母へ。
事実ではありません。完全にフィクションです。
まったく、自分の成分などは、含まれていません。
なんか、太宰治憧れをこじらせた果てに書いた、リズム重視の掌編小説です。恥ずかしくなったら消すかもしんない。
母へ。
母さん、ごめんなさい。
日に日に、父に似ていく私を、赦してくれ。
どうか、この不出来な息子を罵り、嘲り、最期には赦していただきたいのです。
私は母さんの期待を裏切り、中途半端な人間へと育ちました。それでも、母さんは私を支えてくれている。その恩を、私は仇で返し続けている。半端者でも幸せであれ、と願ってくれるあなたを、その気持ちを踏みにじるように、日を増すごとに私は駄目になっていくのです。申し訳ない、そんな言葉では、どうも足りぬように思われます。
母さんは今の私を見れば、きっと私に落胆し、こんな風に育つならうまなければよかったと後悔することでしょう。きっと、します。
酒も煙草も、母さんが嫌っているのを知っていて、私はそれらを好んでのんでいます。
けれど、それもまた、私には必然だと感ぜられる。
私の敬愛した人間は皆、酒と煙草と女体と暴力を好みました。そういう話は、母さんにもしたことがあると思います。私はそういった身勝手で、不道徳な悪漢を、軽蔑の目でみながら、同時に、惹かれていたのです。
あれになりたい。
落伍者になれば、悪漢になれば、それでこそ私だと言えるように思えた。落ちぶれた人間と共にいると、どうも自己嫌悪に陥って、駄目です。けれど、そこは私のような半端者も受け入れてくれる。……いいえ、そうではない。……。私は駄目な人間であるのに、駄目な人間として生きようと思うと、今度は駄目な人間の尺度に合わせて、また、正しく生きようとしていた時のように、必死に何かを演じている。
初めて煙草を吸ったときの高揚感を覚えています。奇妙な興奮と、言いようのない異様の酩酊を。
きっと、私は依存症ではない。煙草をやめろと言われれば、すっかりやめられるような感じがします。けれど、どうにもやめようとは思えません。母さんに嫌われても、私は、これに縋るほかにしようがないと思える。
暴力もしました。
母さんも、良い子そうだと言ってくれた女の子、――そのときの恋人ですが――その、父親を殴りました。や、母さんは、その子と会って、礼節のなさを指摘していたようにも覚えています。確かではありません。
とにかく、その子の父親と会ったとき、私はひどく酔っていました。
泥酔の果ての一方的な無礼で、私は関係の修復を不可能にしました。
そのとき、酒を辞めようと思った。
これをやめなくては、真人間どころか、悪漢にもなれない。このままでは、完全な狂人として、窮屈な牢獄にでも入れられてしまう、と。
けれど、交友関係を失った直後の、喪失感、寂しさを紛らわす手法を、私は酒以外に知りませんでした。
母さん、母さん。私は、あなたが分からない。自分も、なにも、もう、何も分からぬ。
普通の家庭では、親子はどういう風に接するのだろう。私には、てんで、分からぬのだ。