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第48話 帰路


 あれから俺たちは一日だけその場で寝泊まりをした。

 疲れ果てて眠ってしまったルナとゼオを、俺とカルロスがベッドまで運び、布団を被せる。

 その後は、ブラックをこの場所の近くに埋めてやった。

 報酬は我の身体と言っていたが、そんなもの受け取れるはずがない。


 ブラックが眠った事で隠蔽魔法も解かれ、この場所は誰でも見つけれる事ができるようになってしまった。

 だが、<迷いの森>はそもそも人が全く訪れないのだ。

 魔物も扉をこじ開けようとは考えないだろう。

 だから、この場所はいつまでも残り続けると思う。

 もし壊されたりしても、俺が元に戻すから全く問題がない。


 ルナとゼオよりも先に起きた俺たちは、いつも通りに朝食を作る。


 「なぁ、レオン。ルナとゼオをこれからどうするんだ?」

 「んーまずは、俺たちの拠点で一緒に暮らしてもらおうかと思ってるよ。今は誰かが側にいないといけないし、なによりブラックと約束したからね」

 「まぁ、だよな〜」


 カルロスが、んーと唸る。


 「あれ? カルロスは反対?」

 「いや、俺は構わん。だが、みんなを説得するのは大変だと思うぞ……?」

 「え? なんで?」

 「あの拠点は<魔の刻>の家だ。それをいきなり見ず知らずの子供を連れてきたって話になるとなぁ?」


 カルロスはなんとも言えない表情を浮かべながら、慣れた手つきで野菜を炒めている。


 そうは言っても、俺が言えばなんとかなると思うんだが……安直すぎるか……?


