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第170話 正体③


 ぐらぐらと揺らいでいる洞窟内。

 そんな中、扉を通った俺たちは歩いて行く。


 「ねぇ、マリー。今更なんだけどさ、どうして俺を止めようと思ったの? 素直に話してくれたら、俺も……」

 「手伝ってくれたの? 他の人が不幸になることを率先して?」

 「それは……」

 「レオンちゃんも馬鹿ね。レオンちゃんが私の事を知ってるように私もレオンちゃんの事を知ってるのよ。自分の為だけに仲間の手を汚したくないって反対することを」


 確かにマリーの言う通りかもしれない。

 三年前に何があったのかを知りたいのはもちろんだ。

 だが、仲間に罪を担がせようと思うほど固執はしていない。


 「それにね、まだ言わなかった理由があるもの」

 「ん? それって?」


 肩を貸しているマリーに視線を移す。

 もう最奥は目前だが、マリーのその理由が気になって仕方がない。


 そんな俺にマリーは平然とした顔で言葉にした。


 「レティナは魔法が使えなくなるの」

 「えっ……?」

 「過去に戻る為には代償が必要だった。それが対象者の魔力。その魔力と引き換えにレティナは過去に戻るのよ」


 突然の話に一瞬頭が真っ白になる。


 「だから、言えないでしょ? ずっと側に居たレオンちゃんには」


 ……いや、どうしてそんな平然としていられる?

