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第38話 案内


 俺たちは今日から半月間、ここで寝泊まりすることになった。

 理由は至って単純。

 ブラックにもしものことがあれば、躊躇なく殺す事。

 それと、ルナとゼオの友好関係を築く事だ。

 両親の真実、黒絶病の件に関しては、ブラックが何とか話すしかない。


 寝泊まりすることが決まったことで、今はゼオにこの家の案内をしてもらっているところである。


 「そ、それでここが……お姉ちゃんと僕の部屋」

 「へぇ。思っていたより普通の部屋だね。もっと広いと思ってたよ」

 「そ、そう? 普通の部屋を見たことないから僕分かんない」


 ゼオは緊張しているのか俺と顔を合わせることをしない。

 そう。全ては隣にいるカルロスのせいだ。


 「カルロス? なんでそんな不機嫌な顔してるの? ゼオが怖がってるから止めなさい」

 「あぁ? 別にいつも通りだっての」


 いや、明らかにいつもよりおかしいよね?


 ゼオはカルロスの言葉を聞き、びくっと反応する。

 俺はそんなゼオを見て、安心させるように頭を撫でた。


 「ごめんね。ゼオ。普段は本当にいい奴なんだ。気にしないでいいからね?」


 これが子供との距離の詰め方だ。

 女の子と子供にはできるだけ優しくするのが、俺の流儀。

 ふっ。これなら完璧だろう。


 「う、うん……」


 え? 全然安心してなくない? これ。


 「お、お兄ちゃんは……なんでそんなに怒ってるの……?」


 ゼオは床に視線を落としながら口を開く。


 「だから、怒ってねぇっつうの」

 「で、でも……」

 「……はぁ……小僧。てめぇは姉のことをどう思ってる?」

 「えっ……? ど、どうって?」

 「てめぇは姉のことを大切だと思ってねぇのか?」

 「お、思ってるよ!」

 「じゃあ、なんで姉が殺されそうになってるのに駆け付けなかった?」


 あぁ、なるほどな。

 カルロスの不機嫌な理由がやっと分かった。

 昨日ゼオは、ブラックとルナが危険に陥っている中、一人でキッチンに隠れていた。

 カルロスは情に厚い男だ。

 <魔の刻>のメンバーが死に追いやられている際、必ず彼は駆けつけるだろう。

 それが、自分にとって死を意味する戦いでも。

 もちろんそれは他のメンバーにも言える。

 パーティーは一蓮托生だが、勝てない相手が立ちはだかった場合、時には見捨てる選択もしなければならない。

 だが、俺たちは違う。

 必ず勝つ。必ず救う。

 誰一人欠かさず、死ぬ時は一緒。

 そう思って、今までやってきたのだ。


 だから、ゼオの行動をカルロスは許せないのだろう。


 「だ、だって……僕は弱いから……お姉ちゃんもブラックも強いから……」

 「関係ねぇよ。大切なものを本当に守り抜きたいなら、死ぬ気で挑め。お前がルナにいつまでも守られてぇならもう知らねぇ……だが、失った時には全て遅ぇからな。よく覚えとけ」


 カルロスが部屋の外にいるブラックとルナに、寂しそうな瞳を向けている。


 ふむ……凄く格好いいこと言う。

 俺も今後のために覚えておこう。


 「……ぼ、僕は……僕は……」


 ゼオの身体が震える。

 ぽたぽたと床に涙が落ちるのを見た俺は、少し焦ってカルロスと同じ方向に視線を向けた。


 ……ルナはまだ気づいていないな。


 「僕も強くなりたい……強くなって……お姉ちゃんとブラックを守りたい!!」


 その言葉には強い意志を感じた。

 <金の翼>のことを思い出す。

 シャル、セリア、ロイ。それぞれに似たものをゼオは持っている。


 「じゃあ……半月間だ。てめぇを鍛えてやる。それともう泣くんじゃねぇ。男が泣いていいのは、大切なものを失った時と、死ぬほど嬉しい時の二つだ」


 ふむふむ……いや、もう俺いらなくない?

 なんか笑顔だけでなんとかしようとか思ってた自分が、凄く浅はかに見えてくるんだけど。


 「で、でも、優しさも大事だよね……? カルロス」

 「お前はなんの話をしてんだ?」


 この場に居るのが気まずくなった俺は、ブラックとルナに駆け寄った。


 「どうしたの? レオン。何か悲しいことでもあった?」


 二人の近くに座った俺に、ルナは優しく頭を撫でてくれる。

 一回り下の女の子に慰められるなんて……俺はもうダメかもしれない。



 そんなやり取りの後、家の案内が開始された。

 一番左の扉が転移魔法陣の部屋。

 その次が、ルナとゼオの部屋。

 大きな扉はブラックの部屋。

 その右の扉は両親の部屋らしい。


 最後に一番右のキッチンがある部屋に案内された。

 ブラックの部屋は見ていないが、キッチンがある部屋は今まで見た部屋よりも大きめに作られていた。

 その部屋にはお風呂も付いており、外に出て水浴びするということはないと分かって少し安心する。


 「ここが、キッチンだよ。毎日ルナと僕で料理してるんだ」

 「そうなんだ。俺も料理には自信があるよ」

 「あっじゃあ、今日の夜はレオンさんの料理が食べたい!」

 「うん。任せて!」


 よしっ!

