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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒットマンウィークネス

作者: 春川立木

3年ぐらい前に書いてた話です。

ファイルの奥底から掘り出された骨董品みたいなやつです。

ま、希少価値は無いんですけどね。


東京のとあるビル。

地上30階から地下5階まである超高層ビル。

そのビルは世界で有名なイベント会社が所有しているものだか、それは表向きの話であり、本当は殺しのプロが集まる闇会社 『Killers company』 通称KC。


KCは金さえあればどんな汚れ仕事もやってのけ、さらにはKCに入るだけで箔が付くため世界中の殺し屋は、こぞってKCに入ろうとする。

その名は裏社会だけでなく表社会にまで知られている。


KCのビルの一室。

いかにも社長室っぽいその部屋に、殺し屋の卵である亀崎信眞(かめさきまこと)姫島亜鶴(ひめじまあづ)は呼ばれていた。

その2人の前には3人の男達が偉そうに座っている。

真ん中の男は40歳にしてこのKCの会長を勤めている坂田。

右には会長の補佐兼秘書の松浦。

まぁ坂田会長の破天荒ぶりに振り回されている可哀想な人らしい。

で、最後の1人は信眞の元バディにして先輩、20歳で殺し屋のトップに登り詰めた男、佐野だ。めちゃくちゃやばいメンツを前に亜鶴は、自分の髪をクルクルと遊ばせている。


「ゴホン」


坂田が咳払いをし、話を始める。


「ここに2人を呼んだのには理由がある。君たち2人でバディを組み、ある任務をこなして欲しいのだ」

「任務ですかー?」


 亜鶴の腑抜け声が部屋に響く。


「はぁー。亜鶴くんにはもう少し殺し屋らしく振舞ってほしいよ」


 頭を抱える坂田はやれやれと首を横に振りながら話を続ける。


「殺し屋の若葉である君たちは、殺しのスキルはピカイチだ。だが、殺し屋には向いてない欠点がある」


 そう言いながら坂田は机の上にあったリモコンを操作する。すると上からスクリーンか降りてきて、プロジェクターがつく。そこには日本人なら誰もが行ったことのある、遊園地のホームページがのっていた。


「今回はここで欠点の克服兼、依頼をこなしてもらう」

「えっ、遊園地いけんの!?しかもネコミミランドじゃん」


 目をキラキラさせた亜鶴が食いつく。


「ただの遊園地ではない」

 

坂田は今回の任務の説明を始める。


「実はこの遊園地はマフィアのアジトだと情報があったんだ」

「マフィア……」


信眞の声が漏れる。


「で、そこのマフィアのボスに娘がいるんだが、依頼人がその娘を気にいってな、誘拐して来いと言っているんだ」

「えっ今回殺しではないんですか。」


いつもは殺しの依頼を受けているはずが、今回は殺しではなく誘拐と言う変則に疑問を持った信眞が質問する。


「その通り。この依頼では、誰1人として殺してはいかんのだ。なんとも、依頼人がマフィアの関係者を殺したら、そこのボスが激怒して娘との結婚を破棄される、とかほざくんだよ。誘拐の時点で、逆鱗に触れるだろうに」


めんどくさいね、と坂田が隣の松浦に話しかけると、まぁまぁお金はもらっているんですから、と松浦がなだめる。 


「まぁ、嫌なら他の人に譲るのだが…」

「いくいく、絶対行くねっ早く行こ!」


そう言って、信眞の袖を引っ張る。

その時信眞は急に白目を向けるとバタンと床へダイブした。


「えっ?えっ!?」

 亜鶴は慌てふためき男3人ははぁーとため息をつく。


「信眞は重度の女性恐怖症なんだよ」

「おかげで、女性を相手にする任務となるとことごとく失敗してよぉー、困っちまうよなぁ」


ぺちぺちと佐野は信眞のほっぺを叩く。


「おーい、起きろー、早く任務いけー」


 何度も叩くが、全く反応がない。


「こりゃ起きねぇなぁ、まぁいいや」


そう言って佐野のは叩くのをやめ、亜鶴の方を見る


「君可愛いね。18歳?」


 佐野のナンパが始まる。


「もうすぐ19になるけど」


亜鶴はナンパ慣れしているのか、冷静に返答する。


「見た感じ、その腰についてるおもちゃの銃、それ武器なの?」


亜鶴の銃は金属の重々しい感じではなく、プラスチック出できた可愛らしい銃を腰につけていた。


「よかったら俺の銃使う?この銃ルガーp08って言うやつなんだけどさぁ、これもともとドイツ軍が使ってた自動拳銃で、独特なトグルアクションがかっこよくてさぁ、見てよこの関節みたいなトグル惚れ惚れするだろう」

「は、はぁ」


困った顔をした亜鶴は、少し面倒くさそうに話を聞く。


「早くいかせてあげたらどうだ」

 

松浦が佐野の話の腰を折りようやく佐野の興奮が収まる


「じゃあ、行ってきます」


そう言って、信眞をおんぶした状態の亜鶴が、ペコリと頭を下げ部屋から出て行く。




 