 それは言える言えないの問題じゃないだろ。

 論外でしかないし、正直な話、理解できないんだが。


 俺の為にマリーが罪を犯してしまったことは、俺にも責任がある。

 今は何か考えてはいないが一緒に罪を償えばいい。


 だが、レティナが魔力を失うことは許せない。

 幼少期の頃からずっとこの目で見てきたのだ。

 様々な魔法を血の滲む努力によって覚えてきたことを。

 俺を守りたいと思ってくれるのは嬉しいことだが、そんな事を俺は望んでいない。

 最奥へと辿り着いたらフェルとポーラに事情を話して中止してもらおう。


 そう決心した時、


 「もう止めれないわよ」


 俺の考えを察したようにマリーはそう言葉にした。


 「あの魔法を中断すれば、何が起きるか分からない。それこそレティナの魔力だけじゃなく、命そのものが代償になる可能性もあるから」

 「……まさかその為に俺を足止めしてたってこと?」

 「えぇ、そういうこと」


 ……なるほどな。よく分かった。

 質問に対してやけに素直に答えてくれると思ったが、あれはただの時間稼ぎだったていうことか。

 それにしても、魔法を中断すると……か。

 じゃあ、中断しなければいいわけだ。


 「レオンちゃん、着いたわよ」


 マリーの言葉でいつの間にか最奥へと辿り着いたことに気づく。

 目の前にはホワイトフラワーが視界一杯に咲き乱れており、水神様の像がまるでこちらを見つめているように置かれている。

 そして、中央には赤い魔方陣の上で眠っているレティナと手を合わせて祈っているフェルとポーラが姿があった。


 「レティナ!!」


 反射的にレティナの元へ駆け寄ろうとした時、


 「おい、レオン。もう遅ぇぞ」


 不意に呼ばれた声に視線を移す。


 「カ、カルロス?」


 普段と変わらない表情に普段と同じ格好。

 岩壁にもたれかかっていたカルロスは、やれやれと首を振って隣にいるマリーに視線を向けた。


 「どこまで話した?」

 「……代償の話と目的だけ。でも、あの件は話してないわ」

 「ん。ならいい。レオン、とりあえず落ち着け。それとレティナに近づくな」

 「……なんでカルロスがここにいるの?」

 「あー、まぁ簡潔に言うなら二人の後を付けた。それだけだ」


 カルロスは戦闘狂ではあるが、馬鹿ではない。

 おそらくレティナと同じようにマリーを疑っていたのかもしれない。


 まぁ、今はそんな事どうでもいい。

 俺にはやるべき事があるのだ。


 「おい、レオン。話聞いてたか? レティナに近づくな」

 「どうして?」

 「その魔法陣はもう発動してんだよ。踏んだら何が起きるか分からねぇ」

 「ふ~ん。なるほどね。じゃあ、近づかなければいいんだ?」

 「……何をしようとしてる?」


 俺はレティナたちがいる方へ手を伸ばす。


 「そういえば、カルロスたちには言ってなかったね。俺、新しい秘術を覚えたんだ。それを今見せてあげるよ」

 「あぁ? 何だか知らねぇが、分かってんのか? 中途半端に魔法を止めればーー「止めるんじゃない。消すんだよ」

 「あぁ?」


 カルロスの釈然としていない表情が横目に映る。


 秘術 終焉の教会(ジエンドフィールド)

 俺が編み出したその秘術の中では、闇魔法以外の魔法は消える。

 もちろん可変魔法も同じだ。

 中途半端に魔法を止めれば、代償が発生すると言うのならば、そもそも魔法自体を消せばいいだけ。

 魔力が無い者が魔法の詠唱を試みても行使できないのと同じ原理で、終焉の教会(ジエンドフィールド)の中ならば、今行使している時間復元(リタイム)の代償を発生させることなくレティナを救えるはずだ。


 ふっと全身の魔力を開放する。

 先程死神の裁き(ジャッジオブリーパー)を行使したが、まだ魔力の余力は残っている。


 俺を足止めしてたってマリーに言われた時は驚いたけど、この秘術を覚えておいて良かった。

 これならレティナをーー


 「ちょっと待って!! レオンちゃん!! これはレティナの為でもあるの!!」


 鬼気迫る表情で俺の右腕にしがみついてきたマリー。

 その表情を見る限り、俺を止める為の誤魔化しというわけではなさそうだ。


 「……どういうこと?」

 「レティナは一番やってはいけないことをしたの。それが全ての原因になってしまった」

 「おい!! マリー!!」

 「分かってる!! 私にだって!! でも、もうこれが最後になるかもしれないなら、レオンちゃんに全部話した方がいい!!」

 「馬鹿野郎!! 失敗したらどうする!?」

 「……失敗なんてきっとない。絶対に成功する」


 カルロスとマリーの言い合いにまるでついていけない。

 二人は何を話している?

 それにレティナがやってしまったことって……


 「レオンちゃん、あの魔法を止めないで。消さないで」

 「さっきから話が見えないんだけど?」

 「レティナは後悔していることがあるの。それをずっと引きずってる」

 「……詳しく教えてくれる?」

 「おい、マリーーー「カルロスは黙ってくれ。頼むから」

 「……ちっ」


 どうなっても知らねぇぞ、と小言を言うカルロスを無視して、マリーを見つめる。

 レティナの魔力以上に改変したい過去。

 それがどんな過去なんてのは想像もできない。

 だが、一つだけ分かることがあった。

 それはきっと三年前の事なんだろうな……と。


 カルロスが小言を言ってから、数秒の沈黙。

 その沈黙を破るようにマリーは口を開いた。


 「私たちにはもう一人ーーっ!?」

 「!?」


 不意にこの空洞一帯がまばゆい光に覆われる。


 な、なんだ!?


 あまりにも突然な事態に、俺はその光の元へ視線を向けた。


 「……レティナ?」


 レティナの身体が白く優しい光に覆われている。

 そんな状況化でもフェルとポーラは微動だにしない。


 瞬時に思ったことは、これは時間復元(リタイム)の代償なんじゃないかということ。

 だが、光にそんな害のあるものは感じない。


 マリーも予想外の出来事だったのか、話を途中で止めてレティナを見つめている。


 「これは一体……」


 マリーがぽつりと呟いたのと同時に、レティナの身体がふわりと宙に浮く。

 そして、


 「っ!?」


 まるで洞窟の外まで届くかのような強い光を浴びて、俺は思わず瞼を閉じた。


 くっ、一体何なんだ!?

 レティナは無事なのか!?


