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第41話 真実②


 ゼオが泣き止んだ後、お風呂を上がった俺たちはそのまま夕食を取った。

 ゼオの目が充血していたのをルナが気づき、俺が何かしたのではないかと責められたが、何とか言い訳をして誤魔化した。


 午後十時過ぎ。

 ゼオにだけ話があるとルナに伝え、ルナを部屋まで送る。

 その時に、 「ルナも一緒に居たいのに……」 と寂しげな表情をしていたので、俺はそのままルナが寝付くまで一緒に居てあげた。


 ルナの寝息が聞こえるまで、時間にして一時間程だろうか。

 俺が大広間へと行くと大体の話が終わったのか、ゼオは泣き腫らした顔になっていた。


 「ルナはちゃんと寝たよ」

 「あぁ、すまぬ」

 「ゼオ……一緒に聞くって言ったのに約束守れなくてごめん」

 「ううん。僕が聞いちゃったから。レオンさん、ありがとうございます。あと、カルロスさんも……一緒に居てくれてありがとうございました」


 もう涙は乾いており、ゼオは俺たちに向けて笑顔を浮かべる。


 「別にそんなこといい。お前は自分のことだけ考えてろ」


 カルロスがゼオのことを真剣な表情で見つめる。

 彼なりに心配しているのだろう。


 「……僕ね、お父さんとお母さんはもういないって分かって……すごく悲しかったけど……でもね?」


 みんながゼオの言葉を聞いている。

 すると、ゼオは何か吹っ切れたのか満面の笑顔を浮かべた。














 「僕はブラックが側に居てくれるだけでいいんだ」








 何も言えなかった。

 だって……そのブラックも。



 とてつもない悲しさが込み上げる。


 俺は神様が居ると信じている人間だ。

 だって、天国と地獄という場所を作るのに神様は必要だから。

 天国では善人が幸せに暮らし、地獄では罪人が苦しい思いをしている。

 ただ、今この時だけは……本当は神様なんて居ないんじゃないかと思ってしまう。


 ルナとゼオ。

 何もしてない二人が血の繋がった両親を失い、その上でお父さんと思っているブラックさえも失う。


 そんなの……あまりにも理不尽だろ。


 この笑顔がまた泣き崩れてしまうと考えただけで、心が張り裂けそうな思いを抱いた。


 「感謝する、ゼオ。我もルナとゼオが居てくれて、本当に良かった」


 ブラックが優しく微笑む。

 その顔を見て、ゼオはブラックに抱きついた。


 「ブラック……明日はルナに真実を話そう。もう先延ばしにしてはいけないと……思う」


 俺は精一杯真剣な表情を装う。


 「うむ、そうしよう。レオンもカルロスも……すまぬ」

 「別にいい。気にすんな」


 カルロスは霧で見えない天井を見上げながら、返事をした。

 明日にはルナに伝えないといけない。

 その後、ルナにどのように真実を告げるかをカルロスと俺、ブラックで話し合った。

 ゼオは話を聞いてる途中で眠くなってきたのか、カルロスがそれを見て抱っこし、ベッドまで連れて行った。


 話し合いが終わると俺たちも寝床に入る。

 明日のことを考えると気が滅入るが、俺が参るわけにはいかない。

 一番辛いのはあの三人なんだから。


 瞼が重くなり、俺はそのまま眠りにつくのだった。







 朝になり目を覚ます。

 起き上がると隣のベッドで寝ているはずのカルロスがいなかった。

 寝巻きから普段着に着替えて大広間へと向かう。

 朝食のいい匂いがして、思わずお腹が鳴った。


 「ブラックおはよう」

 「あぁ……おはよう」


 ブラックの元気が昨日よりないように見える。

 きっと今日のことを考えて、あまり寝つけなかったのかもしれない。


 「大丈夫?」

 「うむ。カルロスが朝食を作ってくれておる。行ってこい」


 人に心配されるのが嫌いなのだろうか。

 少し冷めた口調で言ったその言葉に俺は頷き、キッチンへと顔を出す。


 「おはよう。カルロス。早いね」

 「はよー。まぁ、目覚めちまったからな」


 カルロスは手慣れてるのか、肉と野菜を炒めていた。


 「あれ? ていうか、ブラックが外にいけなくなって、三ヶ月はするよね? 食料ってどーしてるんだろ?」

 「あぁ。さっき言ってたが、病に伏せる前にありったけの食料を氷魔法で凍結させて、貯蔵していたらしいぞ?」

