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第104話  三人との別れ


 あれから数時間経ち、お腹が減った俺はミリカと二人でおじさんの作った焼きそばを食べようと、ボロ家を訪れていた。

 今日を終えたらマリン王国を出立するというのにも関わらず、レティナはルナと、カルロスはゼオと指導の約束をしていたようで、朝から夕方まで宿屋には居ないらしい。

 ちなみにマリーはこの王都を気に入ったようで、一人で買い物に出かけたのだが、皆が皆口を揃えて、


 「今日の午後五時に予定空けといて」


 と言っていたので、その間暇を持て余しているミリカを誘って、昼食を食べに来たということだ。


 「レオンさ〜ん。ミリカさんと〜デートですか〜?」

 「えぇー。羨ましいのじゃ」


 丸いテーブルに用意された椅子の上で、当たり前のように座っているフェルとポーラは、俺とミリカを交互に見つめている。


 「あぁ。そうだよ」

 「っ!? ごしゅじん……」

 「ん?」

 「これ。お詫び……デート?」

 「そのつもりだけど……?」

 「……」


 俺の言葉にあからさまに残念そうな表情をするミリカ。


 酒場でのミリカ大泣き事件。


 寂しい思いをさせてしまったミリカに対して、紳士的な対応を心掛けている俺は申し訳ないと思い、デートの約束を取り付けたのだが、結果的にあれはミリカの策略だった。

 ただ策略だったとは言えど、寂しい思いをさせてしまった事実は違いないので、これがお詫びデートと俺は思っているのだが、ミリカは何か納得していないようだ。


 「……ごしゅじん。これ。ミリカ知ってる。デートじゃない」

 「ふむ……ミリカの知ってるデートって何?」

 「ごしゅじんと二人。雰囲気。ラブラブ」

 「いつそんな言葉覚えたの……」

 「移放人が伝えた言葉。書物で読んだ」

 「なるほど……」


 ミリカが言葉達者になってくれるのは嬉しいのだが、普段どんな書物を読んでいるのかとても気になるところ。

 願わくば、聖書を読んでほしいものだと思う。


 「これ、ミリカ。分かる。デート違う」

 「いや、ミリカ。これはデートだ」

 「……嘘」

 「ほんとだよ?」

 「でも、ラブラブじゃ……ない」

 「ミリカ……ラブラブは目に見えないものなんだ。俺たちは今ラブラブしてる。ね? 二人とも?」


 俺はニコニコしながらフェルとポーラに視線を向け、圧を掛ける。


 頷け。


 口にしなくても視線だけでそれを伝えた俺に対して、二人はびくっとして口を開いた。


 「そ、そうですね〜」

 「ラ、ラブラブなのじゃ……」

 「……ハメられた」


 ぽつりとミリカが呟いた後、おじさんが厨房から姿を見せる。


 「あいよっ。塩焼きそばとソース焼きそばだ」

 「あっ、ありがと」

 「……」

 「ミリカ……お礼は?」

 「あ、ありがとう」


 感謝と謝罪。

 ミリカに口を酸っぱくして教えてあげた言葉だ。


 おじさんがミリカの前に焼きそばを置くと、ミリカは普通の人が行うように手を合わせて 「いただきます」 と言い、箸で焼きそばを食べ始める。

 俺もミリカに続いて 「いただきます」 と手を合わせた後、湯気が上がっている焼きそばを頬張る。


 今日でこの焼きそばともお別れかぁ……


 「レオンさ〜ん。話が逸れて良かったですね〜」

 「ポーラ? 何を言ってるの?」

 「……」

 「こ、怖いのじゃ……」

 「あっ、そういえば俺たち、明日にこの王都を出るから」

 「はい〜。それは昨日に聞いてますよ〜」

 「え? 誰に?」

 「お前の仲間たちだよ。青髪の子は来なかったが、他の奴らがな」

 「……そっか」


 レティナだけ来れなかったという事実に、少しだけ心が痛む。


 本当は来たかったんだろうな……

 なのに、俺のせいで……


 箸が止まっている俺の肩を、ミリカがぽんぽんと優しく叩く。


 「ごしゅじん。伝えた」

 「……なにを?」

 「レティナねーねの伝言。三人に」

 「おう。また会いに来るって言ってたな? その言葉だけでも嬉しいぞ」

 「はい〜。会えなかったのは残念ですけど〜死に別れるわけじゃないので〜」

 「そうじゃな。次会った時には、盛大な宴を開くのじゃ」


 三人が笑顔で俺を見つめる。

 俺が意識を失った昨日から今日の朝まで、レティナはほぼ丸一日側に居てくれたらしい。

 その事実を三人が知らなくても知っていても、この笑顔を見られただけで、少しだけ俺の気持ちが軽くなった気がした。


 「それなら、良かった。ミリカ、ありがとう」

 「……ん」


 頭を撫で柔らかな髪を梳くと気持ちよさそうな表情をするミリカ。

