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第67話 プロバンスの屋敷②


 それからエミリーたちが帰ってくるまで、何で場を繋げたのか全く覚えていない。

 とにかく必死であったということだけは覚えているのだが。


 「ただいま〜レオン」

 「おかえり! ずっと待ってたんだ!」


 俺の胸に飛び込んできたルナを抱きしめ、俺はやっとこの地獄から抜け出せたのだと安堵する。


 「レオンさん、レオンさん。このお屋敷凄かったです! 全部がキラキラしてて!」

 「そっかそっか。流石はリリーナだね」

 「うむ。喜んでくれたのなら見せた甲斐があるものだ」


 リリーナは胸を張って、ご満悦な表情を浮かべた。


 良かった……二人のお陰でリリーナの機嫌も少しは良くなってる。


 ゼオとエミリーは最初に座っていたソファの位置に座り直す。

 そして、ルナは俺の膝の上。

 その様子を見ていたレティナが隣の空いているソファをぽんぽんと叩いた。


 「ルナちゃんはこっちでしょ?」

 「ルナはここがいいー」

 「でも、レンくん少し体調悪そうだよ?」

 「えっ? レオン、辛いの?」


 あの……体調悪くなった原因はレティナだよ?


 そんなことは言えない俺は、こほんっと一つ咳払いをした。


 「いや、大丈夫だよ」

 「もう……ルナちゃんに甘いんだから……」

 「やったー! あのねあのね? エミリーってば三百歳くらいなんだって!」

 「ル、ルナちゃん!?」


 唐突な発言にエミリーが腰を浮かす。


 なるほど……三百歳か……ふむ。想像つかん。


 「そ、そうなんだ。それだけ歳を取っているのに、すごく綺麗だね。流石はエルフだ」

 「あ、ありがとう……ございます」

 「レンくん?」


 まずい。

 口からぽろりと出た言葉にレティナが反応する。


 「レ、レティナもそう思うでしょ?」

 「そうだけど……」

 「ね? ゼオは?」

 「うん。すごく綺麗」


 褒めるたびにエミリーの頬に赤みが増していく。


 あれ?

 そういえば……なんでエミリーはルナたちを見て泣いたのだろう。


 ふと思い出したその事を、俺は聞いてみることにした。


 「ねぇ、エミリー」

 「は、はい」

 「ルナとゼオに会った時、どうして泣いちゃったの?」

 「あっ……」


 何気なく聞いたその言葉に、エミリーの瞳が曇る。


 「先程はお騒がせしてすみません……同族に会うのは数百年振りで、もういつ会ったかなんて覚えてもいないほどでしたので……」


 エルフは人間に敗北して、西の森へと住処を変えた。

 人間の国に捕らえられたエルフたちは皆、奴隷になり人々からさげすむような眼差しを向けられる。


 そんなエミリーがルナとゼオに会えたのだ。

 驚きと感動で涙が出るなんて考えれば分かることだろう。


 聞くんじゃなかった。


 「……ごめん。エミリー」

 「い、いえいえ。私はプロバンス家に拾われたので、今はとても幸せですよ」


 その曇りのない笑顔に、俺はリリーナがどれだけ大切にエミリーを守ってきたかが見て取れた。

 だが、他のエルフはきっと違うのだろう。

 奴隷だからといってモノみたいに扱われ、あまりの辛さに自分で命を絶った者もいるんじゃないないだろうか。


 「……エミリー。辛い話になることが分かってるけど、聞きたいことがあるんだ」

 「はい」

 「もし奴隷解放によってエルフが自由になった時……その時にエルフが人間に対して復讐すると思う?」


 エミリーの喉がゴクリと何かを飲み込む。

 数秒の沈黙の後、エミリーはゆっくりと口を開いた。


 「する……かもしれませんね。私は人間にそういう感情は芽生えないですけど……他のエルフは……」


 ……だよね。


 国王がリリーナの提案を先延ばしにしていたのは、他の貴族の同意とかもそうだと思うが、人間に対して復讐をする者がいるかもしれないということを危惧していたんじゃないだろうか。


