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第45話 残された時間


 「レオン、朝だぞ起きろ」


 カルロスの声で目が覚める。

 まだ起きれていない体を起こし、ぼーとカルロスを見つめると、ゆっくり視界が晴れていく。

 眠気からつい欠伸が出て、俺はそのまま体を伸ばした。


 「ふぁぁあ……あぁ、カルロスおはよう。起きるのには少し早くない? まだ、誰も起きていないようだけど?」

 「二人で話がしたくてな。ちょっと面貸せ」


 カルロスが俺の返事を待たずに、転移魔法陣のある部屋へと歩みを進める。

 いきなりの事に思考が止まる俺。


 話ってなんかあったっけ……?

 二人で話す内容なんて昨日……あっ!!


 一瞬で眠気が覚め、カルロスの話というものがなんなのか察しがつく。


 スカーレッドの事、カルロスに話さないといけなかったんだ。

 昨日はルナとゼオが心配で、スカーレッドの件を後回しにしてたけど、まさかカルロスに言われて気づくとは。


 流石カルロスだ。敬意を込めてサスロスと呼ぼう。


 俺はいつも寝ていた部屋に普段着を取りに行く。

 そのまますぐに着替えた俺はサスロスのことを追いかけるのだった。



 「待って~サスロス~」

 「あ? なんだそれ」

 「いや、失敬。心の声が出ちゃった」

 「うぜぇからやめろ。どうせくだらねぇこと考えてたんだろ」


 う、うん。

 くだらない事だけど……もっと優しい言い方あるよね!?


 不機嫌な顔を見せるカルロスに、とりあえず謝っておく。


 「ごめんごめん。俺も話したいことあってさ、昨日はルナとゼオにつきっきりだったから助かったよ」

 「あぁ」


 カルロスが珍しく考え込むように、顎に手を当てている。

 きっと白い仮面の集団のことだろう。


 「昨日ゼオと指導を行っていたら奇妙な奴らに会ってな?」


 まぁ、そりゃその話だよね。


 「うん、それ俺のところにも来たんだよね」

 「はっ? 隠蔽魔法掛けられているあの部屋にか?」

 「そう。多分だけど、カルロスたちが出てきたのを確認されてたと思うよ。じゃなきゃ、的確にここまで来れないと思うし」

 「俺が気配も察知できなかったっつーことか?」

 「そうだと思う。一人だけ他の奴と違って、別次元の強さを持っている者がいたから」


 スカーレッド。

 あれは今まで<月の庭>から出された討伐依頼の中で、トップクラスの強さだった。


 「ちっ、いつ見られてたか知らねぇが、むかつくな」

 「そっちは陽動部隊って言ってたけど全員殺っちゃった?」

 「あぁ。あいつらゼオに手を出したからな。話を聞くことなく殺した」


 うむ。想像通りだな。


 「こっちもルナとブラックが居たからね……何も分からなかったんだけど……一つだけ引っかかることがあるんだ」

 「なんだ?」

 「赤仮面を付けているスカーレッドは俺の顔を見ることなくレオンって呼んだんだ」


 そう。あの時。


 (まぁまぁ、ちょっと落ち着いてよ。深淵のレオン)