 瞼に突き刺さる光が次第に弱くなっていくのを感じる。

 俺はレティナがどうなったのかという不安に駆られながら、恐る恐る瞼を開いた。





























 「……えっ? みんな?」


 頭の処理が上手く追いつかない。

 何故ならば、光を放っていたレティナはおろか、視界に映る者は誰一人としていなくなっていたからだ。

 そして、俺が立っているこの場所も洞窟内部ではなく、何処かの森の中のようだった。


 あまりにも突然な状況に、俺は唖然としてしまう。


 俺一人だけ何処かに飛ばされた?

 あの一瞬で洞窟から森の中にって……どうして?


 理解ができない状況ではあるが、こんな時こそ落ち着かなければならない。


 誰かに連れてかれたわけではないし、おそらくこれは時間復元(リタイム)という魔法のせいだろう。

 だが、瞬時に別の場所に移動するなんて……あの魔法陣には転移の効果もあったのか?


 そう疑問に思うが、ブラックの言葉がふと脳裏によぎった。



 (龍と人間では脳の容量が違う。どんなに卓越した魔術師だろうと、人間の脳ではこの魔法陣の術式を理解すること自体ができぬのだ)



 ブラックの話が本当ならば、仮に時間復元(リタイム)の魔方陣に転移の魔術式が混ざっていたとしても、フェルとポーラでは解読することができないはずだ。


 じゃあ、俺は一体どうやってここに来たんだ……?


 少しだけ冷静さを取り戻しつつも、まだ疑問が晴れない俺は周囲を見回す。


 ん? あれって……


 思考に更けていた為気づかなかったが、人が歩いていけるような小道が目に止まった。

 その小道にはまるで俺を案内してくれるかのように光る足跡が付いている。


 ……ふむ。

 罠かもしれないが、とりあえず行ってみるしかないか。


 立ち止まっているのも時間の無駄なので、俺はその小道に向けて歩き出す。


 身体が軽い。それに地面を踏んでいるのにその感覚がない。

 一体、どうなってるんだ?


 歩いて数分も掛からず、俺はその狭い小道から抜け出す。

 光る足跡はそこで途絶えていた。
























 「まさか本当に会えるなんてね」




 「えっ……」




 突然の状況に俺の足が止まる。


 この声……は……


 大きな切り株に背中を見せて座っている彼女。

 その彼女の髪色は半分が黒色、もう半分はレティナと同じ綺麗な瑠璃色をしていた。


 「えっと……君って……」


 俺は彼女の素顔を確認する為に近づく。

 ドッドッと高まる鼓動。

 彼女の声色はもう聞き慣れた。

 まさかここに呼んだのも……


 「あっ、忘れてた」


 俺が顔を覗き込むのと同時に、彼女は手元に置いてあった狐の仮面を付けた。

 あからさまに顔を隠したのがその行動で伝わる。


 「マリーの仮面いいなって思ってたから、真似しちゃお~。ん? レンちゃん、そんなムッとした顔してどうしたの?」

 「……分かってるくせに」

 「ふふっ。コンコンッ。どう可愛い?」


 指で狐を作り、顔を傾けてそう聞いてくる彼女。

 今、この手を伸ばせば仮面を外して素顔を確認することができる。

 だが、それは絶対にしてはいけないと何故か直感的にそう思った。


 「……まぁ、似合ってるんじゃない?」

 「おお~。素直なレンちゃんだ」

 「俺の何を知ってるんだよ」

 「全部知ってるよ? レンちゃんのことなら何でもね」


 ……なんでだろう。

 彼女の声を聞いてると、泣きそうになってくる。


 「……俺は君のことを覚えてない」

 「そうだね」

 「君の名前は?」

 「秘密」

 「その青い髪色……レティナとそっくりだけど?」

 「秘密」

 「……なんだそれ。じゃあ、ここは何処?」


 何も答えないなら答えれる質問を投げればいい。

 全部秘密で返されたら、どうしようもないが……


 「時間の狭間……というか、レンちゃんの意識の中って言った方が分かりやすいかな」


 ふむ。全然分からん。


 「私が答えれることも少ないし、重要なことだけ伝えるね」


 そう言葉にした彼女は、膝に手を置き話し始めたのだった。

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