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第106話 心配②


 「ふぅ……」


 俺はみんなが遊んでいる様子を眺めながら、浜辺に腰を下ろす。

 三年前から冒険に行かなくなった俺は、みんなと一緒に居る時間が減っていた。

 長期に渡る依頼も必ず誰か一人は居たし、Sランクに上がる前までは全員で冒険することも多かった。

 だが、今では拠点でみんなの帰りを待つだけの生活を送っている。

 だから、この旅行は俺にとって、いつまでも色褪せない思い出になるだろう。

 みんなと出会ってからこんな旅行にも出掛けたことはなく、様々な依頼でランド王国各地を巡ってはいたのだが、あくまでそれはお金を得る為の仕事であり、本当の意味での心ゆくまで遊ぶというのは、今回が初めてなのだから。


 「こんなに楽しいなら……もっと行っとけば良かったな……みんなで」


 みんなで。


 呟いた自分の言葉に何故かズキっと心が痛み、何かが俺の心を締め付ける。

 視界にはみんなが居る。

 俺を安心させてくれる唯一の仲間たち。

 なのに、何故だろう。


 凄く泣きたくなる。


 瞳に力を入れてなんとかそれを堪えるが、心を締め付ける何かは止まってはくれない。


 なんなんだよ……ほんとに。


 顔を俯かせ曲げている膝に頭を乗せる。

 すると、


 「レオンちゃん。どうしたの?」


 優しい声色で俺の名前を呼んだマリーは、隣に腰を下ろした。


 マリーに心配掛けたくない。


 そう思った俺は、無理矢理笑顔を取り繕い口を開いた。


 「なんでもないよ。ちょっとはしゃぎすぎたから、休憩してたところ」

 「……」

 「マリー? わっ」


 突然マリーの顔が近づき、ほんの少しの距離を残して止まる。

 そのまま俺の瞳を見透かすようにじっと見つめた後、寂しくぼそりと呟いた。


 「ダメだった…………わね……」

 「……?」

 「……」


 寂しさを隠すように顔を逸らすマリー。


 ダメだった……?


 マリーの言葉の真意が分からず、その横顔を見つめることしかできない俺は、ふと灯台で言っていたマリーの言葉を思い出した。


 (じゃあ、最後は大本命の場所に行きましょ? ここは違ったみたいだから……)


 ダメだった……違った……


 マリーの言葉を心の中で繰り返しても、いまいちピンと来ない。


 「……何が……ダメだったの?」


 できるだけ優しい声色を作り、マリーに問いかける。

 そんな俺の問いに少しだけ顔を俯かせたマリーは、俺と同じように無理するような笑顔を浮かべた。


 「ふふっ。なんでもないわ」

 「嘘つくの……止めなよ」

 「え?」

 「なんでもないならそんな顔しない。マリー、教えて?」

 「……」


 俺の言葉に驚くように目を見開かせた後、ふっと寂しく笑ったマリーは、海で遊んでいるみんなに視線を向ける。


 「レオンちゃんは……今日楽しかった?」

 「そりゃもちろん」

 「どのくらい?」

 「んー、そうだな。もっと……もっと遊びに行けば良かったなって思うくらい。俺たち冒険ばかりで碌に旅行なんてしなかっただろ? だからさ……みんなでもっと旅行に行きたかったなって」