 そんな俺たちを見たフェルとポーラは、少しだけ瞳を滲ませながら頭を下げた。


 「レオンさん。本当に……本当にありがとうございました……この御恩は必ずお返しします」

 「うちも必ず返すのじゃ。レオン様に会えて……みんなに会えて……本当に良かったのじゃ」

 「えっ……と、この前も感謝された気がするんだけど……」

 「そうですね……でも、言い足りなかったので」

 「そっか。じゃあ、どういたしまして。恩なんて感じなくていいけど、そうだな……今度会う時はフェルが言った宴を開催してくれると嬉しいな」

 「もちろんなのじゃ」


 下げた頭をパッと上げたフェルは、大きい胸を張って微笑む。

 その隣にいるポーラはまだ頭を下げたままだったので、少しだけむず痒い気持ちになった俺は、話を変えるため口を開いた。


 「あっ、そういえば、マーゼ王妃に話したの? 二人がおじさんと暮らすこと」

 「……はい。話したのですが……」


 下げた頭を少しだけ上げたポーラは、気まずそうに口籠る。


 「もしかして……ダメだったとか?」

 「違うのじゃ。マーゼちゃんは賛成してくれたのじゃが……その……陛下が……」


 初めてフェルの口から王様の話が出る。

 「陛下」 そう呼んだフェルと王の間には、マーゼ王妃とは違う距離感があった。


 「何か手伝おうか?」

 「い、いや大丈夫です。これ以上レオンさんに、手を貸していただくわけにはいかないので」

 「……うむ。この問題はうちたちが解決するのじゃ。お父さんと暮らす為に……うちたちが頑張らなければならないのじゃからな」


 そう言った二人の瞳は、決意に満ち溢れていた。

 これならきっと大丈夫だろう。


 「そっか。じゃあ、もう策も用意してるってわけだね」

 「流石レオンさんです〜」

 「すごいのじゃっ」

 「言いたくなければ言わなくていいけど、どんな策なの?」


 俺は焼きそばを口に入れて、二人の話を聞こうとする。

 すると、フェルとポーラは顔を見合わして、悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。


 「家出です〜」

 「家出じゃ!」

 「ぶふっ」


 声をそろえた二人に思わず咽せてしまった俺は、テーブルに置いてある水を飲む。


 今なんて言った?

 家出……?

 いや、それは策ではないだろ。


 冷たい水をごくごくと飲み干した俺は、一旦息を整える。


 「だ、大丈夫ですか〜?」

 「マ、マーゼ王妃にはそれを伝えたの?」

 「いえ〜まだです〜」

 「えっと……おじさん?」

 「……」

 「今の聞いてたよね?」

 「……」

 「これについてどう思う?」

 「俺も……止めたんだが……」


 おじさんは複雑な表情をして、ぽりぽりと頭をかく。


 「どれだけ止めてもどうしてもやると言い出してな…………まぁ、なんだ? そこまで娘たちが一緒に暮らしたいって言うんだ。俺も腹を決めなきゃならねぇだろ?」

 「……この親馬鹿が」

 「お、親馬鹿で何が悪い」


 この三人を見てると俺の悩んでいることが馬鹿馬鹿しく思ってしまう。

 この事をマーゼ王妃だけに伝えるにしても、家出なんてしてみれば、城に居る者たちが慌てふためくだろう。

 だから、家出という策は愚策でしかないのだが…………


 「……うん。まぁ、二人ののやりたいようにやっていいと思うよ」

 「えっ? 反対されると思ってました〜」

 「うちもなのじゃ」

 「もちろん俺が当事者ならそんなことはしないけど」


 俺の言葉に二人はゴクリと唾を飲み込む。


 「でもさ……やっとお父さんに会えたんだ。多少無理してでも一緒に居たいんでしょ? なら、俺は応援するよ」

 「やっぱり〜レオンさんは〜女泣かせですね〜」

 「え?」

 「その通りなのじゃ。そんな言葉言われると……尊敬から……違う感情になっちゃうのじゃ」

 「……おいレオン。てめぇ」

 「ま、待ってよおじさん。別にそういうつもりは……」

 「ごしゅじん。罪深い」

 「……」


 ……やっぱり反対すれば良かった。


 おじさんとミリカに睨まれながら、俺は焼きそばを口一杯にかきこむ。


 もう当分食べられない焼きそばだ。

 味わって食べたかったなぁ……


 そんな美味しい焼きそばを食べ終えた後は、他愛のない話を少ししてから、ボロ家を出た。

 この地区は寂れてはいるが、この家だけは暖かかった。

 それはおじさんと出会った時よりも、ずっとずっと……


 いつまでも三人が一緒であるように、と祈りながら、俺は三人に別れの挨拶を済ませ、ミリカと二人で活気づいている街へと戻っていくのであった。

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