東京から電車で揺られ約2時間、ネコミミランドの最寄り、その名も三味駅。

駅を出て3分ほどでネコミミランドの入場口に着くため、周囲には人だかりができていた。

少し目を離せば迷子になるほどだ。

「着いたー!!」


駅の改札を出た亜鶴が、背伸びをしながら空を見上げる。


「とりあえず中に入ろうよ。私お腹すいたんだー」

「………」


 信眞は目を合わせるどころか、亜鶴を横切り歩き続ける。


「はぁー……ごめんて急に触って、だって知らなかったんだもん」


信眞に追いつくために小走りをしながら亜鶴が謝罪をする。

だが信眞はスタスタとスピードを落とさず歩く。


「うわー、いくら女性が苦手だからって無視はひどくない?」


少し引き気味で悲しそうな亜鶴に申し訳なくなったのか信眞は口を開く。


「今から言う事はすべて独り言です。任務の遂行する時間はまだ決まっていませんが、17時の段階になって僕の端末に任務の内容が送れるはずです。その間の時間は暇なので、適当に時間を潰そうかなと思います」


そう言って信眞はスマホを開き、時間を確認する。

時刻は12時30分、5時間近く空きがある。


「えっ、じゃあ自由行動でいい?そしたら17時ごろ入場ゲート付近で集合ね、じゃあね」


 亜鶴はよっぽど遊びたかったのか、猛ダッシュでネコミミランドの中に入っていった。




 

楽しい時間が過ぎるのは早く、あっという間に17時。


入場ゲートには今日1日ネコミミランドを遊んだ人たちが、名残おしそうに帰っていくのがちらほら見受けられる。


入場ゲートの一角に立っている信眞は、17時を過ぎたにもかかわらず亜鶴のことを待っていた。


任務内容はとっくにに来ているのにバディーがまだ来ていないことに少しイライラしながらも待つこと20分、両手に大きな荷物を抱えて亜鶴が走ってやってくる。


「ごめんごめん、待たせちゃったね。もう任務来てたりする?」


20分も前に来ているのにと思いながらも、信眞は自分のスマホを地面に置き少し離れる。


「近づくのも無理なんだ」


亜鶴は少し残念そうな顔をしながらスマホを手に取り任務内容を確認する。


「えっと、18時ちょうどにネコネコレストラン前の施設にいるマフィアのボスの娘をさらう……ネコネコレストランって私、そこでご飯食べたけど、前に何あったっけ?」


そう言って、亜鶴は信眞に直接スマホを返す。だが信眞は受け取ろうとしない。


「あっ」


それに気づいた亜鶴は面倒くさそうにスマホを地面に置き、一歩離れる。


亜鶴が離れたのを、確認して信眞がスマホを回収する。

めんどくさっと亜鶴はつぶやくが、信眞は気づかず、ネコネコレストランの方へ向かっていく。




 

きらびやかな建物が並んでいる中、1つだけやけにボロボロの建物。

看板には掠れた字で灰村病院と書かれている。

ところどころには赤い手跡、血しぶき、コケといった怖い雰囲気をかもし出している。

夕方と言うこともありそれはさらに高いレベルとなっている。


「ほーなるほどそういうこと……じゃあ、私は帰ります」


見なかったことにするかのように亜鶴は回れ右をする。すると


「いたっ」


小石が亜鶴の後頭部に当たる。


とっさに振り返ると、信眞は目を逸したまま何事もなかったように中に入っていく。


「わかったって、冗談に決まってるじゃん」


ハハハとひきつった顔を浮かべ、信眞に続いて中に入っていく。

 


ここのお化け屋敷のコンセプトは10年前に潰れた病院で、潰れる前は院長の灰村が病院内で人体実験をしていたと言う噂が流れていたらしい。

その名残か、病院と関係のない牢屋や手錠といったものが、あちこち見られる。

どれも血が付いていて、少し生臭い。


本当にこんなところにマフィアのアジトがあるのだろうか。

あったとしてもなぜここにあるのだろうか。

そう思いながらも信眞はあたりを詮索する。


「ムリムリムリ。まじでむり、絶対死ぬ。なんでこんな暗いの! 頭おかしいでしょ! 血ぃあるし、まじ意味わからん!」


ガタガタと震えている亜鶴が文句を言いながらも怪しいものがないかを辺りを見回している。


「ここでお化けとかゾンビとか出てきたら、殴ってもいいよね。許されるよね」


怖すぎて頭がおかしくなったのか、よく分からないことを言い出す亜鶴。


 『ガタンッ』


急に棚から物が落ちる。

「きゃっ!!」

亜鶴は物音にびっくりして、尻餅をつく。


「もういやだ…帰りたい…」


尻餅をついたのが痛かったのか、びっくりしたことに恐怖を感じたのか、泣き始める。

さらに追い討ちをかけるかのように亜鶴の後ろに何かが近づく音が聞こえだす。


その音は徐々に近くなっていき、それに気づいた亜鶴は、世界の終わりかのような顔になり、声も出なくなってしまう。

恐る恐る振り返るとそこには血だらけのゾンビが、掠れた声を上げて襲って来てた。


「あがががががががががが」


どちらがゾンビか分からないほど、今にも死にそうな顔で亜鶴が奇声をあげる。


「ぎゃーーーーー!!」


亜鶴は耐えられなくなったのか、その場から逃げ出す。


ここまでびっくりしてくれる客がいるとなると脅かす側も少し嬉しくなるのか、少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「はぁはぁ、うっ、おえぇーーーー」