 ズキンッズキンッ


 胸を押さえたくなるほどの心臓の痛みを我慢し、平静を装った俺は、マリーと同様にレティナたちを見つめる。

 すると、突然マリーの腕がゆっくりと伸びてきて、俺の身体を優しく包み込んだ。


 「マリー?」

 「……レオンちゃんが……倒れたって聞いたの」

 「……心配掛けちゃったね。ごめん……」

 「うん、だからね? 元気になってほしくて……私たちで何かできないか、レオンちゃんが寝てる間に話し合ったのよ」


 ああ、そういうことか。

 だから、こんな時間に色々な場所を巡っているのか。

 俺の為に……嬉しいけど、なんか申し訳ないな。


 「……でも、ダメだったわね」

 「ダ、ダメなんかじゃない」

 「ううん、ダメだったの。だって、レオンちゃん……また苦しそうな顔してるもの」

 「……」


 俺の耳元でそう言ったマリーの声色は、とても寂しそうであった。


 みんなのおかげで、最高の旅行になった。

 それに嘘偽りなどはなく、今もみんなの輪の中に入りたいと思うほどだ。


 だが、それと表裏一体で楽しいと思えば思うほど、何故か心が締め付けられる。


 何かが……"誰か"が足りないと。


 「こんな痛み……消えてくれたらいいのに」


 ぽつりと呟いた俺の言葉に、マリーはピクリと反応する。


 「それは……本当に消えてほしいと思ってるのかしら?」

 「? どういうこと?」

 「……消えないわ。その"想い"は……」


 ぎゅうっと強く俺を抱きしめるマリー。


 マリーも……何か知ってるのか?


 レティナじゃなくマリーなら聞けるかもしれない。

 俺が夢で何を見せられているのか。


 「あ、あの、マリー……」

 「はーい。サービスタイムは終わりました〜」


 ぱっと抱きしめていた腕を離したマリーは、 「ふふっ」 と微笑む。


 「えっ……えぇ……」

 「ほらっ、レオンちゃん見て? レティナがこっち向いてるわよ?」


 マリーがそう言いながら指を指す。

 指された先を見ると、レティナがぷくーっと顔を膨らませてこちらを見つめていた。


 「……これ……俺のせいじゃないよね?」

 「私のせいでもないわよ?」

 「い、いや……完全に……」

 「何? レオンちゃん。乙女に恥をかかそうって言うの?」

 「……俺のせいだね」

 「うんうん」


 コクコクと頷いたマリーは俺の手を掴み、立ち上がらせてくれる。


 何か納得がいかないけれど、これだけは言いたい。


 「マリー」

 「ん?」

 「ありがとう。ほんとに楽しいよ。誓って言える」


 俺の言葉にぽけっとしたマリーは、すぐに表情を変え綺麗に笑った。


 「ふふっ。いいわよ。みんなにも言ってあげると喜ぶわ」





 それからはあっという間だった。

 不機嫌になったレティナは、 「マリーちゃんが抜け駆けした……」 といじけていたので、俺はそれを宥め、みんなと一緒に夜の海を堪能し尽くした。


 まぁ、やったことと言えば、レティナとルナとゼオの魔法を鑑賞したり、闇魔法が見たいというミリカの要望に応えて様々な闇魔法を見せたり、浜辺で寝転がりながら星を見たりと、最後の事以外ランド王国でもできることばかりであったが、みんなと一緒にその瞬間を過ごせたということだけで、やる事全てがとても幸せな気分になるものであった。

 ただそれでも、心臓を締め付ける何かは遊んでる途中で消えることはなかった。


 一度気になったモノを綺麗さっぱり忘れることはできない。

 忘れるどころか何故こんな気持ちになるのだろうかと疑問に思い、再び存在しない"誰か"を思い出してしまう。

 それはまるで、深い沼にハマり続けているようなそんな感覚であった。



 胸の痛みがなくなっていることに気づいたのは帰り道である。

 長い時間みんなと一緒に過ごせたおかげか、その想いを考えること自体忘れていて、再び思い出そうとしても胸を痛めることはなかった。


 そんな事実は伝えないまま、俺たちが宿屋に着いたのは午後九時を回ったあたりだ。

 それからお風呂を速攻で沸かせて、数分で上がった俺は、リリーナとの打ち合わせに向かう為、身支度を整える。


 「……もうすぐ出るか」


 今行けば城に着くのは午後十時丁度くらいだろう。

 流石に騎士との打ち合わせは長丁場になってはいないと思いたいが……


 ていうか、あれ?

 肝心なことを忘れていたけど……



 リリーナの部屋ってどこなんだ??


 ……

 …………ま、まぁ考えても仕方ないよね。

 とりあえず向かおう。


 少し不安な気持ちを抑えた俺は、泊まっている宿屋の鍵を閉めて、再び夜の街に足を進めるのであった。


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