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第143話 東の森③


 「へぇ~。行く宛がなかったミリカちゃんをレオン君が拾ったと」

 「そういうことですね」


 簡潔に内容を纏め、<三雪華>に話し終えた俺は、ずっと抱きしめていたミリカを離す。

 もうローゼリアは邪な考えを持っていない。

 何故なら……


 「た、大変だったんですわね……」


 うるうるとした瞳で、感傷的になっているからだ。


 本当は暗殺者として俺を殺しに来たのだが、その事実を言ったところで、どんな反応が返って来るかも分からないし、ミリカの前であの時のことを思い出させるような話は出来るだけ避けたかった。


 「ちなみに、マスターに内緒なのはなんでだい?」

 「それは……あれですね。あの~」


 言い訳を使うのに何かと都合がいいから……なんて、ローゼリアの前で言えば激怒されてしまう。

 どう言おうかと、悩んでいる俺にエクシエさんが口を開く。


 「おそらく何かと都合がいいから」

 「え!?」

 「当たり」


 くっ。

 さっきは外したのに、どうして今度は心を読まれたように分かるんだ。

 エ、エクシエさんは凄いなぁ~……


 ちらりとローゼリアを見る。


 「レオ~ン?」

 「ちょ、ちょっと待って! 俺はミリカがマスターに話したいって言うなら、もちろん今すぐにでも話しに行くよ?」

 「大丈夫」

 「ミリカちゃん。でも、レオンは貴方のことをいいように使っているんですわよ?」


 いいように使っているなんて、人聞きが悪すぎる。

 確かに俺はジャンビスの件で、ミリカの嘘の証言に助けられた。

 ソロのミリカと<魔の刻>の俺だったから、マスターも信じてくれたのだが、同じパーティーに入っていたら、また話は別だっただろう。

 その時にこれは今後も使えると思ったのだが……本当はミリカがそんな風に扱われたくないと感じていたら?

 そんな事は考えても見なかったが、もしそう思っていたとしたら、俺はなんて酷い事をしていたのだろう。

 

 考えれば考えるだけ、罪悪感で胸がいっぱいになる。

 すると、


 「ごしゅじん。よしよし」


 不意に背伸びしたミリカは、俺の頭を撫でた。


 「ミリカ、使われてない。ミリカはごしゅじんの為になってるなら、何でも嬉しい。ルーネに秘密するの、ミリカの意思」

 「ミリカ……」

 「ごしゅじん、深く考えすぎてる。ミリカ、何も気にしてない。だから、そんな顔しないで」


 よしよしと言いながらひたすら頭を撫でてくれるミリカ。

 これではどちらがごしゅじんなのか分からない。


 「ミリカちゃんわたくし……一回ぎゅ~って抱きしめてもいいかしら?」

 「……」

 「こらこら、ローゼリア。ミリカちゃんが困っているだろ?」

 「だって~。その”ごしゅじん”ってのも、レオンが呼ばせているのかしら?」

 「いや、違う違う。これはレティナが最初にそう決めたんだ。レティナのことは、”ねーね”俺のことは”ごしゅじん”って」

 「へ~……ありだわね」


 ローゼリアが真剣な表情をする。

 一体こいつは誰にそう呼ばせようとしてるんだか……


 考えるだけ無駄なので、とりあえず無視することにする。


 それにしても良かった。

 ミリカが何も気にしてないって言ってくれて。

 もし悲しい表情をしていたら、今頃俺はミリカに数えきれないほどの謝罪をしていたことだろう。


 一安心した俺は、もうそろそろマスターの元へ向かおうかと思った。


 「じゃあ、マスターにーー「ごしゅじん。これ」


 話を遮るようにミリカは俺にある物を見せてくれる。


 「えっと……この木の枝がどうしたの?」

 「斬った木から出てきた」

 「……?」


 ミリカの手のひらに置かれているありふれた木の枝。

 それを取り、よく観察すると、本当に斬ったような跡がある。


 どういうことだ?