あまりの恐怖に亜鶴は、嗚咽する。

昼に食べたであろうパスタが床一面に飛び散っていく。


「もういやだ…。なんでこんな目にあうの…。私がホラー苦手って知ってて、あいつらサイコパスすぎない」


涙目になりながら坂田達の愚痴を言う。


「あーなんかイライラしてきた。次、脅かしてきたら絶対殴ってやる…」


口元を手で拭いながら立ち上がる。


「さっさと終わらして帰ろう…。それにしても、ここ暗すぎない? 」


そう言いながらポケットに入れていたスマホでライトをつけようと思い、スマホを手に取ろうとする。


「あれ!? ない! 嘘……」


何度もポケットの中を探す。


「落とした!? いつ……」


亜鶴は、先程尻餅をついたことを思い出す。


「あんときだぁー……」


せっかく立ち上がったのにまた座り込む。


殺し屋としてここに来ているのに、1人でこんなところに逃げてきて、どんくさいし、怖がりだし、やっぱ向いてないのかなこの仕事……。

てか私なんで殺し屋になったんだろう……。


そんな陰気くさいことを考えていると、ふと前に誰かが立つ。

見上げるとそこには信眞がいた。

走って亜鶴を探していたのか息遣いが荒くなっている。


「ごめん、私マジ無理っぽい」

 

その言葉は亜鶴のやつれた顔、周りに飛び散っているゲロを見るに、冗談ではないと信眞は理解する。


「それに、さっきスマホ落としちゃうし…」


亜鶴は申し訳なさそうに俯き、身を縮こめる。

しばらく沈黙が続いた。


「本当ごめ……あれ?」


顔をあげて前一度謝ろうとすると、すでにそこには信眞は居なかった。


「そりゃ、怒って帰っちゃうか……」


不甲斐ない自分にため息をつき、再び顔を腕に潜らせる。





信眞は来た道を走って戻っていく。

入って来た入り口の方へとにかく走って行く。

そして、信眞は亜鶴が逃げ出したところまで戻ってきていた。


亜鶴に愛想尽かして帰るのではなく、亜鶴のスマホを探すためにここまで戻って来たのだ。


近くにはまだゾンビの格好をしたスタッフがいる。

信眞はそのスタッフに声をかけた。


「あの、すいません、ここら辺にスマホ落としていませんでしたか?」

「スマホですか?はい。ありますよ。先程彼女さんが落とされたものでしょう」


そう言ってスタッフは亜鶴のスマホを差し出す。

 

その声はゾンビとはあまりにもかけ離れている可愛らしい声だった。


「えっ…」


その時、信眞の思考が止まる。

 

一瞬にして血が上り、呼吸もできなくなる。


ここで倒れてしまえばまた同じこと。

そう思ったのか信眞は無理矢理自分を鼓舞して、ふらつく足を踏みとどめる。


「あ、ありがとうございます…」


できるだけ女性だと言うことを考えず、スマホ受け取り、逃げるかのようにその場を立ち去る。

 

亜鶴の元に帰ってきた信眞は亜鶴のスマホを差し出す。


「えっ、それ私のスマホ!」


ありがとう、と言いながら亜鶴はスマホを受け取る。


「もしかしてわざわざ取りに行ってくれたの?」


コクンと頷く信眞に嬉しくなったのか、亜鶴は抱きつこうとする。


それに気づいた信眞は一線をひき、それに対して亜鶴も気づいてギリギリのところで留まる。


「危ない、危ない」

 

信眞を見てニコッと笑う。

 

だが信眞は目を合わせてくれない、目を合わせないというよりは、亜鶴の後ろを見ているようだ。

 

信眞の顔が段々と青ざめていく。

 

亜鶴もそれに気づいたのか、どんどん息が荒くなっていく。

さらには、恐怖で手がふるえ、汗が吹き出し、鳥肌がたつ。

 

そして恐怖の限界を超えた亜鶴は、振り向くと自分の拳を力いっぱい握り締め、血だらけのナースの顔面目掛けて殴り飛ばす。

 

ぶっ飛ぶナース。

目が飛び出るほど驚く信眞。

壁にぶつかったナースは気を失う。

 

するとナースがぶつかった壁が3センチほど開いている。


「隠し扉…。」

 

飛び出た目をしまいながら、信眞が唖然とする。


「殴っちゃった。殴るっていたの冗談だったのに…」

 

怖かったとは言え、スタッフを殴ってしまったことに罪悪感があるのか、殴った手を見ながら嘆いている。


「——おっも」

  

信眞は少し開いた隙間に手をいれ、開けようとしている。

 

ギギギギギと軋む音を立てながら壁は少しずつ開かれていく。


「えっ隠し扉とかあったの、ここ…」

 

自分が殴った衝撃で開いたことに気づいていない亜鶴は人ごとのようにびっくりする。

 

中には下につながる階段が続いていた。


「うわー、もっと怖い雰囲気じゃん、もしかしてこの中行く感じ?」

 

亜鶴の質問に答えるようにためらいなく中に入っていく信眞。

それに続いて嫌々ながら亜鶴もついていく。

 



