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第77話 可変魔法


 何故俺の元には厄介事が次々と降り落ちてくるのだろうか。


 「本物じゃ! ポーラ凄いのじゃ! 本物じゃよ!」

 「ほんとだ〜」


 俺の服の袖を掴み、興奮した面持ちをしている小さな女の子。


 背中まである長い黒髪に赤い毛先が印象的で、身長はルナやゼオよりも少しだけ高い。

 何よりも特徴的なのは、目を見張るほどの大きな胸であり、その胸を揺らしながらぴょんぴょんと飛んでいる。


 「ふむ。なるほど……母さんが言ってたな。これがロリ巨乳というやつか」

 「むむ? 今、何か聞こえた気がするのじゃ……レオン様?」

 「い、いや、何も言ってないよ。そんなことよりどうしたの?」

 「ふわぁ〜生声じゃ! ポーラ! レオン様の生声じゃよ!」

 「ん〜そうだね〜」


 もう一人の女性はゆっくりと立ち上がり、ほわ〜んと覇気のない笑顔を浮かべた。

 ロリ巨乳と同じ長い黒髪ではあるが、毛先の色が違い、赤色ではなく青色だ。

 二人が姉妹なのか知らないが、その服装はどちらも魔術師用の黄色いローブを着ている。


 「フェ、フェルさんとポーラさん! これ以上はまずいですよ! わ、私たちが陛下に怒られてしまいます」

 「くっ、まさか無理矢理入ろうとするとは……」


 二人の騎士は立ち上がるとロリ巨乳と女性の腕を掴み、部屋から出そうとする。


 「い、嫌じゃ〜。レオン様助けてぇ」

 「わ〜。男の人は力強いな〜」

 「……」


 ロリ巨乳は目に涙を浮かべて、俺を見つめてくる。

 対するのほほんとした女性は何も考えていない様に虚空を見つめていた。


 「……はぁ。ちょっと待った。騎士の君たち」

 「は、はい?」

 「も、申し訳ございません。すぐに連れて行くので少々お待ちください」

 「いや、俺も少し退屈していたところなんだ。一緒に紅茶でも飲みながら、観光スポットを教えてもらおうかと思うんだけど……だめかな?」


 父さんに教えてもらった。

 女を泣かすのは塵人間。

 のほほんとした女性は別だが、今にも泣きそうな顔をしているロリ巨乳を放っておくことはできない。


 いや、まだその胸を眺めていたいなんて邪な考えでは………………け、決してない!


