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第39話 始まり


 「おはようブラック」

 「はよー」

 「あぁ、おはよう」


 ルナとゼオが起きる前に、俺たちは起床し大広間へと足を運ぶ。

 幻影の部屋で寝ていたことを二人に知られたら、疑問が生まれるからだ。


 「じゃあ、飯作ってくるわ」


 カルロスがそう口にして、キッチンへと一人で向かう。

 ただ作ってもらうだけじゃ申し訳ないので、俺はできるだけ邪魔しないように朝食の手伝いをしながら時間を潰した。



 それから一時間ほど経っただろうか。


 「ふぁ。おはよ〜」

 「おはよう」


 二人が起きてきて、そのまま丸いテーブルにちょこんと座る。


 ちなみに丸いテーブルと椅子はキッチンにあり、ブラックと一緒に食べたいからという可愛らしい理由で、毎日ルナとゼオがこの大広間まで持ってくるらしい。

 まぁ、今日からこの役目は俺の仕事になるだろう。


 みんなが集まったところで食事を取る。

 ブラックが作った幻影の両親、カルロスと俺、ルナとゼオの六人で丸いテーブルを囲み、ブラックが近くに座っている構図だ。


 「おい。小僧。今日から指導を始めるからな。ここから出て外に行く」

 「う、うん。でも……ブラックいいの?」

 「うむ、カルロスが一緒ならば構わない。ゼオ、必ず外ではカルロスの言うことを聞くのだぞ」

 「うん!!」


 ゼオはブラックの返答に、嬉しそうな顔をする。

 すると、


 「ゼオだけずるい! ルナもお外に行きたーい!」


 ルナは羨ましいのか、そう言って立ち上がった。


 流石子供だ。元気すぎる。


 俺がルナの立場だったら、外に行くなんて面倒臭いことは、絶対に言わないだろう。


 「ルナはこの部屋で俺と一緒に遊ぼうよ」

 「えぇ〜。お外なんて滅多に行けないもん。ルナも行きたい!」


 ん? 外に行けないって…?