 「なるほどね。俺たちが食べても問題ない量ある?」

 「あぁ、問題ねぇ。カーテンの後ろ側見てみろ」


 俺はカルロスが料理している後ろ側を通り、カーテンを開ける。

 そこには五人が朝昼晩の三食を食べても、一ヶ月以上食事が困らないような食料がみっちり詰め込まれていた。

 ちなみに龍は身体を動かさない限り、あまりお腹は減らないらしく、眠りについて数十年経っていたなんてのはよくある話だ。


 「じゃあ、俺は少し早いけどルナとゼオ起こしてくるよ。もうすぐできるよね?」

 「あぁ、頼む」


 俺はキッチンから出て、ゼオとルナを起こしに行く。


 「ルナ、ゼオ。起きて。朝だよ」


 俺の言葉にんーと身体を伸ばし、起き上がるルナ。

 ゼオの方は、昨日腫れていた目を擦りながら、俺をぼーと見つめている。


 「おはよう。朝食もうできるから早くおいで」

 「おはよ〜。分かったー」

 「分かりました」


 二人の部屋を出て、俺はカルロスの手伝いをした。

 まぁ手伝うって言っても料理を運ぶだけだが。


 「じゃあ、いただきます」


 みんなが各々食事を取り始める。


 「あれ〜? お父さんとお母さんはもう先に行ったの?」


 ルナの言葉に全員の箸が止まる。


 「……あぁ。ルナその事なんだが……大切な話があるのだ」


 ブラックは昨日話していた内容通りに、事を進めようと切り出した。


 「大切な話って?」


 ルナはカルロスが作った朝食を食べながら、ブラックを見つめる。


 「まずは……これを見よ」


 ブラックの隣に二人の幻影が現れる。

 それは十年間一緒に過ごしてきた両親であった。


 ルナはいきなり現れた両親の姿を見て、目をぱちくりさせている。

、 

 「この二人は……ルナの両親ではないのだ。これは我が作った幻影。ルナの両親は十年前にもう死んでおる」

 「……えっ? な、何言ってるの? ブラック」


 ブラックはルナの疑問に答えることなく、真剣に見つめる。

 いつもと様子が違うブラックの表情は、話の深刻さを物語っていた。


 「?? ねぇねぇレオン。ブラックが変なこと言ってるよ?」


 俺の袖を掴んだルナは未だに理解ができないのだろう。

 その姿に胸が痛くなる。

 だが、今はルナに現実を受け止めてもらわなくてはいけない。


 「ルナ。ブラックの話を聞いてあげて」

 「? ブラックの幻影魔法でしょ? それはルナ知ってるよ? 昔見せてもらったもん」

 「ルナよ……この両親はその幻影魔法なのだ」


 隣にいた両親の幻影が、すぅっと空気に溶けるように消えた。


 「どう……いうこと? お父さんとお母さんが幻影?」

 「あぁ、そうだ。十年前にこの<迷いの森>に来たルナとゼオの両親は、我が駆けつけた時には……もうすでに死んでおったのだ」


 ルナは俺やカルロス、ゼオを見回す。

 誰もブラックの言葉に横槍を入れなかった。

 だって、それが真実なのだから。


 「なに……っ言ってるの? ルナ、分かんないっ……なんでみんなは何も言わないのっ?」


 段々と現実味を帯びてきたのか、ルナの声が震えていく。

 みんながルナを一点に見つめ、不安に駆られたルナの瞳が滲んでいった。


 「ルナ……」


 俺の言葉にルナは、ビクッと反応し見上げる。

 見上げた拍子にルナの瞳から一筋の涙が溢れ落ちた。


 「レオ……っン? これは……どうっいうこと? ルナの……お父さんと……っお母さんは?」

 「もう……居ないんだ」

 「う、嘘……っだよね? ……ゼオ? 何か言ってよ」

 「お姉ちゃ……っん」


 ゼオは首をふるふると振って、涙を堪えていた。


 「嘘だっ……っ……こんなの嘘だ!」


 不安で我慢ができなくなったのか、ルナは突然立ち上がりテーブルを両手で叩いた。


 「嘘ではあらぬ。これが真実なのだ。昨日ゼオにも話をした」

 「そんなの……っルナ信じない。ブラックも言ったよね!? ルナと……っゼオには嘘つかないって」

 「あぁ……言ったな。だが、これが真実だ」

 「ブラックは……っルナのこと騙してたの!?」


 先程の不安な表情は消し飛び、ルナはブラックを睨みつけている。


 「……ルナ、ブラックは騙していたんじゃない。ルナとゼオのことを思って黙っていたんだ」


 ブラックは言っていた。

