 それ以降も俺はあたふたと弁解した。

 その辺の石ころを見るような表情をするリリーナと苦笑しているエミリー。

 二人を納得させるまでに数十分掛かったが、なんとか誤解は解けたようで俺はその後解放された。

 ただ、何故か弁解をする度に、二人の表情が呆れに変わっていったのはきっと何かの錯覚だろう。


 リリーナたちが言うにはエルフの奴隷解放は容認され、三日後にはランド王国を中心として、マリン王国、リーガル王国が市民たちに新しい法令を発表するそうだ。

 ちなみにだが、カルロスが行った闘技会で有名なアーラ王国は現状様子見らしい。

 まぁ、エルフを好き好んで奴隷にしている貴族も多いと聞くので、それ以上は追求しないことにした。



 「ふっふふ〜ふふ〜」


 鼻歌を歌って一人で城を後にする。

 リリーナとエミリーはもちろん安全の為に、城で寝泊まりをする。

 つまり、本当に俺は依頼から解き放たれたということだ。


 まずは……そうだな。

 みんなが居る宿屋へと向かおう。

 そして、今日だけは思いっきりベッドで寝るんだ。

 明日からみんなと海に行ったり観光したりして……

 あぁ……考えるだけでワクワクしちゃう。


 「ふんふんっ〜ふふっふ〜」


 思わずスキップしようとする身体をなんとか止める。

 だが、足取りはいつもより早い気がした。


 早くレティナに会いたいな〜。


 そのまま俺は王都の中心地である噴水上へと辿り着く。


 そこで一つの疑問が生じる。


 「あれ? みんなの泊まってる宿屋ってどこ?」


 ……いや、これまずくない?

 みんなが見つからなかったら、俺一人で宿屋に泊まって……俺一人で海に行って……俺一人で観光して…………なんか考えるだけで悲しくなってきた。

 よ、よしっ、とりあえず冷静になろう。


 少し焦りながらも俺は噴水の近くにある椅子に座り空を見上げる。

 魔力を放っても闘気を放っても気付いてくれることには間違いないが、周りには市民が大勢居る。

 騒ぎになっても困るし、宿屋を手当たり次第訪問しても見つかるのはいつになるか分からない。


 「さぁ……どうしたものか」


 俺が悩みに悩んでいるとふと足に何かが当たった。

 その当たっている物に視線を移すと、


 「わーごめんなさい」


 二人の子供が俺へと駆け寄ってくる。

 その後ろにはお母さんらしき女性も見えた。

 俺は足に転がっているボールを拾い、笑顔で子供たちを見る。


 「ほらっ。あんまり迷惑かけちゃダメだよ?」

 「はーい」

 「すみません。うちの子が……って、え? まさか、Sランク冒険者のレオンさんですか?」

 「Sランク!? お兄さんってそんな凄い人なの~?」


 えっ……俺の顔ってどこまで知れ渡ってるの?


 ごほんっと一つ咳払いをした俺は驚いている女性に向けて口を開く。


 「えっと……人違いですよ」

 「見間違えるわけがありません。私は貴方がSランクに上がった祝儀を見に行ったんですもの」

 「ふ、ふむ」


 女性は興奮している為か、少し声が大きい。

 すると、


 「……本物のレオン・レインクローズ?」

 「本物ならすごくない?」

 「ねぇ……声掛けて来なよ〜」

 「ほらっ、やっぱり俺の見間違いじゃなかった!」


 ざわざわとしだす民衆。

 流石にここはランド王国ではない為、油断をしていた俺は外套のフードを被らずにここまで歩いた。

 だが、それはあまりにも堂々としすぎたらしい。

 俺の周りに人だかりができ始め、やっと事のめんどくささに気づく。

 こんな事になるなんて思ってもみなかった。

 今この場から逃げるなら飛んで人を飛び越えるか、人と人を掻い潜って走り去ることしかできない。


 はぁ……めんどくさい。


 せっかく俺のことを誰も知らない土地に来たかと思えば、俺の考えとは真逆である事実に思わず肩を落とす。


 「これじゃ……海にも入れないじゃん」


 ぽつりと呟いた俺は立ち上がり、子供たちの頭を撫でる。


 「もっと人がいない所で遊ぶんだよ? 誰かの頭に当たったら大変なことになるから」

 「はーい」

 「うん!」


 二人が頷いたのを見ると、俺はすぐに走り出す。

 姿を消した俺に民衆が騒いでいたが、足を止めることなく路地裏へと入ろうとした。

 が、誰かによって腕を掴まれた俺はその行動を止められる。


 「あっ、レンくんみーつけた」


 声の主を振り返ると、俺がずっと会いたかったみんながそこには居たのだった。


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