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第42話 剣のネックレス


 「ブラック……その……ごめんなさい」


 ルナと一緒に大広間へと帰った。

 まだ食べ終えてない朝食は丸いテーブルの上にあり、カルロスとゼオ、ブラックも変わらずそこに居た。


 「ブラック、俺の方からも謝るよ。気を悪くしないでほしい」


 ルナと二人で頭を下げる。

 ブラックは温厚だ。

 気を悪くするはずがない。


 「うむ。気にしておらぬ……ルナ、すまなかった」

 「……うん」


 まだ引きずっているのだろう。

 ルナはブラックと目を合わせることができずに、俺の手をぎゅっと強く握りしめる。


 「とりあえず、朝食を食べようか。ルナ」

 「……うん」


 気まずい空気のまま俺たちは朝食を食べる。

 ルナがずっと手を離さないので、俺は利き手じゃない左手でカルロスが作った肉巻きキャベツを頬張る。

 食べている料理は美味しいはずなのに、今は何も味がしなかった。


 朝食を食べ終えた俺は、箸があまり進んでいないルナに話しかける。


 「ルナ。美味しい?」

 「……うん」

 「まだ悲しい……よね」

 「……っ……っうん」


 俺の言葉でまた思い出したのか、ルナの声が震える。


 「ルナ……一ついい?」

 「……?」

 「俺もね、昔……とても悲しい事があった気がするんだ」


 俺がそう言い終わると同時に、箸が落ちる音が聞こえた。

 ルナの方からではない。

 俺は不思議に思い周りを見回すと、カルロスが口を開けながら信じられないといった表情を浮かべている。


 なんでカルロスが驚いてるんだ?


 まぁ、話を進めよう。


 「でも、どんな事だったか覚えてない。とても悲しい事だったはずなのに……おかしいよね」

 「それはっ……どうやって忘れたの?」

 「多分……仲間のお陰かな」

 「……なかま?」

 「うん。とても悲しい事があったら、周りの人を頼るんだ。ルナが好きなゼオやブラック、もちろん俺やカルロスでもいい。周りの人がルナの助けになってくれるんだよ」


 正直……俺が言葉にした悲しい体験は本当にあったか定かではない。

 でも、確実に言える。

 どんなに辛い事でもきっと仲間がいれば解決するはずだって。

 俺はそう信じている。


 「ルナも……頼っていいの……かな?」

 「当たり前だよ。二人の顔見て? ブラックもゼオも心配してる。それだけルナが大切ってことなんだ。だからさ、今は辛いだろうけどみんなと一緒に乗り越えていこうね」

 「……うんっ…うんっ!」


 ルナは席を立ち、タッタッタとブラックに抱きついた。

 ゼオもルナの後に続いて、ルナを後ろから抱きしめる。

 三人が寄り添い合うその姿は、とても尊いものを感じた。


 「お、おい……レ、レオン」


 不意に掛けられた声に、俺はカルロスを見る。


 「どうしたの? そんな驚いた顔して」

 「……お……前………さっきのなんだ?」


 明らかにいつものカルロスではない。

 顔は青ざめ、唇は少し震えている。


 「カルロス……? 顔色悪いよ。大丈夫?」

 「……質問に答えろ」

 「え? さっきのって悲しい事の話?」

 「あ、あぁ……」

 「ん~、なんか本当に覚えてないんだけど、死にたいと思う程悲しい事があったような気するなって。でも、みんながいたからそんな事も忘れちゃったのかな」


 質問の答えに不服なのか、カルロスは俺を見定めるような目線を向けてくる。


 そして、訳もわからない事を口走った。






 「レオン……<血塗れ>を覚えてるか?」











 <血塗れ>……?













