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第28話 休日デートがしたい


 ケーキ屋の店内は活気で溢れていた。


 「レティナさんに会えるとは光栄です」

 「そうだよな。Sランクパーティーのそれも<魔の刻>のパーティーメンバーだもんな」

 「そ、そんな大した者ではないですよ」


 俺たちの席に周りに、一人二人と人が集まってくる。

 まだ俺のことはばれていないようだが、これは時間の問題かもしれない。



 「レティナさんは今日休みなんですか?」

 「はい。そうですね」

 「へ~。Sランクでもちゃんと休みがあるんだな~……って、あれ? もしかして、デートとか?」

 「え……っと……はい……」


 デートという言葉に俯きながら答えるレティナの表情は、誰が見ても恋する乙女だった。


 「あっ、デート中にすみません! ……ん? レティナさんがデートってことは……もしかして、お相手は……」


 何かを察した青年の視線が俺へと向けられる。

 その瞬間、俺は意を決して席を立ち、レティナ手を掴んだ。


 「レティナ、行くよ」

 「あっ、うん!」


 俺の言葉でぱっと表情を切り替え、可愛い笑顔を見せたレティナと一緒に、人混みをかき分ける。

 そうして店外までなんとか出られた俺たちは、手を繋ぎながら走った。

 もう少し店内でゆっくりしたかったのが本音だが、そんなことを今更言っても仕方がない。

 今はただ人目のつかない場所を探すことが第一だ。

 ケーキ屋が見えなくなったところで、俺たちは路地裏へと駆け込む。

 辺りに人の気配が無いのを確認すると、そこで俺はほっと息をついた。


 「レティナごめんね。あのままあそこに居たら、まずいかなって」

 「ううん、全然大丈夫だよ。なんか駆け落ちしてるって感じがしてどきどきしちゃった……」

 「……」


 頬を赤く染めて照れているレティナが、とても可愛らしい。


 「えっ……レ、レンくん?」

 「あっ……」


 俺は無意識にレティナの華奢な身体を抱きしめてしまっていた。

 突然の事態に動揺するレティナだが、俺も内心驚いている。


 「……ふ、ふむ。レティナの魔法は凄いな。魅了(チャーム)も使えるなんて……」

 「ふふっ、そんなのしてないよ」


 俺が照れ隠しに言った冗談にくすっと笑うレティナ。

 そんなレティナは、俺に答えるように腕を背中に回してくれる。


 こんな路地裏で密かに抱き合っているのを誰かに見られたら……


 そう思ったからなのか、レティナを抱きしめているからなのかは知らないが、心臓がドキドキとうるさい。


 「……レンくん凄くドキドキしてる」


 俺の胸に耳を当てながらそう呟くレティナに、


 「……し、してないよ」


 と、つい強がってしまう。


 レティナが普段ベッドに潜ってきても、基本何もしない俺だが、いざこうしてみると何だか中毒になりそうだ。

 まぁ、だからあえて触れ合わないようにしてるのだが……


 これはでも……まずいな。

 レティナを離したくないと思ってしまう。


 「今日はずっとこうしてるか」

 「うん!」


 いや、そこは否定してよ……


 身体を少し離し、無邪気に笑うレティナに戸惑いながらも口を開く。


 「でも、アクセサリー屋に行かなきゃな」

 「このまま歩けば行けるよ?」

 「抱きしめ合ったまま?」

 「うん」

 「いや、それ警備隊呼ばれるから」

 「ふふっ、じゃあ無しか~」

 「ふっ、無しだね」


 二人でくすくすと笑い合う。

 そうしてると、慣れて来たのかドキドキとしていた心臓も落ち着いてきた。


 「じゃあ、もう行こうか」


 俺はレティナを離して、右手を差し出す。


 「うん!」


 レティナは元気に頷いた後、その右手をそっと握った。


 「足元気をつけてね。ちょっと歩きにくいから」

 「んっ、ありがとう。レンくん」


 胸いっぱいの幸福感を抱きながら、俺は歩き出す。


 やっぱりデートというのは最高だ。

 ケーキ屋では騒ぎになってそう思うことができなかったが、まだまだ時間はある。

 次は気を付けながら今日を名一杯楽しもう。


 そう思った俺はレティナと他愛のない話をしながら、次の目的地へと向かったのだった。















