だって、オオカミなんだもん
さて、結婚して三ヶ月目に突入する、今日。一つ問題が出てきた。
そろそろ二回目の満月なのだ。
あのウサギにマティと名付けて、少し家に慣れてきているプティラを思えば、今満月が来るのは、とてつもなくやばい。
うん、これは、天地がひっくり返るほどのやばさである。
結婚して一回目の満月。
あの時はまだ一ヶ月弱しか経ってなく、プティラとの物理的な距離もあり、しかもいつも警戒されていたから問題はなかったし、プティラ自身あまり部屋から出てこようとしなかったから、気にもしていなかった。
多分、今日は一段とオオカミの気配が強いなくらいは思っていただろうけど。
でも、マティを助けたお礼のりんごが食卓に置かれ、その後から、警戒心だけは少なくなってきたようなのだ。その実、時間が合えば、テーブルの長辺にしか座ってくれないけれど、一緒に食事も出来るようになってきている。
さて、どう回避すれば良いのだろう。
と思っていると、キャナルさんが僕に話しかけた。
「ダイ君、悩み事かい?」
「はい、実に由々しき事態です」
そして、キャナルさんがふふーんと納得し、「満月だな」とニヤリとした。
そう、十三番目とはいえ、一応王族なのだ。
王族と言えば、オオカミの血が濃い。そのくせ、人化するというとてつもない特異体質。
満月が近づくと、体がむずむずしはじめて、オオカミに戻る。
オオカミのお嫁さんなら、それを見てうっとりしてくれることもあるのだろうけど。
キャナルさんのニヤリの意味を考えて、苦笑いした。
「銀色オオカミだよね」
「はい、しかも普通の1.5倍と言われています」
実際のオオカミのリーダーと並んだことはないけれど、犬っころが成狼になった姿を見ても、僕たちが大きいのは確かだ。国王の父なんてほぼ二倍くらいの大きさに見える。
ただ、満月に輝く銀色の毛並みと、その威風堂々たる姿は、オオカミから見れば、本当にかっこいいのだ。
「大丈夫だ、きっと惚れ直してくれるさ」
やはり、キャナルさん。
突っ込み所満載の慰めをいただいてしまった。
はい、まず僕は一度も惚れられておりません。
そして、やっと少しだけ警戒心が緩んできたかな、と思っているところに、これです。
溜息しか出ません。
うん? なんで溜息なんて出るんだろう。
よく分からないけれど、とにかくまた警戒されて、くすんだ顔色に戻られるのは、嫌だった。
そして、本日は公休日。満月の前日と当日の王族は家族みんなでゆっくり過ごす。むずむずするから、難しいことに集中できなくなってくるという理由ではあるけれど。
だから、僕もリルラさんに言われて、一応家族のプティラとともに、庭でピクニックをしている。ピクニックの理由は、プティラを太陽の下に出すため。顔色が悪かったのは、太陽の光が足りなかったんじゃないか、とリルラさんが言うのだ。プティラもなぜかリルラさんの言うことはちゃんと聞く。確かに、リルラさんはちょっと小さめの女の人だけど。その分、怖くないのかもしれないけど……。
僕と一緒のオオカミなんだけどな……。
まぁ、人化して長いから、満月の度にオオカミ化する僕よりもずっとオオカミっぽくないんだろうけど。
溜息を付きたくなる。
だって、一般オオカミと人化オオカミを統率するには、このくらいのオオカミ率は絶対に必要なんだもの。だから、一般オオカミがウサギさんを狙わないようにもできるわけだし。
……もちろん、あの犬っころ達は僕やキャナルさんを見下したりしてないけど、僕が国王の父みたいにみんなを統率することなんて絶対にないんだけど……。
バスケットの中にはカツサンドと野菜サンド、それから小さめのりんごが二つある。
摘まみ上げたカツサンドはとてもパンが大きい。きっと肉の部分が見えないようにしてくれているんだと思う。リルラさんは色々なところで気を使ってくれる、有り難い人だ。何度も、大きい方が僕のだと念押しされたから、きっとそう。
そっか、だから、プティラもリルラさんのことは信じられるのか……。
マティはちょこちょこ草陰に隠れては、立ち上がり、プティラを眺めて、安心するともぐもぐを始める。主に庭に生えている葉っぱを食べているみたい。
「元気になって良かった。ありがとう」
「はい」
野菜サンドを両手で持ってもぐもぐ食べる姿は、マティにそっくりである。
「あのね、プティラ……」
「はい」
満月のことを話そうと、僕はバスケットを挟んで座るプティラに向き直り、大きく息を吸う。
「えっと、……えっとね、明日ね……、僕……、お、おお……雨降らないかなぁって思うんだ」
どうしよう、言えない。
本物のオオカミになる時があるなんて、言えない……。
「大雨?」
そのまま言葉が出てこなかった僕に代わり、プティラが首を傾げて不思議そうにしていた。
満月の光でオオカミになるから、雨になって欲しいなって思うんだ……。
「……うん、夜までずっと雨ならいいなって」
「……あめ?……」
もう一度そう言いながら、プティラが青く晴れた空を見上げたので、「降りそうにないよね」と一緒に残念な空を見上げた。
せめて、分厚い雲に覆われないかなぁ。
「雨が良いのですか?」
僕はそのまま大きく肯いた。
オオカミの真実は言えなかったけど、珍しく、プティラが僕に興味を持ってくれていたのが、ちょっと嬉しかった。