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今日も元気に行ってきます!(お散歩編)

 とりあえず、一家の大黒柱ということになった僕は、職務をもらうことになってしまった。勤め始めてまだ2週間だけど。


 朝、「行ってきまーす」と遠くにいるだろうプティラに声を掛けると、何かが動く気配だけがする。

 きっと、穴に隠れてしまうんだ。

 ウサギさんは穴に隠れるって書いてあったし。穴? きっと部屋。


「おい、ダイ」

例の生食好きのサイ兄さまが背中をどんと叩くから、咳き込んで「おはようございます」と返す。


「ウサギの嫁はどうだ?」

「うーん……近づくと逃げる」

サイ兄さまは「くくっ」と笑いながら、「がんばれ」とだけ言って僕を追い抜かしていった。


 サイ兄さまは一番が好きだから、いつも先頭を走っている。そして、大型の動物を見張る花形の仕事をしているし、体も大きい。


 兄弟の中で一番小さい僕の仕事は、一種の教育係だ。

 まだ、犬っころと呼ばれるふわふわの子達に、一応の序列や野生での生き方を教える係。

 わんわん、きゃんきゃん、しか言わない。


「最近は、わんわんって鳴く子も増えてきましたねぇ」

そう言うのは、先輩のキャナルさん。この道20年のベテランさん。

「だって、野生じゃないんだから、犬と同じじゃないですか?」

そう、犬族は人族に仕えることを仕事にしている。


 人族はこの世界で一番弱いくせに、一番怖い生き物。頭が良く回るように出来ているんだ。

 全部が悪い人じゃないところが、よく分からない種族だと思う。

 父はよく言っている。


「人族は、裏切りということを平気で戦法だと思っているから、気を付けないと」と。

犬族やオオカミ族は忠誠を第一に裏切らないから。まぁ、オオカミからすれば、犬もオオカミから派生しているくせにの裏切り者にはなっているけど。


 ウサギさんには力世界で野蛮だと言われることもあるけど。ウサギさんはそもそも僕たちを信じていないから、よく分からない。とりあえず、プティラがいる間は、うちが睨みをきかせるから、一般オオカミがウサギを襲えないことにはなるけど。そんなに一般ウサギ減っているのかなぁ? 今。


 あ、でも言ってみれば、生け贄なんだ、プティラって。

 そっか……。じゃあ、逃げたくもなるよね。でも、生け贄が逃げてちゃだめな気もするけど……。


「えっと、今日一日のデイリーは……と」

キャナルさんは、面白い。デイリーなんだから、一緒なのに。


「はい、お散歩の仕方ですね」

「そうそう」

誰かについて歩く練習。とっても大切。

「今日のリーダーはダイ君だね」

「はい」

そう言われて、一番を歩く。今日は小川まで。


「付いてきてね~」

犬っころ達は、一生懸命僕に付いてくる。僕は、その子達を蹴飛ばさないように、気を付けて、リーダーの前に出ないようにだけ教える。


 キャナルさんは、後ろから迷子が出ないように見守ってくれている。

 犬っころ達はとってもかわいい。


 だけど、たまに、1歳を過ぎて、2歳まで待ってもまだ人にならない子がいるんだよね。

 そうなると、野性に返さなくちゃならなくなる。一般オオカミとしては充分に成人だから、複雑なルールのあるここでは住めない。捕っていい食べものと、捕ってはだめな食べものは理解しなくちゃ、追い出される。


「わんわん、きゃんきゃん」

「ほら、僕より前に出ない。順番はちゃんと覚えておくよーに」

そう思えば、犬族がそんな子を人族にペットとして育ててもらうっていう手段は、親としてはまだ安心なのかなぁ。


 そうなのかもしれない。手放すけれど、傍にいることが出来るから、犬族は生まれた時に子どもに名前を付ける。

 犬っころじゃない。



「ただいまぁ」

やっぱり奥の方でかさこそ音がする。

「プティラは?」

一応、ひとりだけ、お世話係のリルラさんがいる。

「プティラ様は、……巣ごもりでございます」

「ふふっ」

巣ごもりって。冬でもないのに?


 そんなことを思いながら、リルラさんに荷物を渡し、夕飯に向かった。

 テーブルの上には銀食器があって、最近は野菜も多い。

 僕は野菜も食べられるけど、プティラはお肉が食べられない。人の形だったら、気分的に食べられないだけなんだろうけれど。


 捕食される側って、大変だなと思う。

 だけど、プティラのお皿にはまだたくさんの野菜が残っていた。


「プティラ、食欲ないの?」

「いいえ、旦那さまより先に食べることは出来ないと、隠れて仰っておりました」

「そっかぁ……じゃあ、いっしょに食べれば良いのにね」

食べられないのは、僕のせい? それとも、お皿に載っているお肉のせい?


 そう思って、自分の腕に鼻を近づける。

 オオカミの匂いがする。僕は落ち着くんだけど、プティラは落ち着かないのかな?

 その晩、僕はプティラの部屋の前で扉とお喋りをした。


「あのね、プティラ。ご飯は先に食べててくれて良いから。あとさ、プティラってやっぱりニンジンが好きなの? あのオレンジのお野菜。赤っぽい食べものだったら、僕はりんごが一番好きかなぁ。お肉以外だと。あ、甘い物とかは食べられる? キャナルさんっていう先輩がいてね、甘い物が好きでとっても詳しいんだ……えっと……」

そこまで言うと、ネタが尽きてしまった。


「プティラ、おやすみ~」

一応、カサっと音がする。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 絵面がですね……ものすごく……かわいい……っ!! ちっちゃい「犬っころ」たちがぞろぞろころころついてくる。なんて、かわいいんですか……!! しかし、ただそれだけでは終わらない事情ものぞかれ…
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