 ゼオがお兄ちゃん呼びから名前で呼ぶようになってくれた。

 これは久しぶりに腕によりをかけて美味しい料理を作るか。


 「おい。ちょっと待て」


 俺とゼオの会話にカルロスが横槍を入れる。


 「ん? カルロスどうした?」

 「レオン。お前は俺のリーダーだ。つまり、リーダーに最高の料理を振る舞うのも俺の役目だよな?」

 「う、うん」

 「だから、今日は俺とゼオとルナで料理を作る。いいな?」

 「いや、でも……」

 「いいな?」


 えっ……やけに必死だな。

 俺の肩を掴んで言うカルロスの目は、有無を言わせぬ凄みを感じた。


 「ん-っと、でも、たまには俺も料理したいって……カルロスは作ったことあるの?」

 「あるに決まってんだろ。レオンにこの前食わせてやったこと覚えてねぇのか?」


 あっ……確かに。

 あの時は伝魔鳩(アラート)が来てたから、何も思わなかったけど、カルロスの料理美味しかったな。

 俺は顎を触って思考に耽る。


 灼熱のトマトお味噌汁を作るには材料が必要だ。周りを見てもトマトがあるようには思えない。

 それに、俺はその料理しか作ったことがないんだ。

 なにせ料理の基本はお味噌汁から、と母さんに教えられたので食べさせてあげたら、それ以降料理禁止令を出された。

 俺と母さんの舌は違うって分かったのもあの時だ。

 でも、ミリカもレティナも嫌そうな顔してたな……

 えっ、もしかして……カルロスも不味いって思ってる!?


 「ねぇ、カルロス……灼熱のトマトお味噌汁って美味しかった?」


 カルロスはその言葉にあからさまな嫌な顔を浮かべ、


 「すまん。その話は聞きたくねぇ」


 顔を背けるのだった。


 もう料理なんて作ってやるもんか。





 「じゃあ、ルナとゼオはもう寝るね。帰ってきたら、お母さんとお父さんにお休みって言っておいて。おやすみなさい」


 時刻は午後十時過ぎ、ゼオが眠気からうとうとしだし、それに気づいたルナはゼオの手を引き二人で部屋に入っていった。


 「二人はいつもこのくらいに寝てるの?」


 部屋に入った二人を見た後、ブラックに話を振る。


 「あぁ。早寝早起きは身体にいいと本に書いておったのでな。今日はいつもより少し遅いくらいだ」

 「へぇ。じゃあ、両親の幻影に二人はいつ会ってるの?」

 「大抵は朝だな」


 ふむ、朝か。


 「二人が両親に疑問を持ったこととかない? 流石に幻影だからすぐ分かると思うんだけど」

 「おそらくなかろう。我の幻影は高度だ。我の意思で、自由に話せることもできる……ただ、この病が原因で最近は二人に会わせておらぬのだ」

 「そっか……」


 幻影魔法は基本、相手を惑わすために使われる。

 ただ、ブラックの言ったようにその幻影が話すなんてのは、どの術者もできないだろう。

 それこそレティナでさえ、そのような高度な幻影は作り出せないのだから。


 「なぁブラック。ちなみにいつ二人に言うつもりだ?」

 「そうだな……」


 カルロスの言葉にブラックは考え込むように黙った。

 俺とカルロスはそんなブラックの言葉をじっと待つ。

 言いにくいことではあるが、早めに伝えないといけない。

 それはブラックも理解しているだろう。


 「一週間以内には話すつもりだ。無論、黒絶病のこともな」

 「そっか。分かってもらえるといいね」

 「あぁ」

 「……そういや、俺たちの寝床はどうすりゃいい? 俺とレオンだけ外ってわけじゃねぇよな?」


 寂しい空気が流れるのを嫌がってか、カルロスは話を逸らす。


 「うむ。幻影の使ってる部屋で寝ておれ。あそこにはベッドもある。人間には居心地が良かろう」

 「うい、分かった」



 そのまま俺たちは話を少しだけして、今日は解散とした。

 ちなみに幻影の部屋は最低限の家具しかなく、二つあるベッドに俺とカルロスは横になる。


 「なぁレオン。あいつらは納得すると思うか?」


 部屋の天井を見ながらカルロスが話しかける。


 「どうだろうね。でも、納得させるしかないかな。受け入れられない事実でも、乗り越えなきゃいけないんだから」


 そう。

 ルナとゼオが仮にその事実を拒んだとしても……二人はこれからも生きていかなければならない。

 ブラックと違って。


 カルロスは俺の言葉に返事をすることなく、そのまま俺たちは眠りにつくのであった。

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