 ルナの言葉に俺はブラックに視線を移す。


 「うむ。ルナとゼオには外に行くことを禁止しているのだ。魔物がいつ襲ってくるかも分からんのでな」

 「なるほどね。それは仕方ないか」


 ここは街でも村でもなく、<迷いの森>の中だ。

 外で遊ばせるなんて危険すぎることは今まであまりできなかったということか。


 「ルナ、いい加減にしなさい。レオンさんとカルロスさんを困らせるんじゃないの」


 お母さんの幻影がルナを叱る。

 俺にはこれが幻影だということは分かるが、身振り手振りや言葉遣いそのあまりにも違和感ないこの姿を、ルナとゼオが本当の親と錯覚するのは当然だろう。

 お父さんの幻影の方もそうだ、と首を縦に振っている。

 これがブラックの幻影魔法。

 正直なところ感心するが、ルナとゼオのことを考えると胸に針が刺さるような痛みを感じた。


 「はーい」


 ルナはまだ何か言いたげであったが、それ以上ごねることなく椅子に再び腰を下ろし、朝食を食べ始めた。


 みんなが朝食を食べ終え、幻影の両親が腰を上げる。


 「じゃあ、行ってくる」

 「いい子でいるのよ。ルナ、ゼオ」

 「うん!」

 「分かったよ!」


 転移魔法陣のある部屋に幻影の両親が向かう。

 そのお見送りとして、ルナとゼオは扉の前まで一緒についていった。


 ぱたんと扉が閉まる音と共に、


 「ていうか、ブラック……ここは転移でしか来れない場所なの?」


 ルナとゼオに気づかれない声でブラックに質問する。


 「いや、あの先には人間用の出入り口がある。我はあの大きな扉が出入り口だ」


 ブラックは真ん中の扉に視線を向けてそう答える。


 ふむ。

 なら、幻影のためにわざわざ転移魔法を行使する必要もないってことか。


 そう思っていると、カルロスがふと腰を上げた。


 「じゃあ、俺たちも行ってくるわ」

 「怪我だけは気をつけてね。ポーションはあるけど、無限じゃないんだから」

 「わーったよ」


 そのままカルロスとゼオも出ていった為、俺は朝食の後片付けをルナと一緒にすることとなった。


 「ルナの魔法ってどの属性が使えるの?」

 「属性?」

 「そう。炎 水 風 雷 白 聖 これが一般的な基本魔法なんだけど、その人その人で扱える魔法に個人差があるんだよ」

 「へ~。ルナは白と水が使えないってブラックが言ってたよ?」

 「えっ!?」


 ルナの言葉に思わず驚きの声を上げる。


 四属性持ちとか才能の塊じゃないか。

 エルフという種族なだけに人間とは違って、これが普通なのか?