 龍である自分が子供育てることができるのだろうか。怖がられないだろうか。と

 それは本心で、全てはルナとゼオの為であった。

 両親を赤子の頃に亡くし、ブラックが育てなければ二人は間違いなく死んでいた。

 自分を怖がられたりなんてしたら、それこそ育てることなんてできるわけがない。


 ブラックが悪いわけがない。

 愛情を一心に注いできたブラックを悪いという奴がいるなら、俺がぶん殴ってやる。


 ただ、ルナは両親が幻影であるという唐突な真実を受け入れられないのだろう。


 感情が理性が……思ってもないことをブラックに告げた。


 「ブラックの嘘つき!!! だいきっらい!! 十年間もルナたちの事騙してたんだっ! きらい! きらい! ブラックなんて……お父さんとお母さんみたいに……




 死んじゃえばいいんだ!」


 その言葉にブラックは大きく目を見開く。

 そして、悲しく微笑んだ。


 「あっ……」


 その様子を見たルナは両手で口元を押さえ、身体を大きく震わせる。


 「お、お姉ちゃんっ!」

 「ゼ、オは黙ってて! 嘘つきと一緒になんて……も、もうルナ暮らしたくないっ!」


 そのままルナが転移魔法陣のある扉へと走り出す。


 「お、おい! ルナ! 外は危ねぇから帰ってこい!」


 カルロスの言葉を無視し、ルナは扉を開けて出て行く。

 外はルナ一人じゃとても危険だ。

 魔物に襲われたら一溜まりもないだろう。


 「俺が追いかけるよ。みんなは少し待ってて」


 俺は腰を上げ、ルナを追いかける。

 転移魔法陣の部屋から外へと出るとルナの背中が見えた。


 俺は一瞬でルナとの距離を詰め、目の前に立ちはだかる。

 ルナは突然現れた俺にびっくりしていたが、すぐに表情を変え睨みつけた。


 「ルナ。落ち着いて? ここは危険なんだ」

 「どいて!」

 「どかない」

 「!! どいて!」

 「どかないよ」

 「っ……ど……いて」

 「……」

 「……どい……てっ……どい……てよっ……うっ……うぅ……」

 「ルナ……一緒に帰ろう? みんな心配してるから。俺ももちろん……ブラックも」


 俺は膝を地面につけ、ルナに向けて手を差し伸べる。


 「……うっ……うっ……うわぁぁぁぁぁん」


 その場にへたり込み、ルナは大きな声で泣いた。

 俺はそんなルナを抱きしめ、落ち着かせるように背中をさする。


 こんな小さな身体なのに……受け入れる真実が大きすぎる。


 数分間、ルナは泣き止むことはなかった。

 あまりにも悲しいルナの泣き声が、<迷いの森>に響き渡る。

 その泣き声に釣られたのか、死虎(デッドタイガー)死霊(デッドスピリット)が襲いにかかってきたが、ルナに気づかれないように処理をした。


 「レオ……っン。ルナ、ブラックに……っひどっ……いこと……いっちゃったの」

 「うん。後で一緒に謝ろうね」

 「許して……っくれるかな?」

 「もちろん。ブラックはいつでも優しいでしょ?」

 「……うんっ……うん……っ」


 ルナは泣きじゃくりながらコクコクと頷いた。


 両親が幻影。

 そんな夢物語を聞かせられているような話を、ルナは受け入れるしかなかった。


 これは……まずいかもしれない。


 俺は霧で覆われている空を見上げる。

 両親がもう亡くなっているという話は、この先引きずるはずだ。

 それが何ヶ月か何年かは分からない。

 少なくとも半月で忘れるようなことではない。

 それに加えて、ブラックの黒絶病を話してしまったら……本当に壊れてしまうかもしれない。


 両親が幻影だと確信したゼオは、ブラックが病に侵されてからだと言った。

 その前にも薄々気づいていたんだろう。

 だから、傷は浅くすんだ。

 だが、これは……


 俺は小さな身体を少しだけ強く抱きしめる。

 壊れないように、この先の真実をどうか耐えられますようにと願いを込めて。


 「もう大丈夫?」

 「……っうん」


 ルナは立ち上がり、俺はその手を引く。

 周りの魔物の死骸には驚いていたけれど、何も聞いてはこなかった。


 さて……とりあえずブラックに謝りに行くか。


 俺たちは二人で、まだ悲しい真実が待ち受けている場所へと、手を繋いで戻ったのだった。

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