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第288話 混乱する王都


 火の手が上がっているのは、王都の南側だった。

 おそらく奴らはそこから王城へと目指しているのだろう。


 「現在、冒険者と第二騎士団が襲撃者の対応をしています! 巻き込まれないためにも、城の方へ避難してください!」


 警備隊の声が、混乱する群衆に響き渡る。

 子供を抱えた母親、老人を支える青年、店を放り出して逃げる商人たち。

 人の波が北へと押し寄せていた。


 そんな中、俺はただ一人流れに逆らい南へと駆けていく。


 「だ、旦那が! 旦那が屍人に囲まれて!」

 「落ち着いてください! 今は避難が先です!」


 悲鳴と怒号が交錯して、通りは混沌としていた。

 マスターはこの事態を予測できていたのだろうか。

 逃げ惑う市民の規模は、俺の想像を大きく超えていた。


 この現状を見るに、レティナたちは間に合っていない。

 ラグラは対処できずにいるのか?

 それに他の冒険者だって……あぁ、くそっ!


 南へと駆けていくうちに人の気配が少なくなっていく。

 怪我してうずくまっている者を見かけた。

 道半ばで力尽きた者も。

 それでも、俺は足を止めなかった。


 すると、視界に屍人の群れが映った。

 甲冑を着た人間から、獣人まで。

 その群れと騎士団、そして、冒険者が交戦している。


 俺は加勢に入るために、剣を抜いた。

 そして、力いっぱい地面を蹴って飛び、屍人の群れの中心に着地する。


 「すぐに終わらすから」


 この屍人は皆、血濡れが手を下した被害者たちだろう。

 死んでもなお道具にされるなんて、あいつらの行いは……


 (殺せ。殺せ。)


 絶対に許されるべきではない。


 襲い掛かってくる屍人を解放させていく。

 呪術師(ネクロマンサー)の魔力を断ち切る最善の手は、首を断ち切ることだ。

 死体を損傷させないようにと遠慮すれば、自分が屍人になってしまう危険がある。

 なので、手加減はしなかった。


 「な、なにが起きてるんだ!?」


 片っ端から処理していく俺の様子に、冒険者は声を上げた。

 聞き馴染みのある声だ。

 そう思い、横目で確認すると、その冒険者はなんとロイだった。

 隣にはセリアもいる。

 だが、シャルの姿が見えない。


 なんでシャルはここにいないんだ……?

 三人で動いていると予想していていたが……どうして?


 最後の屍人を倒し、剣を鞘に納めた俺はロイを見据えた。


 「シャルはどこに行ったの?」

 「へ?」

 「シャルはどこに行ったか聞いてるんだ」


 この姿でロイと会うのは初めてだ。

 だからこそ、俺の不躾な質問に動揺している。

 そんなロイは戸惑いながらも口にした。


 「ぜ、前線にいるけど……」

 「はっ? 一人で?」

 「いや、ラグラさんと他の騎士団と一緒に」


 なんでついていかなかったんだ。


 そんな事を言おうとした。

 だが、冷静に考えてみたら分かる。

 血濡れと対峙するにあたり、ラグラは足手まといになりそうな者は連れて行かなかったのだと。

 二人とシャルの間に、明らかな差があることを察したのだろう。


 「そっか」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 急ごうとする俺を呼び止めた騎士は、申し訳なさそうな顔で言葉にする。


 「ラグラ騎士団長が事を終わらせるまで、ここで私たちと共に屍人を止めてくれないか? どれだけ捌いても、キリがないんだ」

 「ごめん、無理。探さないといけない人がいるから。ロイ、セリア、もう少し頑張れるよね?」


 血濡れ相手ならまだしも、屍人程度で音を上げる二人ではないだろう。


 「い、いけるっす!」

 「だ、大丈夫です!」


 その言葉を聞いた俺は再び走り出した。

 眼前にはゆっくりと進行してくる屍人が。

 剣を鞘に仕舞ったが、どうやら休む暇もないようだ。

 全てとはいかずとも、かなりの数の屍人を処理しながら、ただただ前線へと向かう。


 すると、前方とは少し外れた方角で大きな衝撃音が鳴り響いた。

 誰かが戦っているのは明白だ。

 それがシャルかもしれない。

 ただ、屍人の群れを潜り抜けていくうちに、前方で別の気配があることを感じ取れるようになっていた。

 リヤとはまた違った凶悪な魔力。

 この屍人を操っているだろう当事者。


 迷っている時間などなかった。

 そのまま直進を続けて、底知れぬ禍々しさを放っている者の元へと向かった。

 この辺ではもう生存者は見つからない。

 皆、北へと避難しているか、屍人となって操られているかだ。


 (殺せ。殺せ。殺せ。)