 「は、はぁ。レオン様が言うなら私共は助かりますが……」

 「うん。もし怒られそうになったら俺のせいにしていいから」

 「は、はい。助かります」


 二人は頭を下げて、扉から出て行く。

 俺はそんな二人に手を振った後、扉から視線を外し紅茶を啜った。


 「とりあえず、立ってるのもなんだから座ったら?」

 「わ、分かったのじゃ。 と、隣失礼するのじゃ」

 「わ〜い。じゃあ、私も〜」


 いや、誰が隣に座れと……


 ぽすっと左側に座ったロリ巨乳が俺を見上げる。


 「レオン様。お目にかかれて光栄なのじゃ。うちはフェル・レルミッドと申すのじゃ」

 「う、うん。えっと……俺のこと知ってるようだけど……どっかで会ったことある? 俺少し記憶力に自信がなくてさ」

 「いや、初対面なのじゃ。レオン様の噂はこの国にも知れ渡っているのじゃよ」


 なるほど。どの噂だろうか。

 フェルの瞳から察すると悪い噂ではないだろうが。


 「あ〜私はポーラ・レルミッドと言います〜。ちょっと抜けてるねって~よく言われるんですけど〜」

 「……」

 「なんででしょうね〜」

 「そ、そっか。なんでだろうね」


 名前を聞いて二人が姉妹だと知った俺は、ポーラの問いを軽く流して笑顔を取り繕う。


 「それにしても本当に感無量なのじゃ。憧れのレオン様に会えるなんて……いっぱい話を聞きたいのじゃ」

 「そう言ってもらえるなんて、少し照れるな」

 「あ〜、私~質問したいです~」

 「は、はい、どうぞ」

 「あの〜〜、えっとぉ〜〜ん〜」

 「うんうん」

 「どうしようかな〜あれも聞きたいし〜〜、あっちにしようかな〜〜」

 「……う、うん」

 「でもな〜、ん〜悩むな〜」

 「……」

 「あ〜、あれに〜〜「早く言うのじゃ。レオン様が困った顔してるのじゃ」


 よ、よくぞ言ってくれた。

 フェルが話を遮ってくれなかったら、リリーナが来るまでずっとこのまま待つんじゃないかと思ったよ……


 「じゃあ〜、レオンさんの噂は〜沢山あるんですけど〜……剣だけじゃなくって〜、魔法も行使できるんですか〜?」

 「……いや、使えないよ。俺はこの剣だけで戦ってきたんだ」

 「ふふふっ。それは〜」




 ポーラが俺の瞳をじっと見る。














 「嘘ですね〜」






 確信を突かれたその言葉に思わず身体が反応しようとする。

 が、俺はそれをなんとか堪えた。


 「……本当のことだけど?」

 「レオンさん〜、私に嘘は〜通用しないんですよ〜」

 「だから、嘘じゃないよ」


 動揺してはいけない。

 何を言われても隠さないとダメだ。

 闇魔法を行使できるなんて知られたら、とんでもない話になってしまう。

 俺はそれが当然であるかのようにポーラの瞳を見つめる。


 そこで違和感に気づいた。

 ポーラの瞳がおかしい。

 まるで人間ではないような生気のなさに、思わずたじろいでしまった。

 すると、フェルが俺の服をぐいぐいと引っ張り、気まずそうに口を開く。


 「……レオン様。ポーラに嘘は通用しないのじゃ。瞳に可変魔法を掛けているからの」

 「……可変魔法?」

 「そうじゃ。うちたちは……普通の魔術師と違うのじゃ」


 フェルが握っていた服の裾を離し、右手を自身の左手に触れる。


 「変異(メタモルフォーゼ)