 「まぁ、とりあえずそれは拠点に着いてからだね」

 「おう」

 「じゃあ、もうそろそろできそうだし、二人とも起こしてくるよ」


 俺はカルロスにそう言うと、ルナとゼオの部屋に足を運ぶ。

 そして、扉をゆっくりと開け、寝息を立てている二人の肩を揺さぶった。


 「ルナ、ゼオ。朝だよ。起きて」


 すると、二人はむくりと身体を起き上がらせ、俺をぼーっと見つめる。


 「ん……レオン。おはよう……」

 「おはよぅっ……ございます」

 「うん、おはよう。着替えたらおいで。もう朝食できてるだろうから」


 それからキッチンにまた戻り、カルロスが作った朝食を大広間へと運んでいく。


 正直なところ不安しかなかった。


 また泣き出すんじゃないか。

 ブラックの件で塞ぎ込むんじゃないか。

 心が……壊れてしまっているんじゃないかと。


 そんなよくない想像が現実にならない事を祈りながら、二人が来るのを大広間で待った。


 「いただきます」


 ルナとゼオが部屋から出てきて、椅子に座ったところで食事を取る。


 「ブラックは……?」


 ブラックが居ないことに気づいたルナが、寂しげな目を向ける。


 「安らかに眠れるように埋葬しておいたよ」


 俺の言葉にルナは泣きそうな表情を浮かべるが、顔をぶるぶると振って笑顔を見せた。


 「そっか。天国までもういけたかな?」


 無理してるのが分かる。

 普段の笑顔と比べて、とてもぎこちないからだ。


 「うーん、まだじゃないかな? 天国って遠そうだから」

 「へーそうなんだ」


 ルナとの会話中にゼオをちらりと見たが、ゼオの表情はいつもと変わらなかった。

 別に黙っているということでもなく、普段通りにカルロスと喋っている。


 んー、これはどっちだろうか。


 一つは、ブラックが死んだことにまだ現実逃避をしているという事。

 もう一つは、ブラックに誓った言葉通り、ルナを守る為に強くあろうとしているという事。


 できれば後者であってほしいのだが。


 朝食を食べ終えた俺たちは、ルナとゼオに今後の事を話した。

 まずは王都ラードに向かう事。

 それと俺たちと一緒に暮らす事。

 冒険者の事は興味を持った時にまた話せばいいだろうと考え、今はこの二つの事を伝えた。

 もちろん二人は嫌がる事なく、その二つを受け入れてくれて、今は身支度を整え、転移魔法陣があった部屋から外へと出るところだ。


 「疲れたらおんぶしてあげるからいつでも言うんだよ。あと、三時間以上歩くから水分補給はしっかりするように」

 「はーい」

 「分かりました」


二人の返事を聞き、俺たちは王都に向けて出発する。

 数十分掛けて<迷いの森>を抜け、開けた道に出るとルナが口を開く。


 「ルナここまで歩いたの初めて」

 「そうなんだ? じゃあ、ここから先はルナの知らない世界って事だね」

 「……うん。レオン……ルナもう疲れた。おんぶしてほしい」

 「いいよ。ほら背中に掴まって」


 ルナは俺の背中に身を預ける。

 まだ数十分しか歩いていないが、ルナが歩き疲れたなら仕方ない。


 ……今のルナはきっと人肌恋しいのだろう。


 そう思うと、ルナを落ちないようにしっかり支えた俺は、ゼオに向けて口を開く。


 「じゃあ、行こうか。ゼオは大丈夫?」

 「うん!」


 それから三時間程、ゼオは俺やカルロスに頼る事なく歩き続けた。

 表情といい行動といい、俺が想像した事は後者のようでほっと胸を撫で下ろす。


 問題は背中で眠っているルナだ。

 精神が少し不安定なようで、王都に向かう最中、身体を震わして時より泣きじゃくっていた。



 王都ラードの門が目視で確認できた拍子に、カルロスに声を掛ける。


 「カルロスごめん。子供用の外套を買ってきてほしい。このまま入れば、目立っちゃうから」

 「おう、いいぜ。んじゃ、ちょっと待ってろ」


 カルロスは俺の言葉に了承すると、走って王都へと入っていく。

 その姿は周りの人がカルロスを二度見する程の速さだった。


 いや、あれはあれで目立つんだが……


 そこから数分。

 カルロスが帰ってくるまで木陰で一休みしていると、ふとゼオが遠慮がちに口を開いた。


 「あの……レオンさん」

 「ん? どうしたの?」

 「ルナの事……今はお願いします。まだ僕じゃ守りきれないから」


 ゼオは頭を下げた後、ルナを心配そうに見つめる。

 最初の印象とは真逆だ。

 これならもうルナが窮地に陥っても隠れるということはしないだろう。


 カルロスの指導のおかげかな。


 「うん。任せて」


 ゼオを安心させるように頭を撫でる。

 心地いい風が吹き、それを堪能していると、


 「おーいレオーン」


 カルロスが両手に小さい外套を持ちながら、腕をぶんぶんと振り、こちらに走ってきていた。


 ……カルロスには少し配慮というものを教えなくては。


 ルナとゼオに外套を着させ、俺たちは拠点へと足速に向かう。

 僅か半月程であったが、もう何年も帰ってないように思える。


 「なぁレオン。昨日のあれ……かなり騒ぎになってるみてぇだな」

 「うん。そうだね……」



 王都は普段の日常とは違い、警備隊や騎士団が多く徘徊していた。

 いつもは人通りが多い大通りも今日はやけに人が少ない。

 これも全てブラックが姿を見せた影響だろう。

 俺は深いため息を吐き、マスターになんて言い訳しようかと考えながら、帰路へと急ぐのだった。





 「ただいま〜」


 シーンと静まり返った拠点に俺の声だけが響く。

 みんなは依頼で留守か。


 「じゃあ、カルロス。ゼオに部屋の案内してあげて?」

 「ん? 部屋ってどの部屋だ?」

 「いや、一つ空いてるでしょ? あそこがルナとゼオの部屋にしようと思って」


 俺の言葉にカルロスが顎に触れて、何かを考える。


 「……いや、ゼオには俺の部屋を使わせる」

 「え? なんで?」

 「あそこは使えねぇ。レティナがキレるのもあるが、俺も同意できねぇ」


 レティナが怒る……?


 その部屋は開かずの間と俺は呼んでいる。

 それは何故か。

 <魔の刻>全員が俺だけ入ることを禁じたのだ。

 理由は一切不明。

 もちろん俺も 「異論あり!」 と異議を唱えたが、みんなの視線が真剣過ぎて、最終的に頷くことしかできなかった。

 だが、今はそうも言ってられない。

 ルナとゼオが暮らす部屋が無いのは、二人にとっても悪影響だ。

 気を休めれる場所を用意しなくてはいけないのにも関わらず、カルロスの表情を見る限り、首を縦に振るとは思えなかった。


 「ゼオはいいけど、ルナはどうするの?」

 「マリーかレティナの部屋で我慢するしかねぇな」

 「いや、カルロスさ……」


 カルロスもルナの不安定な精神状態を分かっている筈だ。

 なのに、ここまで折れない理由はなんなのだろう?


 「ゼオは俺の部屋でいいか?」

 「うん。僕はどこでもいいよ」

 「よしっ。なら、荷物置きに行くぞ」


 ゼオの頭をわしゃわしゃと撫でたカルロスは、二階へとゼオを連れて上っていく。


 「ちょ、カルロス! ルナは!?」

 「とりあえずレオンの部屋で寝かせとけ。お前も側にいてやれよ」


 うーん、まぁ今はそうするしかないか。

 あの部屋を俺が開ける事もできないしなぁ。


 物理的には開けれるのだが、みんなの気持ちを裏切ったみたいで気が引けた俺は、カルロスたちに続いてとぼとぼと自室に入っていくのだった。




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