階段を降りると、あたりにはロープやら、段ボールやら、散乱していた。

さらにお化け屋敷に使うであろう道具も揃っている。

どうやら物置部屋のようだ。


「うわー汚ったな。本当に、ケモミミランドにマフィアのアジトがあるなんて、誰も予測出来ないでしょ」


 そう言って亜鶴はあたりを見渡す。


「なんか、お宝とかないかなー。見た感じガラクタばっかで、つまんない」


ある程度部屋を見渡し、亜鶴は右横に信眞がいることに気がつく。


「ねぇ何かあった?」

と、右をむく。


そこにいたのは信眞ではなく、骸骨の模型。


「いやぁーーーーー!!」

 

びっくりした亜鶴は、またしても奥の通路へと逃げていく。


「ただの模型にここまでビビるか?普通」


呆れながら奥から出てきた信眞がポンポンと骸骨の肩を叩く。

 

その時、あたりからサイレンが鳴り響く。


「まじかよ……」


奥の通路からバタバタとマフィアの手下たちが走ってくる。数はざっと10人ほど。


「侵入者を捕らえろー!!」

「こいつらは、俺たちを殺せない!無理矢理にでも捕まえて、功績をあげるんだ!」

 

どうやらこちらの情報を知っているようだ。

いつの間にか手下たちは信眞の周りを囲んでいる。


10人は一斉に銃を構えてこちらに近づく。


「さぁ、武器を捨てて手を上げろ」

「あのー。この中に女の人はいますか?」


敵の言葉を無視し、信眞は目があっている1人の男に質問する。


「女?何言ってんだてめぇ、見たらわかるだろ全員男だ」

「そうか。なら安心です」

「いや、そうじゃない、武器を捨てろと言っているんだ」

 

話を変えられたことに気づいたのか、もう一度同じことを言う。


「武器なんて持ってないですよ」

 

信眞は両手を上に挙げ、さも当たり前に答える。


「嘘をつけ、何も持っていない殺し屋がいるわけないだろ!」

「いやいや、ほんとにないんだって」


信眞はその場でしゃがみ、近くにあったロープを掴む。


「だって、そういう戦い方だから」

 

そう言って信眞は、手下たちに突っ込んでいく。驚いた手下は慌てて銃を構える 。


「撃て!撃てー」

 

10人が、一斉に乱射をする。が、一発も信眞には当てれない。


「くそ。なんで当たらねえんだ」

 

いつの間にか信眞は、奥の通路に立っていた。

それに気づいた手下たちは銃を信眞に向け直す。


「もう撃っても遅いです」

「「「えっ……?」」」


信眞の手に持っていたはずのロープがその手から消える。

無くなったロープは10人全員の体を固く縛っていた。


「いつのまに…」

「君たちが僕に乱射している時にです。実は強いんですよ、僕」


男相手限定だけど、と付け加えて、信眞は1人の手下の元へ近づく。


「その銃と弾貰って行くけど、いいですか?」

 

横たわって、身動きができない男は、されるがままスーツの裏ポケットの中に入っている、弾と手に持っているハンドガンを奪われる。


「あーそうです。ここからボスの娘までの道のり教えてくれますか?」

「教えるわけねぇだろそんなもん、アホかてめぇ」

「へー今置かれている状況が、わからないんですね」

「わかってて言ってんだよ。だって、殺せねーだろ俺らのこと」

「殺さないように痛めつけることは、できるんですけどね」

 

信眞は男から奪った銃の銃口を男の右手に押し付ける。


「あっすいませんでした。えっと、そこの通路左にずっと行ったら、右側にやけにごついドアがあるんで、その中ずっと行ったらボスの娘がいます」

 

男は人が変わったかのように、手のひらを返す。


「ありがとうございます。」

 

信眞はにこっと笑って引き金を引くと、部屋を後にする。


男の叫び声が通路に響いていく。

 




「はぁはぁ、また逃げちゃた…」

 

物置の骸骨にびっくりして飛び出した亜鶴は、先程の場所より少し明るく開けた通路に来ていた。


「なんで私、こうあるんだろう」

 

両手で口を覆い、深くため息をつく。

 

自分自身に腹が立つ。今思えばここに来てからバディーに迷惑ばかりかけてきた。

いちいちびっくりして、わーキャー喚いて、もううんざりだ。


 『ドクシャッ!!』


鈍い音が通路に響く。


「これは戒め、そして気合入れ!」

 

亜鶴の右頬は赤く腫れ、唇から血が出ている。


「まず、さっきの部屋に戻って合流しないと」

 

覚悟を決めた亜鶴は振り返る。


「1人で何やってんだぁおめぇ」


そこにはスーツを着た男が10人ほど、少し引き気味で立っていた。


「何って、殴ったのよ自分で」

「お、おうそうか。楽しそうで何よりだ……。じ、じゃあ、俺らは帰るわ」

「いやいやリーダー、こいつを捕まえるんでしょ。引いてないでさっさとやってやりましょう」

 

めちゃめちゃ引いているリーダーは、亜鶴に離れようとするが、隣にいる男から肩をつかまれ連れ戻される。


「そうっすよリーダー。こいつは人殺しできないんですから。とっとと終わらせましょうよ」

「あ、あぁそうだな。どうせ向こうもすぐ終わるだろうし、こっちもやってしまおう」

 

向こうとは信眞のことだろうか。


「よく知ってるね。確かに今回の任務は、殺しはNG。でも、血を見なくて済むなら、願ったり叶ったりってやつ」

 

そう言って亜鶴は腰に付けていたおもちゃの銃を取り出し、銃口を相手に見せる。


「なんだその銃、ハッタリか?まぁいい、お前ら撃ちまくれーーー!!」

 