 ザザザザッ














 ノイズが走る。




 「ぐっ」

 「!? おい! レオン!」


 またか……よ……


 ザザザザッ


 激痛で思わず、椅子から転げ落ちてしまう。


 「レオン!? しっかり……しろ……レ……オ……



 カルロスの声が段々と遠のいていく。


 ザザザザッ


 痛い痛い。なんだこれは……


 たし……か……シャルの……とき……も……




 何かを思い出そうとした途端、プツンと俺の視界が真っ暗になった。


















 これは夢だ。すぐに理解する。


 「もう……生きて帰ってこないんじゃ……」


 うっうっと嗚咽をさせて、レティナのお母さんが泣いている。

 どうして泣いてるのか僕には分かった。

 レティナと□□□□が三日間、家に帰ってこないのだ。

 村中の人が辺り一面を探し回ったが、二人の気配さえ無かった。

 僕も泣きそうになるのを堪えながら、唇を噛む。


 あの二人が死ぬ訳ないんだ。

 だって……二人を守るために僕は毎日、頑張っているから。

 剣を何千回と振ったり、闇魔法の特訓をしたり。


 だから……早く帰ってきてほしい。

 二人の顔が見たいのに……


 (…………せ)


 何かおぞましい声が聞こえたその時だった。


 「おい!! あそこ見ろ!!」


 遠くの方で誰かが騒いでいる。

 すぐに僕は向かった。

 あの二人である事を信じて。


 騒ぎの近くまで行き、指を指している方向に目線を向ける。


 レティナと□□□□だ!!!!


 二人は手を繋いで、僕に手を振っている。

 衣服はぼろぼろで汚れており、それでも怪我をしてないのが遠目からでも分かった。


 その姿を見た僕は一目散に二人のところへ駆けつける。

 そして、ぼろぼろの二人を強く抱きしめた。


 「えっ!? レ、レンくん?」

 「わっ、どうしたの? レンちゃん」

 「ど、どうしたもこうしたもないよ!!! 二人のバカ! どこに行ってたの!?」


 僕は必死だったんだ。

 何日も二人に会えない時間が、ずっと続くんじゃないかって。


 「えへへ……レンくんに渡したい物があって買ってきたの!」

 「ちょっとレティナのバカ! それはレンちゃんがびっくりするように、もっと後でって言ったのに……はぁ……」

 「あっ……忘れてた」


 二人は僕の腕の中で、訳も分からない話をする。

 ……なんか嫌だ。


 「……ずっと一緒にいてよ。離れないで……もう僕のところからいなくならないで。僕が……二人を守るから」

 「うん……レンくん……心配かけてごめんね」

 「ごめん……レンちゃん。でも、凄くかっこよくなったね」


 僕の言葉に頷いた二人を離す。

 二人の笑顔を見ると、この三日間ずっと不安だった僕の心が、すぅと透き通っていくのを感じた。


 「じゃあ、これ! レンくんに!」

 「あっ、ずるいレティナ! それはじゃんけんって言ったのに!」


 レティナは衣嚢をごそこぞと探り、手の平にある物を乗せて僕に差し出してくる。


 「これは……?」

 「レンちゃんがさぼらずに修練してるから買ってきたの。これはお守り。私たちをちゃんと守ってくれるようにって願いと、レンちゃんがずっと元気にいられますようにって」

 「お姉ちゃん、それはレティナが言っていいよ……って言ったのに」

 「だって、レティナはそのお守り渡したでしょ?」

 「むぅ」


 それは剣のネックレスだった。

 僕の首に掛けるには、少し大きいくらい。

 でも……二人が三日間いなくなった理由が僕の為だったと知って、すごく嬉しい気持ちになる。


 「ありがとう。ずっと大切にするね! レティナ! それと……



 何度も呼んでいるはずなのに何故か聞こえない。

 俺の声にも関わらず。


 ねぇ……君は誰なの?