 「ふむ。その件についてなんだが……」


 俺とエミリーの会話にリリーナが横槍を入れる。


 「各国の奴隷であったエルフを選別する手筈だ。人間への恨みが薄い者から自由にさせる為にね」

 「それどうやって見分けるの?」

 「リーガル王国では占術師がいるそうでね。エルフの復讐を未然に防げる。マリン王国とランド王国のエルフたちは私とエミリーがこの目で見て判断する」


 う~ん。リーガル王国は分かるけど……


 俺は眉を顰めて顎を手で触る。


 「安心してください、レオンさん。リリーナちゃんの目は信用できますよ」

 「まぁ……それだけ自信に溢れているなら俺からは何も言わない。君たちを信じるよ」


 国王が俺だけの賛成で首を縦に振るとは思えない。

 エミリーが言ったように、国王もリリーナの目を信用に値するものだと考えているのだろう。


 だが……


 「復讐心を持っている者はどうなるの?」


 まるで完璧かに思われたその策の穴を突くような俺の言葉に、リリーナは肩を落とした。


 「それは申し訳ないが……保留だな」

 「保留?」

 「あぁ。奴隷のままということにはならないが、人々に危害が加えられないよう隔離した場所で生活させる」

 「なるほど……ね」


 あくまで優先すべき者は人間。

 リリーナの口から出た言葉はそれを指していた。


 エルフと人間との根深い確執。

 それを容易に消すということは難しいかもしれない。


 「はぁ……平和への道のりは長いね」

 「あぁ……だな」


 二人して項垂れていると、俺の膝で座っていたルナの首がこくりこくりと揺れていることに気づく。


 「ルナ眠い?」

 「…………うう……ん」

 「お姉ちゃんがこうなったら眠っちゃいますよ。レオンさん」

 「うん、そうだね。じゃあ、今日はこの辺で帰らせてもらうよ」

 「あぁ。またいつでも来るといい」


 俺はルナを抱っこして立ち上がる。


 「じゃあ、リリーナまたね。エミリーもまた今度、ルナとゼオを連れてくるよ」

 「うむ。また」

 「はい。楽しみにしていますね」


 レティナとゼオも立ち上がり軽く頭を下げて、歩き出した俺の後ろをついてくる。


 ルナとゼオも喜んでくれたし、レティナもなんだかんだ楽しそう……じゃなかったけど表情は明るい。


 俺たちはまだ地上を照らしている太陽の光を浴びて、拠点へと帰るのであった。







 それから五日後。

 プロバンス家から直接伝魔鳩(アラート)が届き、マリン王国に出立する日にちが決まった事を知らせてくれた。


 二日後の朝九時にプロバンス家の前で全員が集まるらしい。


 俺はその内容を知り、ベッドに倒れ込む。


 この生活もあと二日で終わりだ。

 ここ五日間の俺はまさに至福の時間を過ごしていた。

 好きな時に寝て、好きなことをして、好きな人と他愛のない話をする。

 まるで最近の忙しさが嘘のような毎日であった。


 「……とりあえず眠るか」


 一人でぼそっと呟いた俺は、そのまま瞼を閉じる。


 護衛といってもたかが知れてるだろう。

 野党や闇に潜む裏組織。そんな者たちがタイミングよくリリーナを狙ってくるとは思えない。

 まぁ、あって魔物が襲いかかってくるくらいだと思うが、それこそ周りにいる騎士たちがどうにかしてくれる筈だ。

 宿場町やプロバンス領を経由するのだから、昔こなした無策の依頼よりはよっぽどましな旅になると思う。


 考えれば考えるだけ安全な旅だと思った俺は、安心して眠りの中へと落ちるのであった。



























 これは夢だ。すぐに理解する。


 「生き物が死んじゃったらどこに行くんだろう?」

 「ん〜」


 幼き頃のレティナが僕の疑問に首を傾げている。


 「それはね、レンちゃん」


 僕の名前を呼んだ彼女を見ると、優しい表情を浮かべてふっと微笑んだ。


 「無になるんだよ」

 「……無?」

 「そう。空っぽの空間に死んだ人たちは入れられちゃうの。いい人も悪い人もみんなね?」

 「えぇ〜。それは怖いよ~」


 レティナが不安そうに僕の服の袖を掴む。


 「そうだね。だから、今生きている人たちは必死に生きて幸せを掴もうとしてるの。私だっておんなじだよ。レンちゃんとレティナが居てくれる今が幸せだもん。死んじゃった後にまた幸せになれるとは思えないな」



 ……あぁ。これって彼女が言ったんだっけ。

 ずっと思い出せなかったこの時の記憶。



 「でも、レティナはね? 死んじゃったとしても生まれ変わって、レンくんに会いたいよ? そうしたらずっと幸せだもん」

 「ふふっ。レティナは可愛いね」

 「僕はね? 天国と地獄があると思うんだ。いい人は天国で幸せに暮らして、悪い人は地獄で反省していると思う。違うかな?」

 「んー。どうだろう? 誰の予想が当たりか試してみる?」

 「えっ……?」

 「がぉぉぉぉお。レティナ食べちゃうぞ〜」

 「きゃぁ! レンくん助けて〜」

 「あははっ。レティナには手を出させないぞ〜」



 笑い合っている幼少期の俺たち。

 あまりに幸せで、何をするにしてもずっと一緒だと思っていた。


 レティナと俺と……□□□□



 □□□□



 □□□□





 なんで……


 なんで……思い出せないんだろう。












 はっとして目を覚ます。


 「はぁ……またか」


 もう太陽は沈んでいるのか、薄暗い部屋の中一人でため息をつく。


 「レンくんおはよ」

 「うわっ。びっくりした。レティナ……いつから居たの?」

 「う~んちょっと前からかな? それよりレンくんこっち向いて?」

 「ん?」


 すっと伸ばしてきた両手が俺の頬を包む。


 「また、おまじない?」

 「ふふっ。そうだよ」


 今回はどんなおまじないなんだろうか。

 頬を包んでいるレティナの手に俺は自分の手を重ねる。

 すると、ぽっかりと空いた穴が段々と癒されていくのを感じた。


 こうしていると安心するんだ。

 レティナがちゃんと側にいるって。


 「あっ、そうだ。マリン王国へ行く日にちが分かったんだ。みんなはいる?」

 「うん。じゃあ、ダイニングに集合させるね」


 手を離すとレティナはすっと立ち上がり、そのまま扉から出て行く。

 俺はその様子を見た後に、汗をかいた服を着替えダイニングへと足を運ぶのだった。



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