 スカーレッドの位置からは俺は見えていなかったはずだ。

 会話の内容から俺の声は聞こえていたようだが、 「レオン」 と確信していたのが妙に引っかかる。


 ……俺が知っている人物か、一方的に相手が知っていただけか。


 「スカーレッドねぇ? 聞いたこともねぇし、もしそんなに強ぇ奴がいるなら俺が知らねぇわけがねぇな」

 「そうだよね……何か引っかかるんだけど」

 「てかよぉ……あの白い仮面の奴らって、商人を襲ってる奴らじゃねぇか?」

 「えっ?」




 ……


 ………


 …………俺はなんて間抜けなのだろう。


 カルロスに言われるまで、すっかり忘れていた。

 ポーションの価格高騰。

 ポーションの材料ホワイトフラワーをランド王国へと運ぶ商人が襲われる事件。

 マスターが言っていた犯人は、白い仮面の集団とのことだった。


 「……サスロス」

 「あぁ??」

 「いや、ごめん。聞かなかったことにして……って、あれ? カルロスって、いつその話聞いたの?」


 マスターにその件を話されたのは、レティナとのデート前だ。

 あの時はカルロスは居なかったはずだが。


 「そんなもん俺も聞いてるに決まってるだろ? 何かあれば情報がほしいって言われてたんだけどな……これマスターに俺たち怒られるわ」

 「いや、俺は巻き込まないでよ?」

 「いや、レオンも逃しただろ?」


 なるほど。

 いつの間にかカルロスも狡賢さを覚えたという事か。


 「まぁ、とりあえずスカーレッドの件は後でいいや。今はブラックたちのこと考えよう」

 「おう、そうだな。もうそろそろ起こしてやるか」


 スカーレッド、あいつは一体何者なんだろう。

 ミリカなら何か知っているかもしれない。

 拠点に帰ったら一目散で、ミリカに会いに行こう。

 ……いや、まずレティナが先だな。

 とりあえず癒されたい。



 カルロスと話し合った後、俺たちはルナとゼオを起こした。

 最近になって何度か見ている腫れた目に、少しだけ心を痛めるが、俺が悲しくなっては元も子もない。

 気持ちを切り替えた俺は、カルロスと一緒に朝食を作る。

 まぁ、作ると言ってもカルロスは一切俺に味付けなどを頼まない為、具材を切る手伝いだけ。

 今日から二日間はカルロスと俺がご飯当番だ。

 これは少しでもルナとゼオが、ブラックと居られるようにするための配慮。

 もちろん、ゼオの指導も一旦は止めである。


 「はい、朝食できたから椅子に座って〜」


 俺の言葉にルナとゼオが大人しく従う。

 ブラックは言葉を喋るのも辛いのだろう。

 昨日は真実を告げる為に沢山話した為か、今日はいつも以上に口数が少なかった。



 「それでね〜ブラックはあの時、凄かったんだよ!」


 朝食を食べ終えた後も二人は話し続ける。

 今この時を一秒たりとも無駄にしないように。


 「ブラックと初めて外に出て……ブラックが魔物を一掃したと?」

 「そうだよ! 僕は後ろにいてあんまり見れなかったけど、物凄く強そうな魔物だったんだ! きっとカルロスさんでも倒せないね」

 「あぁ? やってみねぇと分からねぇだろ? 俺は魔物なんかに負けた事一回もねぇからな」

 「え? そうなの? レオン」

 「うん、まぁね。カルロスだけじゃなく俺の仲間が負けてる姿は見たことないね」

 「へ〜! そうなんだ!」

 「まぁそれでもレオンには勝てる気がしねぇけどな」

 「レオンさんってそこまで強いんですか?」

 「めちゃくちゃ強ぇぞ? 多分この世界で一番な」

 「へ〜、カルロスさんがそこまで言うなんて」

 「じゃあ、ブラックとレオンってどっちが強い?」


 いや、そりゃもちろんブラックでしょ。

 昔討伐した邪龍も強かったけど、ブラックはそれ以上の邪龍だろう。

 魔法も行使でき、鱗を触った感覚としてはもはや岩である。


 「……我が……全盛期なら……」


 ルナの問いにブラックが重い口を開く。


 「……五分五分だろうな」


 ……えっ?

 いやいや、俺のこと過大評価しすぎじゃない?


 「えぇ!? レオン凄い! ブラックからそんな事言われるなんて!」


 ルナがキラキラした瞳を向けてくる。

 今はきっと黒絶病のことを忘れているのだろう。

 悲しい顔を見たくない俺にとっては凄く嬉しいことだが、俺のことを持ち上げすぎているブラックになんとも言えない気持ちになる。


 「いや、俺の見立てだとブラック……てめぇは負けるぞ?」

 「カルロスさん、ブラックは凄く強いよ?」

 「知ってるつーの。でもな、全盛期のお前じゃ守るものがいねぇだろ? レオンはいつだっていんだよ。だから、五分五分の勝負にはなんねぇ」


 カルロス……もう止めよ?

 流石の俺でも恥ずかしいんだけど。

 そういうのは当人がいない所で話すんだよ。


 「でもな……?」


 俺の気持ちが届かないのか、カルロスは一呼吸置いて、ニカっと気持ちよく笑った。


 「守るべき奴がいた数年前なら五分五分だったかもしれねぇな」


 その言葉の真意を読み取ったのか、ルナとゼオはぱぁと花ひらくような笑顔を見せた。


 「ブラック~!」

 「流石ブラック!」


 二人がブラックに抱きつく。

 そんな無邪気な光景に、思わず俺も笑みが溢れた。




 それから俺たちはブラックの近くで沢山の会話をした。

 ブラックは時より声を発するが、それ以外は頷いたり瞳を閉じたりしているだけだった。


 時間は無限ではなく有限である。

 二十四時間のうち、ルナとゼオの睡眠時間は約三分の一程。

 それ以外の殆どの時間をルナとゼオはブラックと過ごした。

 もちろん俺とカルロスもその場に居てあげた。

 話は一向に途切れずに、昔の思い出だったりを俺たちに話してくれるルナとゼオ。

 俺はそんな二人の話に耳を傾けて、まるで永遠とも呼べる幸せな時間を堪能するのであった。



 そして……今日が終わる。


 「じゃあ、おやすみ。ルナ、ゼオ」

 「……うん……おやすみ」

 「……おやすみなさい」


 二人がまだ話し足りないという表情を浮かべている中、ブラックの灯り(ライト)がぱっと消される。


 「……うっうっ……」


 隣で眠っているルナは堪えきれずに、布団の中で泣きじゃくってるようだった。


 「……ルナ」

 「……っ……なにっ?」


 布団から顔すらも出さずに返事をするルナ。


 「こっちに来てもいいよ。ブラックと一緒に寝たら、風邪ひいちゃうかもしれないから……俺なんかで申し訳ないけど」


 その言葉にルナはもぞもぞと布団から出て、俺の布団に入り込む。


 「……あったかい」

 「ルナが寂しくなったらいつでも来ていいから」


 俺のお腹を抱きしめているルナの頭を撫で、瞳を閉じる。


 明日がブラックと居られる最後の時間。

 今日と同じようにルナたちはブラックに話しかけ続けるんだろう。

 そして最後に俺が……


 想像しただけで心が張り裂ける思いを抱く。


 本当はそんな事したくない。

 短い間だったが一緒に過ごした……もう仲間だ。

 その仲間を自分の手で殺めるなんて……


 思わずため息が漏れる。

 狂うという事が無ければ、ルナとゼオはもっとブラックと一緒に居られたはずなのに。


 「……うっ……うぅ……」


 ルナが嗚咽している。

 俺はそんなルナが落ち着いて眠れるまで、ずっと頭を撫でるのであった。


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