 そう唱えたかと思えば、フェルの左手はみるみるうちに変形し、鋭利な剣に変わった。


 「えっ……?」


 信じられない。ただその一言に尽きた。

 こんな魔法は未だかつて見たことがない。


 「そ、その腕って感覚あるの?」

 「いや、感覚はないのじゃ。ただ、この剣が折れた時には自分の腕も落ちるというのは、なんとなく分かるのじゃ」

 「なる……ほど。じゃあ、ポーラの瞳はどうなってるの? 失礼になるかもしれないけど……正直生きた人間の瞳とは思えないよ」


 ポーラの瞳は端的に言えば……死んでいる。

 輝くこともなければずっと瞳孔が開いたままだ。


 「ポーラの瞳も可変魔法によって作り変えているのじゃ。嘘を見抜くという瞳に」

 「?? ええっと、可変魔法っていうのは何種類か術式があるの?」

 「いや、変異(メタモルフォーゼ)の一つしかないのじゃ」

 「? なおさら、分からないな。魔法って言うのは一つの術式で一つの効果しか生まれないものだと思うんだけど……」


 疑問しか浮かばない俺に、ポーラが口を開く。


 「つまり~レオンさんが言いたいことって~、何故同じ術式なのに~違う効力が発動するのか~ってことですね~?」

 「そうそう」

 「むむぅ。それはうちたちにも分からないのじゃ」

 「そうですね~私たちは~古代の魔法書を見て~覚えただけですから~」


 俺は顎を触って思考に耽る。

 要するにだ。

 腕を剣に変えるのも、嘘を見抜く瞳に変えるのも、全ては可変魔法という特殊な魔法だからであって、これ以上この話を追及したところで理屈は分からないということだろう。


 「……とりあえず分かった。まだ、俺の知らない魔法がいっぱいありそうだね」

 「話が終わったところでなんですけど~、結局レオンさんは〜なんの魔法を行使できるんですか〜?」

 「あ〜。それは秘密かな」

 「え~~、私たちの魔法は教えたのに~」

 「ごめんね、ポーラ。今回は許してほしい……ちなみに、もっと可変魔法について知りたいんだけど」

 「レ、レオン様が興味を持ってくれるなんて……最高なのじゃ」


 よし。とりあえず俺の話題から話を逸らせたようだ。


 「可変魔法は何かを作り変えるっていう魔法なの?」

 「そうなのじゃ」

 「それってどこまで変えられるの? さすがに争いのない世界だったり、人間がいない世界だったりとかに変えることはできないよね?」

 「むむぅ。それはさすがにできないのじゃ。可変魔法は基本手で触れれるモノしか作り変えることができないからの。それと、人そのものを何かに変えることもじゃな。あっ、でも……たしか……」

 「たしか……?」

 「……むむぅ。これは眉唾な話なのじゃが……」

 「うん」

 「可変魔法の文書にーー「フェルちゃん〜話しすぎだよ〜」


 フェルの話を遮ったポーラは、ふぁ〜っと欠伸をして言葉を続けた。


 「レオンさんのことも〜聞かなきゃ〜。私はレオンさんのこと〜知りたいのに〜」

 「あっ、そうじゃった。うちもレオン様のことを聞きたいのじゃ」

 「……あぁ」


 可変魔法の文書には、はたして何が書いてあったのだろう。

 真実は謎のままに俺は嘘がつけないという枷を背負った状態で、二人の質問を固唾を呑んで待った。

 すると、ポーラが口を開く。


 「レオンさんの〜好きな食べ物は〜?」

 「……えっ?」

 「それうちも知りたいのじゃ!」


 ふ、ふむ。

 まだ最初だからだろう。

 これから恐ろしい質問をしてくるかもしれない。


 「唐揚げと……白豚(ホワイトピッグ)の燻製焼きかな」

 「唐揚げってかわいい〜」

 「うんうん! じゃあ、好きな異性のタイプはなんじゃ?」

 「えっと……強いて言えば、笑顔が素敵な人かな」

 「それ〜私だ〜」

 「レオン様。うちはどうじゃ? ほらっ。ほらほら」

 「う、うん」


 なんだこれは。

 先程とあまりに違う雰囲気に思わず苦笑を浮かべてしまう。


 「じゃあ〜、冒険者になってから~依頼を一回も失敗しないで〜Sランクに上がったってのは〜本当ですか〜?」

 「うん。それは本当だよ。まぁ、誇れるほどのことじゃないけどね」

 「わ〜、謙虚〜」

 「……かっこいいのじゃ……流石レオン様……」


 何もかも絶賛してくれて悪い気分にはならないが、普通に照れる。

 俺はごほんっと咳払いをして、ポーカーフェイスを装った。


 「そういえば、フェルとポーラはなんでこの城に居るの?」

 「あ〜それは〜、私たちの魔法が〜少し特殊なので〜国に守ってもらってるんですよ〜」

 「そうなのじゃ。その代わり国の困った事をうちたちが解決してるのじゃ。まぁ、等価交換みたいなものじゃな」

 「なるほどね」


 嘘を見抜けて、モノを作り変えれる。

 とても便利な魔法だが、とても危ない魔法だ。

 その魔法欲しさに良からぬことを考える奴がいても不思議ではない。


 ん? 待てよ……?


 「あれ? ていうか、ポーラの魔法って嘘が見抜けるんだよね……?」

 「そ~ですよ~」

 「じゃあ、今回の件も知ってるの?」

 「もちろん〜。私たちはエルフが人間に〜復讐心を持たないのかを〜判断する役目があるんですよ〜」


 俺はポーラの言葉にポンっと手を打った。

 これならリリーナとエミリーの二人で判断するよりよっぽど効率的だ。


 ……国王もこれが分かってたのかもしれないな。


 そんな事を思いながら、俺はリリーナたちが帰ってくるまで、フェルとポーラの話をひたすら聞いたのだった。

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