 

 満面の笑みを浮かべている名前も知らぬ女の子をまた抱きしめる。


 なんで……思い出せないんだ。

 この子の名前。


 とても大切な子なんだ。一生を懸けて守り抜きたいと思ったんだ。


 その為に、俺は修練を重ねた。

 誰よりも強くなって、何が来ても払い除けられる強さを持ちたくて。


 でも、何故……今、君はいないんだ。















 はっとして目を覚ます。

 自室のベッドではない。


 ここは……そうか……あれから頭が痛くなって気を失ったんだっけ。


 ベッドから上半身だけ起こし、辺りを見る。


 カルロスはいない。今何時だ?


 俺はおぼつかない足取りで大広間へと足を運んだ。


 「ブラック、今何時?」

 「レオン、起きたのか。今は夕方の五時だ」

 「えっ!?」


 大きな置時計に思わず視線を向ける。


 いや、どれだけ寝てたの俺。

 確か……ルナを慰めて、三人が寄り添い合ったのは覚えている。

 そして、カルロスと何か話していたような気がするんだけど……思い出せないな。


 「ブラック。カルロスは? 指導?」

 「うむ」

 「なるほど。ルナは今部屋で眠ってるの?」

 「そうだ」


 指導なら仕方がない。

 カルロスには後で聞くことにしよう。


 「ルナとは仲直りできた?」

 「……あぁ。まだ多少引きずってはおるものの……これもレオンのお陰だ。本当に感謝する」

 「いや、頭下げないでよ。とりあえず仲直りできて良かった。少しルナの様子見てくるね」


 ブラックが頷き、俺はルナの部屋へと向かう。

 そして、扉をゆっくり開け、ベッドで寝ているルナに近寄った。

 すぅすぅと寝息を立てているルナは、泣いたためか目が少し腫れていた。

 俺が頭を優しく撫でると、ルナは少し反応を示してゆっくりと瞼を開けた。


 「あっ、ごめん。起こしちゃったか」

 「うう……ん。だいじょうぶ」

 「あんまり目を擦らない方がいいよ。もっと腫れちゃうから」


 俺の言葉通りにルナは目を擦るのを止めて、こちらを見つめる。

 俺はルナの頭から手を離すと、ルナは俺の手を取り、再び自分の頭に乗せた。


 「……もっと撫でて」


 その行動にシャルを思い出す。

 <金の翼>の指導から一か月半程経つけど、元気にやっているだろうか。

 今度俺の方からも訪ねてみようかな。


 そんな事を思いながらルナの頭を撫でていると、転移魔法陣の扉が開いた音がした。


 カルロスとゼオかな。


 「ルナ、二人が帰ってきたみたいだから一緒にお出迎えしようか」

 「うん!」


 ルナの表情は少しだけ明るくなっているような気がする。

 ブラックが言ったように多少引きずってはいるものの、今朝とは違う表情のルナの手を取り、俺たちは二人を迎えに行くのだった。





 時刻は午後十一時。

 ゼオとルナが寝た後に大広間に残った俺は、槍の手入れをしているカルロスに気になっている事を聞く。


 「カルロス。今朝話した内容って覚えてる?」

 「あぁ」

 「俺たちなんの話してたっけ?」


 カルロスが俺の言葉を聞いて、槍の手入れをしていた手が止まった。


 「……なるほどな。そりゃすげぇわ……こんなにも強いなんて……誰が思うかよ。ばーか」

 「カルロス……?」


 俺に向けて言ったわけじゃないってことは分かる。

 だが、それだけしか分からない。

 誰に向けて言ってるのかも、何の話をしているのかも俺には理解ができなかった。


 「……レオン。お前はそのままでいんだよ……そう全員が思ってる。だから、余計な事考えんじゃねぇ」


 ふっと寂しく笑ったカルロスは、再び槍の手入れを開始する。

 俺はこれ以上何も聞くなというカルロスの行動に、口を噤むしかなかった。


 今日もいつも通りに夜が更けていく。

 だが、いつもと違って俺だけは時が止まっているような感じがしたのだった。


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