バンバンと放たれる鉛に対してポンポンと放たれるのは小さなプラスチック。


「そんなんでひるむのは小学生ぐれーだよ。アホがぁ! 」

「それはどうかな。小学生くん達」

 

亜鶴が放った弾は、的確に男たちの眉間に当たっていく。当たった弾はまるでカプセルのように割れ、中から液体が溢れ出る。


「なんだこの液体!」

「うえっ、きったねー」

「あれ…なんか…眠たく…なっ…て…き…た…」

 

バタンと1人が倒れ込むと、連鎖するように次々倒れていく。


「何しやがった、このアマ!!」

 

自分の部下が倒れていくイレギュラーに恐怖を感じたのか、慌てた様子で銃を向ける。


「私、本物の銃怖くて使いきれなくてさ。特注で可愛いエアガン作って貰ってるの。でも、それだけじゃ殺傷能力低いから、BB弾の中に薬いれてるんだよ。」

 

不敵な笑みを浮かべ、銃にキスする亜鶴。


「薬?!」

「大丈夫、ただの睡眠薬だから、少ししたら起きるよ。」

 

そう言っている間も、眠気に耐えきれなくなった部下が倒れていく。

 

気づけば、まだ立っているのはリーダーだけとなった。


「なんで10対1で倒せねえんだよ。こんな女相手によぉ 」

「実は私、臆病でビビリなだけで凄く強いのですよ。じゃあ、おやすみなさい」

 

ポンッと放たれるカプセルは、少し開いた口に綺麗に入る。リーダーは、それを反射的に飲みこんでしまう。


「うごっ」

 

体の中で割れたカプセルから睡眠薬がとろけ出し、それは一瞬にして体に回り、最後の1人が倒れる。


「早く合流しなきゃいけないって……ん?」

 

先を急ごうとしていた亜鶴は、やけにゴツいドアを見つける。


「ボスの娘の匂いがする……」

 

クンクンと鼻を動かしながらドアを開ける。




 

「ゴツいドア……、ゴツいドア……」

 

信眞は走りながら、ドアを一つ一つ見ていく。すると、一つだけやけにゴツゴツしたドアを見つける。


「あった。ここか……」

 

足を止めドアを強く押す。


「きたか……」

 

ドアを開けるとそこにはボスの娘でなく、亜鶴が大柄な男に羽交い締めされ、銃を突き付けられていた。


「ごめん。捕まっちゃた」


てへぺろと舌を出す。


「おっと、それ以上近づくなよ。こっちはいつでも殺せるんだ」

 

近づこうとした信眞を止めるように、突き付けた銃を見せつける。


「この女を助けて欲しければ、持っている銃を捨てて、そこの床に落ちてる手錠を腕につけろ」

 

信眞は床に落ちている手錠を見下げる。


「早く銃を放せ!主導権は、今、俺が持ってんだ!」


信眞は指示を仰ぐ男に耳を貸さず、持っている銃を男に向ける。


「俺を狙うつもりか?やめとけよこの女に当たるぞ」

 

亜鶴の頭に突き付けた銃を、大柄な男が嘲笑いながらぐりぐりと動かす。


「うぐっ。私のことは……無視して……先、行って……」

 

亜鶴はこれ以上迷惑をかけまいと、信眞に対し、銃を押し付けられたこめかみの痛みを我慢して、引きつった笑みを浮かべながら言った。


「すいません。少しだけ、僕の話をしてもいいですか?」


不意に信眞が口を開く。


「僕、女性が苦手なんですよ……。例えば任務で女性を殺すとなると、ことごとく失敗するんですけど、なんでだと思います?物心つく頃には親父から殺しの事ばかり教えられた、エリートの僕がですよ」

「しらねーよそんなもん。いいから早く銃を置け!」


男の催促を無視して物語る。


「当たらないんですよ。弾が、何度打っても、全部…。恐怖で手が震えて当たらないとかじゃなくて。」


信眞はさらに話を続ける。


「どこかでストッパーがかかっているからなんでしょうけど、自分でもわからないんです。例えゼロ距離に女性がいたとしても、僕は弾を当てることはできないでしょう。そんな人間なんです」

 

信眞は右手に持っている銃の標準を男から亜鶴に変更する。


「撃つのかよお前。俺じゃなく女のほうに当たるぞ。それにお前ら俺のこと殺せねぇだろうが。下手に撃って殺したら任務失敗だぜ」

「別にあなたを殺そうと思ってないですよ。僕はただ、目の前の女性に対して撃つだけですから。まぁ当たりませんが……」

 

信眞は引き金を引く。

 

銃から放たれた弾は、一直線で亜鶴の首に向かっていく。が、当たったのは亜鶴ではなく、首に手を回していた男の方だった。


「いってーーー!」

 

当たったのは、腕だったので致命傷にはならいが、男の腕からは血が大量に垂れ流される。

 

それを見た亜鶴が、発狂する。

たとえ撃たれて力が緩んだとしても、大柄な男の力に女性が勝てるはずがない。

はずがないのにも関わらず、亜鶴は軽々と腕を振り解き、その場でしゃがみ込む。

そして男の顎を狙うかのように、思いっきしアッパーをかます。

 

女性かと思えないほどの威力。男は天井に頭を強打し、床に倒れ込んで白目を剥く。

 