 アクセサリー屋に辿り着いた俺たちは今、店内のアクセサリーを見て回っていた。


 「へ〜アクセサリーってこんなにいっぱいあるんだね~」

 「そうだね。効力付与が同じ物でも、指輪だったりネックレスだったり違う形で売ってるんだね。ちなみに、レティナは何が欲しいの?」


 ずらっと陳列されているアクセサリーは、本当に多種多様である。

 レティナなら何でも似合いそうだが……


 「なんでも……いいの?」

 「もちろんなんでもいいよ?」

 「じゃあ……レンくんに選んで欲しい」

 「俺が選んでいいの?」

 「うん!」


 満面の笑みを向けるレティナは、まるで太陽のように眩しい。

 そんな笑顔を見せられたら断れるわけがない。


 「分かった。じゃあ、ちょっと待っててね」


 そこから数十分、俺は真剣にアクセサリーを選ぶ。

 レティナは魔術師だ。

 ただ、レティナ程の卓越した魔力量を上げるアクセサリーなんて絶対に無い。

 つまり、これはセンスの見せどころということ。

 「うーん」 と真剣に選ぶ俺の姿をレティナが見つめる。

 その表情はずっと笑みを浮かべており、心底幸せそうだった。


 「よし。じゃあこれ下さい」


 店員に銀貨五枚を渡し、その店を出る。


 「それでレンくん、何選んでくれたの?」

 「えっ? 見てなかったの?」

 「う、うん。レンくんが真剣に選んでくれてたから……つい顔ばかり見ちゃってたの」


 そんなにストレートに言われると思わず照れてしまう。

 俺は照れ隠しのつもりでレティナの頭を撫でる。


 「そっか。じゃあ、拠点に帰ってからのお楽しみ。他にどこか行きたい所ある? あっ、<月の庭>はダメだよ」

 「もう〜根に持たないで〜!」


 それから俺たちは食べ歩きをしたり、服を見たり、充実した一日を送ったのだった。









 「おかえり。ごしゅじん。レティナねーね」

 「ただいま。ミリカにお土産買ってきたよ」


 俺とレティナは食べ歩きをした為に、お腹がいっぱいだ。

 ただ、ミリカは一人でお留守番をしていたので夕食はまだ食べていないはず。

 そう思って買ってきた夕食をミリカに渡し、三人でダイニングに行く。



 「じゃあ、開けていい?」

 「うん。いいよ」


 ミリカがハンバーグを頬張っている中、レティナは俺が渡した小さな箱をそっと開ける。


 「わぁ〜かわいい!」


 レティナがうっとりとした表情でそれを見つめる。

 俺が選んだのは、葉っぱがモチーフになっているブレスレットだった。


 「昔母さんが教えてくれたんだ。それは四葉のクローバーって言うんだって。たしか幸福を呼んだり、幸せになるって意味があるらしいよ」


 俺の言葉を聞きながら、レティナはブレスレットを利き手ではない左手に付ける。


 「そうなんだ。ありがと。すっごく嬉しい! 絶対大切にするね」


 俺があげたブレスレットを愛おしそうに見つめるレティナを見て、ほっと息をつく。


 良かった。喜んでもらえて……


 「ごしゅじん! ミリカは?」


 キラキラとした眼差しを向けるミリカ。


 ……あっ。


 「あ、あぁ。ミリカ……ね」


 確かにミリカにも指導の件でもの凄く助けられた。

 ご褒美をあげようとも思っていた。

 だが……


 「ご、しゅじん……?」


 俺の表情を見て何かを察したのか、ミリカのキラキラした瞳が一変してじわっと潤む。


 「い、いやミリカ? 聞いて? もちろんミリカにも何かあげようと思ってた。これは本当だよ? でも、今日はレティナと一緒に居たから……あの……ミリカ……?」


 ミリカの瞳から大粒の涙が溢れる。


 「ご……しゅ、じん。ミリカ……がんばっ……て……なかった?」


 あまりの表情の変化に、レティナはあたふたとしている。

 無論、俺もだ。


 「ミ、ミリカちゃん泣かないで? これはね? 前払いなの」

 「ま……え……ばらい?」

 「そう。今回の指導の件もそうだけど、レンくんがまた困ったら必ず手助けするからっていう約束をして、強請(ねだ)ったんだよ? だから、ほら? 泣き止んで?」


 レティナは席を立ち、ミリカの側に寄って頭を撫でる。

 うぇぇえんと子供のように泣くミリカの泣き声は、数分間にも亘って拠点に響いたのだった。


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