 もし樹木に掛けられていた魔法が幻影魔法なら、そもそもそこから木の枝など出るわけがない。

 幻影は斬れば消えるだけで、実体が無いものだからだ。

 つまりこれは幻影魔法ではなく、別の魔法ということになるのだが……


 「エクシエさん、これどう思う?」

 「……とても興味深い」

 「俺の予想では、さっきの樹木って幻影魔法で作られたものだと思ってたんだけど……」

 「私もそう解釈していた。ただこれは……もっと珍しい魔法」

 「え? 知ってるの?」

 「知識としては、ただ初めて見るもの」


 エクシエさんが木の枝を俺から取り、目を細めて太陽に向ける。


 「あの樹木を初めて見た時、私たちでは見抜けなかったことも納得した」

 「えっと、その魔法って……」


 疑問しか浮かばない俺にエクシエさんは真剣な面持ちで口を開く。















 「可変魔法」




 「……え?」




 可変……魔法?


 ドクドクと心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。


 う、嘘だろ……?


 「レオンが可変魔法の知識を知らなくても仕方がない。この魔法はとても稀で、お目にかかれることなどないと思っていた」

 「エクシエ? わたくしも知らないのですが、それはどんな魔法ですの?」

 「書物によれば、手で触れたあらゆる物を自在に変えることができる」

 「な、なんでも……?」


 エクシエさんがローゼリアに可変魔法の説明をしている。

 ただ、俺はそんなこと聞いている場合ではなかった。


 その魔法を一切鑑みず、意識の外へと追いやったのは、扱える術者などこのランド王国にいないと思っていたからだ。



 フェルとポーラ。

 その二人だけの特別な魔法だと……



 額に冷や汗を掻き続ける俺は、念のために確認する。


 「エ、エクシエさん。ちなみに可変魔法を扱える人ってランド王国には……」

 「いない。長らく人の目に入らず、隠れ続けていた者というなら話は別だが、そんな者が何故今頃になって現れたのかという疑問が残る」

 「……」


 冷静になれ。冷静になれ。

 心の中でそう唱える。


 確かにエクシエさんの言っている通りだ。

 罪人でも善人でもその力を持って、隠れ潜む意味が分からない。

 それも森が増殖したという話はつい最近の出来事。

 俺たち<魔の刻>がマリン王国から帰ってきて、その現象は起き始めた。


 これらを考えても、森の増殖は……あの二人が?


 まだ思考に耽る時間がいる。

 ただ、今からやるべきこと。

 それは……


 「……ごしゅじん」


 不安そうなミリカが、俺の手を握る。

 ミリカもフェルとポーラが可変魔法を唱えている姿をその目で見ている。

 二人が危ないと感じているのか分からないが、俺はその小さな手を安心させるように握りしめた。


 「エクシエさん、聞いてください。俺、その魔法を扱える人物を知っています」

 「……その人物とは?」

 「ここでは言えませんが、<三雪華>にも協力してほしいことがあります」


 <三雪華>が顔を見合わせる。

 今は騎士団に聞かれるわけにはいかない。

 マスターとの話し合いの後、それについては任せるつもりだが。


 「内容によりますが、わたくしはいいですわよ」

 「僕もかな」

 「では、了承する。具体的に今から何をすれば?」

 「ここは他の冒険者と騎士団に任せて、マスターと一緒に<月の庭>に帰りましょう。俺一人だと冒険者はともかく騎士団を納得させることは出来ないので」


 俺の言葉に皆が頷く。

 きっとクライスナー領の件がまだ残っていたら、こんなにも素直に頷くことはなかっただろう。

 その事実に動揺をしていた身体が、少し楽になるのを感じた。


 「<三雪華>は騎士団に、俺とミリカはマスターに。行くよミリカ」

 「把握した」


 手を繋いだままではいけないなと思い、ミリカの手をそっと離す。

 少し寂し気な表情をするミリカであったが、マスターの元へ辿り着く時にはいつもと変わらない表情をしていた。

 そんな俺たちはマスターに急遽話したいことがある、という理由で、その場から離脱する。


 「お、おい。レオン、ミリカ。一体どうしたというのだ!?」

 「マスター。それは後程改めて。今は何も言わずについてきてください」

 「う~む」


 手を繋いでいないにも関わらず、後ろからついてくるマスター。

 こういう時に、Sランク冒険者で良かったなと感じる俺は、三人でひとまず<月の庭>に帰るのであった。


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