血に驚いた亜鶴は、ガタガタと震えている。それを見た信眞は申し訳なくなったのか。


「……す、すいません……でした……」


と、ボソボソ謝罪をする。

 

それを聞いた亜鶴は、初めて自分に声をかけてくれたことに嬉しくなり、怯えていた顔はいつの間にか満面の笑みに変わっていた。


「えっ、今……私に言った?言ったよね!」

 

亜鶴はすごく信眞に言い寄る。

信眞は少し赤面しながらも、何事もなかったかのように奥に進んでいく。




 

通路の奥を進んでいくと、開けたところに出る。


「キッチン?」

 

亜鶴が言った通り、そこにはきれいに整備された、まるでセットのような厨房があった。

 

こんなところに厨房があるのを不思議に思ったのか、亜鶴は警戒もせず近づこうとする。

 

すると異変に気づいた信眞が腕を亜鶴の前に出し引き止める。

 

異変に気づかない亜鶴は、信眞の目線の先を見てその異変に気づく。

そこには、金髪の男が座り込んで、冷蔵庫と会話をしていた。

 

信眞は銃を構えて、金髪の男に恐る恐る近寄る。


「その冷蔵庫の中に、誰かいるのですか?」

 

信眞は金髪の男に質問をする。


「なぜそう思う」

 

男は驚いた様子もなく、立ち上がる。


「いや、見た感じ30代の男性がただ単に冷蔵庫に話しかけるわけがないと思っただけですけど……」

「なるほどなぁ…まぁ、誰だってそう思うか。誰がいると思う?この中に」

「誰って、ボスの娘なんでしょう。その子を、僕たちにも出してください」

「いやだって、駄々をこねたら?」

「無理矢理にでも、捕まえます」

 

そう言うと信眞は宣戦布告をするかのように、鍋の蓋をフリスビーみたく男に投げつける。

すると男は俊敏に腰につけていたピストルを抜き、取り正確に蓋を撃ち飛ばす


「はっや……」


亜鶴が、言葉を漏らす。

 

さらに男は信眞の右手に持っている銃を狙いらトリガーを引く。

案の定銃は、信眞の手から離れていく。


「殺し道具なくなっちゃったなぁ。まだまだだな、青二才くん」

 

金髪の男はフリフリと銃を回し、笑っている。


「別に殺しの道具ならたくさんありますよ。ここには鈍器(フライパン)や鋭利(包丁)だってあるんですから」

 

そう言って信眞は包丁がある方に全力で走っていく。

もちろん男は包丁取らせないよう、銃を計三発発砲する。

信眞はまるで弾がどこを狙っているのか知っているかのように、華麗に躱していく。

 

一方、亜鶴は、ただそれを呆然と突っ立って見ていた。

いや、見ているしかできなかった。

目の前で、レベルの高い戦いが繰り広げられていて、それを必死に見ているのがやっとだったからだ。

もし自分が戦いに入ろうものなら、きっとそれは信眞の邪魔になるだろう。


そうこうしている間に、信眞は包丁を右手に、男に突っ込んでいく。

一直線に近づいていく信眞に男は狙いを定めて引き金を3回引く。

 放たれた3つの鉛は、信眞の頭、胴、足、にほぼ同時に向かってくる。

それを信眞は頭、胴、足、の順にさばいていく。

 

信眞はスピードを落とさず、むしろ加速し、男の股の間を滑り込んで背後をとる。


包丁を男の首に突きつけた信眞は

「さぁ諦めて銃を床に落としてください」

 と、落ち着いた声色を投げかける。


「いやぁお前の方こそ、その包丁俺から放せよ」

「?」

「今、俺の前にはお前の大事なバディーがいるんだよ」

 

男の前には亜鶴が、唖然とした様子で突っ立ってた。

それを狙うように、男が銃を向けている。


「この銃は、8発のマガジンと、ピストル本体に元から入れてる1発合わせて9発弾が入ってる。つまりあと1発、弾が残ってんだよ。早く手を離せよ、じゃないと亜鶴ちゃん死んじゃうぜぇ」

 

勝ちを確信した男はニカッと笑い、さらに続ける。


「そもそもお前は俺を殺せねーから、その包丁の意味は無いだろ」

「僕は言いましたよ、諦めろって」


調子に乗っていた男に、信眞は言い放つ。


「はぁ?どういうことだ」

 

笑っていた顔は、すぐに疑いの顔に変わる。


「引き金を引いてみてください。すぐにわかりますよ」


その一言で男は理解する。

すぐさま、銃の左側を見ると、セーフティーレバーが上に上がっていた。


「あなたの後に回り込むとき、瞬時にあげてたんですよ。……その銃、p08ですよね。僕の先輩がよく使ってて、うるさいくらいその銃の説明をしてくるんです。いやでも覚えてしまいますよ」

「へー、気があいそうだなその先輩って人。どんな人なんだ?」


 信眞は佐野と、バディだった頃を思い出す。


「どんな人ってまぁ……」

「手元が緩んだなぁ信眞」

 

そういった瞬間、男はスルっと信眞の手をすり抜ける。

そして信眞を足で後ろの棚に蹴り飛ばす。


「殺し屋がターゲットを目の前にして、余計なことを考えちゃいけないんだよ」

 