 黒い感情は屍人を切り伏せていくにつれて、大きくなっていた。

 それでも、進む。

 ひたすらそれを抑えながらに。


 そうして、やっと元凶に辿り着く。

 眼前に映る光景に、思わず足が止まってしまった。


 「おぉ、ロザリーの秘術から抜け出したんだ? やるねぇ」


 動揺など微塵も感じさせない表情で、ベルティーは口にする。

 こいつだとは最初から思っていた。

 だが……奴の前で倒れている者を見て、思考が追い付けずにいた。


 長く綺麗な金髪が、今は無残にも地面へと広がっている。

 短剣は手元から離れており、何十回、何百回と見てきた彼女のローブも、泥と血でその色を曇らせていた。


 「シャル……?」


 現実とは思えない光景に声が震える。


 「へぇ、この子と知り合いなんだ?」


 ベルティーは不気味に口角を上げた。

 一瞬の殺意。

 それを感じ取った俺は、何とか身体を動かし、剣を振り上げた。


 「あっぶなぁ~」


 予想よりも素早く後退したベルティー。

 今は奴を倒すよりもシャルの方が優先だ。


 「シャル!」


 抱き起こして、大きく声を掛ける。

 すると、シャルは薄く瞼を開けた。


 「貴方は……」


 良かった……本当に良かった。

 身体を見るかぎり、大きな怪我は負っていない。

 はっきりとはしないが、意識もちゃんとあるようだ。


 俺はシャルを抱きあげて、家屋に飛び乗る。

 彼女を安全な場所に送り届けねば。


 「おーい、逃げるの~?」

 「安心しろよ、すぐにまた来るから」


 絶対に殺す。

 今まで感じたことのない憎悪のままそう言葉にすると、奴は満足そうに笑った。

 追ってくる気配はない。

 余裕の表れなのか知らないが、非常に助かる。


 「私が倒さないと……」

 「シャルは十分頑張ったよ、後は任かせて」


 できるだけ優しく声を掛けたが、彼女は首を横に振る。


 「だめ……だめなの。レオンが……迷宮から戻ってきちゃう」


 迷宮……?


 「繋がってるから……きっと助けに来るの……魔物なら平気……でも、人を殺すのはだめだから……だから、私が……」


 人を殺すのはだめって……まさかシャルは気づいているのか?

 黒い感情に苛まれてしまうのは、罪人だけだということに。

 でも、どうして?

 レティナが教えたのか? それとも、マスターが?

 もしも誰かに聞いたとするのならば、その二人しか考えられない。


 闇魔法を行使する者は生命を奪った時に、殺戮衝動が起きるとマスターは話していた。

 生命という言い方からして、魔物もそこに含まれているだろう。

 だが、シャルは魔物は平気だと言った。


 一番身近にいた人はレティナだ。

 レティナがそれに気づいて、マスターに話した。

 シャルはその話をどちらかから聞いた。

 それならば、シャルが知っていても納得ができる。


 マスターはただ俺に平穏な暮らしをしてほしくて、生命という言い方をしたんじゃないだろうか。

 今なら、そう思えることができる。


 「ごめんね、シャル」


 呪いを受けたのか、シャルの目の焦点が定まっていない。

 俺のためにこんなにも頑張ってくれた。

 だが、その想いを無下にしてしまうことに、思わず謝罪が口から出てしまった。


 「どうして……?」


 悲痛な顔を浮かべるシャル。

 すると、最初に加勢に入った冒険者たちと騎士団の集団が視界に映った。

 俺は屋根から飛び降りて、ロイの元に向かう。


 「シャ、シャル!?」

 「倒れていたから連れてきた。安全な場所で休ませておいて」

 「りょ、了解っす!」


 シャルを引き渡して、背を向ける。

 不安は取り除けた。

 後はここまで無茶苦茶にしたあいつらを殺すだけだ。


 「待って……」


 シャルの呼び声に聞こえない振りをした俺は、再びベルティーの元に向かうのであった。

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