 驚いている俺に対して、ルナは首を傾げている。


 「……レティナも無理矢理来させればよかったな」

 「レティナって?」

 「俺の大切な仲間だよ。ルナと同じ魔術師で全属性が使えるんだ」


 まぁ、闇魔法以外だけど。


 「それってレオンが使った魔法も使えるの? あれはルナ初めて見たの。本にも書いてなかったから」

 「う~ん、あの魔法は……俺だけが扱える特別な魔法なんだ。誰にも言っちゃダメだよ?」

 「うん! 分かった! ルナも使えるようになる?」


 ルナはキラキラとした眼差しを向けてくる。


 「俺には俺の魔法。ルナにはルナの魔法があるんだ。だから、俺の魔法は行使できないけど、ルナは自分が扱える魔法を頑張って覚えたら、強い魔術師になると思うよ」

 「こうしって?」

 「使うってこと」


 ルナの頭を撫で、お皿を洗う。

 ルナは満足げな表情を浮かべながら、俺が洗ったお皿を拭いていた。


 それから、昼間はルナの魔法の勉強に付き添い、黒絶病で時より苦しむブラックを俺が看病した。

 ルナはブラックの様子に心配そうな表情をしていたが、その度にブラックが笑いかけると、安心した笑顔を浮かべるのだった。


 あぁ……辛いな。


 時刻は午後三時。

 ルナは魔法の勉強に疲れたのか、昼寝をする為に部屋に戻る。

 その間、俺はブラックに様々なことを聞いた。


 まず、ゼオとルナの話。


 ルナは昔から好奇心旺盛な子だったらしく、魔法を教えてから毎日勉強をしているそうだ。

 たまに外に連れて行くと一人で何処か行こうとするので、よく叱ったらしい。

 叱られる度にルナは大泣きし、ゼオがそれを慰めるまでがルナとゼオの冒険だと言っていた。


 ゼオの方はお姉ちゃんっ子らしく、いつもルナと一緒に行動を共にしているらしい。

 どこに行くにもルナの後ろをついて行くゼオの魔法適正はルナには無い水のみ。

 エルフが人間よりももっと多くの魔法を扱えると思っていた俺はその話を聞き、ルナがエルフの中でも特別に秀でてることを知った。

 だが、ルナが扱えない魔法をゼオが行使できるとはなんだか凄く運命的な何かを感じる。


 やっぱりレティナを連れてこれば良かったな。

 カルロスには魔力がないし、魔法を教えることができない。

 俺も特別詳しいわけじゃないので、ここにレティナがいれば、二人一緒に勉強を教えれたのに。


 二人の事を聞いたのち、ブラックは次に昔の人間の話をしてくれた。


 数千年前の人間は今いる人間よりも野蛮で、すぐに争いをしたがる奴らばかりだったそうだ。

 人間同士だったり、魔物に対してだったり。

 その争いを食い止めたのが、文献で乗っている真龍たちだったと言っていた。

 もちろんブラックも当初は真龍であったが、人間の醜さに呆れ、喰い殺すようになったと遠い目をしながら話していた。

 そこまで追求することはしなかったが、ブラックも様々な理由で今の立場になってしまったのだろうと考えると、その話を聞いていても黒い感情が出てくることは無かった。


 最後に幻影である両親の話。


 ブラックはルナとゼオが幻影である両親に気づいていないと言っていたが、それを確信して言ったわけではないと話していた。

 ルナは絶対に気づいていない。だが、ゼオは気づいているのかもしれないと。

 理由はあの子は勘が鋭いから、という漠然としたものだったが、気づいているならそっちの方が好都合だと思った。

 何故なら、ずっと本物の両親と暮らしていたわけではなく、幻影魔法と気づいているのならば、心の傷はそれほど深くはならないと考えたからだ。

 まぁ、どちらにしてもルナは気づいていないので、どうにかするしかないが。


 濃密な話をすること二時間が過ぎ、ルナは目を擦りながら部屋から出てくる。


 「あれ〜? まだゼオたち帰ってきてないの?」

 「うん。もうそろそろだと思うよ」

 「じゃあ、夕食の準備をするね。レオンも手伝って〜。あっ、何も作らなくていいからね」


 えっ……? 今なんて?


 「あ、あの、ルナ? 俺も……」

 「カルロスがレオンには絶対絶対ぜーーーったいに作らせるなって。だから、お手伝いだけしてほしいの」


 ……なるほど。カルロスは昨日の内にもう手を打っていたと。

 もう料理なんてしないって思ってたから別にいいけど……言い方に悪意あるよね?


 ……うん。まぁ、とりあえずカルロスの帰りを待つか。


 黙っていた俺にいつの間にかルナが近くまで寄ってきていた。

 身長差があるからか、ルナは見上げながら俺を見つめている。


 「あっごめん。ぼーとしてた。もちろん手伝わせてよ」

 「うん!」


 ルナの料理をキッチンで手伝い、丸いテーブルやら椅子やらを大広間まで持って行く。


 「ねぇ、ルナ。今更だけど俺のこと怖くないの?」


 全部運び終わった俺は、ルナの手伝いをしながらふと思ったことを聞く。


 「えっ? なんで?」

 「いやだって最初の出会いなんて最悪だったでしょ。ブラックに魔法を掛けたりして」

 「あ〜、まぁ少しだけ……だよ?」


 少しだけ……ねぇ。

 ルナの引っかかる言葉に思わず眉を顰める。


 「今でも怖い?」

 「ううん! 全然! だって、レオンの魔力はすごく綺麗だったもん。だから、怖くはなかったの。でも、ブラックが苦しい顔してたから……その……」


 ふむ。

 魔力で人間性を見定めたと。


 表面上の魔力で判断するのはとても危険なもので、その価値観のまま生きていこうとしているルナはとても危ういものだと感じた。

 だが、ルナはまだ子供だ。

 今は怖がられてない事実を有難いと思おう。


 「あの時はごめんね」

 「ううん。もういいの」


 ルナに許された俺は夕食を手伝いを続けた。

 それから他愛のない話をしながら料理を作っていると、カルロスとゼオが帰宅する。

 俺たちは二人を出迎えようとして、キッチンから出た。

 が、その姿に思わず身体が固まった。


 なんとゼオは行く前とは明らかに違い、ぼろぼろの状態だったのだ。


 「カ、カルロス? これは?」


 背中にゼオを背負いながら、カルロスは俺の近くへと来る。


 「あぁ。こいつは思っていたより見込みがあるみてぇだ。槍は扱えねぇが、レオンから借りた剣でなら戦える。まぁまぁ才能あるな」


 いや、そういう話をしてるんじゃないんだけど……


 思わず、ブラックとルナを見る。

 二人は目を丸くさせて現状を理解できていないみたいだった。


 「あ、あの……とりあえず背中に背負っているゼオは生きてるようだから、安心してるけど、その……やり過ぎでは?」

 「馬鹿野郎。女を守るんだ。それなりの覚悟が無ければ守れねぇよ。こいつは今それと戦っている。今日の傷は勲章みたいなもんだ」


 カルロスはそのままルナとゼオの部屋の中へ入り、扉を閉めた。


 大広間には静寂が訪れる。


 ……よし。カルロス、ここは俺に任せろ。

 なにせ俺は<魔の刻>のリーダーだからね。

 仲間の失態を擁護するのがパーティーというものだ。


 「あ、あぁ〜。カルロスは熱い男だなぁ〜。とりあえず……夕食食べよ?」


 俺のぎこちない笑みにルナとブラックは訝しげに俺を見つめたのだった。


 仲間を守るのも大変だ。

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