信眞は後ろにぶっとび、棚に衝突する。


「がはっ」


男が中のセーフティーバーを下ろすと、信眞の上にある小麦粉を撃ち抜く。

すると小麦粉はまるでスモークのように、信眞の周りを覆う。

 

男は銃から空のマガジンを取り出し、新しいマガジンと入れ替えながら信眞へと近寄る。

 

リロードを済ませた銃を信眞がいる方へ向け引き金を引こうとする。


「もうどうにでもなれぇー」

 

後ろから亜鶴が走って銃を乱射する。

ポンポンと弾き出されるカプセル。


もちろん本物と銃とはスピードが違うため、格段に遅い。男は軽々と避けていく。


「そんな小さいおもちゃじゃあ、俺は倒せないよ」

「そんなことを、知っている。でも、やってみなきゃわかんない」

 

亜鶴は走り回りながら、避ける男狙い何度も弾を放つ。


「その弾、中に何か入ってんのか。見た感じ睡眠薬か、麻痺毒かのどっちかだろう?」

 

割れたカプセルが中身を撒き散らかして、辺りに散乱しているのを見た男が質問する。


「正解」

 

弾が切れた亜鶴は、新しい弾を補充し、また男に狙いを定め、撃ち続ける。

すると、男は撃った弾を割れないように、慎重に手で優しく包み取りそれを見る。


「ハハハ。こんなので足止めできると思われるなんて俺も落ちぶれたなぁ…」

「こんなのってひどすぎ。この薬、結構効くんだから」

「効くって言っても、当たったらだろう。俺は、こんなのじゃ当たらないって言ってんだ 」

「別に当てるだけが私の武器じゃない。今あなたが持ってるカプセル、そのカプセル割ることが前提じゃないから 」

 

男はその言葉に疑問を持ち、よくカプセルを見る。するとそのカプセルの周りに、光沢ができている。


「こいつ、まさか…」

「そのカプセルの周りに薬を塗ってるの。さっき弾を詰め替えたとき、細工して」

「クソがっ」

 

男はそう言うと、カプセルを亜鶴に投げつける。

とっさのことに亜鶴は避けきれず顔に当たってしまいカプセルが割れる。


「せめてお前は道連れだ」

「いいよ。ただの麻痺毒だから」

 

だんだんと2人の体が鈍くなっていく。


「さっきはよくもやってくれましたね。おかげで背中がすごく痛む。」

 

小麦粉でむせたのか、ゲホゲホと咳き込みながら信眞が男の側による。


「あの、少し違和感があるんですけど、質問してもいいですか」

「なん…だ…」

 

男の体にはすでに薬が回っていて、壁にもたれ座り込んでる。


「なんでさっき小麦粉を撃ったんですか?すぐに僕を殺せばいい話なのに。それと、なぜ僕の名前を知ってるんです?あと殺しはダメって言われていることも」

 

信眞は何かが鼻にかかっているのか、そんな質問をする。


「銃も先輩と同じやつですし」

 

信眞は男の銃を見つめる。


「何なら先輩と似た戦い方してるんですよね。わざわざ僕ではなく、小麦粉を撃つあたりが」

 

男の顔が少しひきつる。


「そこで1つの仮説を立てました。あなたが普通のマフィアだったら、これからする攻撃は耐え切れないのですが、もし、もしですよあなたが先輩だったら余裕で耐えられるはずなんです」

「何をする気だ」

「これです。」

 

信眞はお玉を手に取り、亜鶴の方へ走っていくと亜鶴の襟をお玉ですくいあげ、通路の方へと引っ張っていく。


「うぎぎぎぎぎ」

 

苦しそうに亜鶴は悶える。

 

厨房の出入り口付近にくるとお玉を亜鶴の襟から外し、そのお玉をコンロの方へおもいきし投げつける。


「さっきまで2人が暴れていたおかげで、怪しまれずにできましたよ。気づいてないでしょうが、今この部屋にはガスが充満してるんですよ」

 

投げたお玉は、コンロのスイッチを強く押す。

 

コンロから火花が出る。

 

その刹那、あたりが真っ白に光り、轟音と共に激しい衝撃があたりを包む。




 

「どうなった!?」

 

信眞がすぐさま見渡す。

爆破が収まり、あたり一帯はぐちゃぐちゃになっていた。


「ゴホッゴホッ。ガス爆発とは、よく考えたなぁ」

 

あの爆発をもろに食った男が、瓦礫の中から当然のように出てくる。


「やっぱり、佐野先輩だったんですね 」

「バレちまったか。なら、このマスクはもういらねーなぁ」

 

男は顔を手を掛け、力いっぱい肌を引っ張る。すると男の顔は脱皮するかのように、取れていく。


「えっ?会長の隣にいた人ってマフィアだったの!?」

 

亜鶴はマスクを外し終わった男の顔を見て、驚く。

そこには、金髪の男ではなく、佐野が立っているからだ。


「会長が言ってただろ。試練だって」

 

佐野は誤解している亜鶴に話を始まる。


「KCには伝統があってな、ある程度殺し屋として名を馳せたら、試験をするんだ。これに合格すれば、もっといい仕事を回して貰える」

「じゃぁもう試練クリアでいいですか」

「ダメに決まってんだろ。まだ暴れたりないんだよ」

 

そう言って、佐野はマスクを投げ捨て、落ちているフライパンを掴み、突っ込んでくる。


「えっ、まだやるの!?」

 

亜鶴はとっさに銃を向け、撃つ。


「その攻撃、もう効かねぇーよ」

 

全弾避けながら走って来る。


「ねぇ、私に作戦があるの。聞くだけ聞いてくれる?」

 

亜鶴はそう言うと佐野に聞こえないよう、小声で信眞に話をする。


「作戦か?無駄だぜぇ。そんなことしている間に、お前らを殺すからな。」

 

佐野はハッタリではなくマジの目をして2人に言う。

すると信眞は、近くに銃が落ちているのに気づきそれを拾う。


「ここで殺らなくては、僕達がやられてしまう。」

 

そう言うと信眞は突っ込んでくる佐野の方に銃を向け引き金を引こうとする。


「待って!」


 そう言って亜鶴は信眞の肩を掴む。


「「あっ…」」


佐野と亜鶴の声がハモる。

信眞は白目を向きその場に倒れ込む。


「どうしよう……。やっちゃった……」


慌てた亜鶴に佐野は呆れて頭を抱える。


「敵を目の前にして、それはないだろう亜鶴……」

「だって、忘れてたんだもん! そもそも触っただけで気絶するとか、意味わかんないでしょ!」

 

逆ギレしだす亜鶴。


「もういいよ!私1人でなんとかするから」

 

何かが吹っ切れた亜鶴は、銃を佐野に向け、周りを走りながら撃ちまくる。

今度はカプセルだけじゃなく、そこら辺に落ちているキッチン道具や皿、ナイフなども使って攻撃する。


「ばかかよ。2度はあたんねぇって言ってんだろ、そのカプセル」

「うるさいわね。じゃあ、もしも同じ攻撃をくらったら、あんたバカ以上よ」

「食うわけねーよ。俺は天才だからな」

「じゃあ私は神様ね」

 

フフンと笑いながら亜鶴が腰に手を当てる。


「脳天気なやつだな。どう生きればそうなるんだ?」

 

佐野は反撃をするため、投げてきたフォークをキャチして投げ返す。


「10年間も実の父に拷問されればこえなるわよ」

「へぇ、苦労……したん…だな……。あれ……? なんか……く、そ……ねむた…い……」

 

佐野は段々と意識を失っていく。


「やっと、効いて来たのね」

 

佐野は限界が来て、その場に倒れこむ。

亜鶴の目線の先は、佐野から信眞へと変わる。

そこには気絶しているはずの信眞がカプセルを手に立っていた。


「ナイスゥー」

 

グッと親指を立てる亜鶴。


「きぜつ…してな…かった…のかよ…」

「まだ、耐えてたんだ」

 

佐野のタフさに驚く亜鶴は、何故信眞が立っているのか説明する。


「びっくりしたでしょう。実はあのとき、肩に触る振りをして気絶したと思い込ませたの。で、私が佐野先輩の気を引くように攻撃して、佐野先輩が後ろを向いた瞬間、渡してた睡眠薬入りのカプセルを信眞が投げたの」

「ごう…かく…だ…」

 

そう言うと佐野は死んだように眠り着く。


「「はぁ〜」」

 

信眞と亜鶴は安堵したのか、2人してため息をつく。

信眞はボスの娘(会長)がいるであろう冷蔵庫に近づく。


満を持して開けるとそこには、合格書が二枚入っていた。


 『合格おめでとう。あと騙してごめんね。実はここの遊園地、KCの所有物なんだ。ほら表はイベント会社じゃん。』


「これ…、会長が書いたやつですね」


信眞は少し引きつった顔を浮かべ読んでいく。


 『これで晴れて君達も、一人前の殺し屋だ。恥ずかしくない振る舞いをしてくれよ。改めて合格おめでとう』


最後には亀崎信眞と自分の名前が乗っている。もちろんもう一枚には、姫島亜鶴と書かれている。

信眞は二枚の合格書を持って、亜鶴の元へ戻る。



 

  —数ヶ月後—


「新しい任務が来ましたよ」


信眞は事務所にてだらけてソファーに寝転び、スマホをみていた亜鶴にそう投げかける。


「えぇ〜、めんどい。代わりにやっといて」

「はぁ〜」


亜鶴に聞こえるようにでかいため息を吐いて事務所の扉を開ける。


「待ってよ、冗談じゃん」


部屋から出て行こうとする信眞の肩を掴む。


「あ……」


気づいた時にはもう遅い。

信眞が後ろへ倒れ込む。


「おーい、早く依頼こなして……はぁー」


余りにも仕事に向かうのが遅かったため、呼びに来た佐野がその現場を目撃する。


「バディ組んでもうすぐ一年だろ? 早く慣れろよどっちともよぉ」

「だって、最近会話ができるようになったから、大丈夫かなって」


信眞のほっぺを佐野が交互に叩きながら愚痴をこぼす。


「起きろー、さっさと仕事しろー、働けぇー死ぬほど働けぇー」

「……ゔっ、痛い。先輩痛い、叩かないで」


何度か叩いた甲斐があったのか信眞が目を覚ます。


「いや……、もう目覚めましたよ。だから叩くのやめて……」

「じゃあ、早く仕事してこい」

「だから……やめ、叩くのやめて……」


亜鶴はそれを横目におもちゃの銃に弾を補充する。


「よし、準備完了! 行くよ、信眞!」

「なら、先輩を……止めてください」

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