第92話 深刻な姉弟
マレイン (この2人は幼いのにもう働いているのか。私は今までこの国の何を見ていたのだろうか)
2人の生々しい話に、マレインは胸に手を当てると服を力強く握りしめる。
大勢の笑い声が飛び交う中、6人は黙り込む。辛気臭い話に深刻な表情を見せていたリサだが静まり返った状況に気付き我に返る。
リサ 「あ、ごめん!重い話だったよね!あはは!」
無理に笑みを作り、笑い声を出すリサ。ライトは違和感を感じると、リサの顔をじっと見つめる。
ライト 「昔、何かあったのか?」
作り笑いを見せるリサだが、まるで見透かされているような問いにドキッとすると表情が戻る。
リサ 「うん…。約3年前、お父さんがエレメンタル街下層に行ったんだけどね。それっきり帰ってきていないんだ」
ネイリー 「3年前…。『庶民隠し事件』だな」
マレイン 「そうだね。庶民が集るエレメンタル街下層とおよそ3年前といえばその事件だろうね」
眉を寄せ低い声で話す2人の言葉に姉弟は頷く。
エル 「それで僕と姉さんは簡単な荷物運びの仕事をしてたんだけど、家に帰ったら元気だったお母さんが急に倒れこんでいて…」
服の袖をキュっと握りしめ震えながら小声で話すエルの姿にリリアの眉が下がる。
リリア 「ねえ。リサとエル。2人が構わないなら私にお母さまの具合を診せてくれない?」
「「えっ?」」
気の抜けた声で姉弟は反応する。飲み込めない状況に2人は顔を合わせ黙り込むとライトは隣に座るリリアに指を差す。
ライト 「リリアはこう見えても回復能力が扱えるんだ!」
リリア 「こう見えても―――は余計よ!」
リリアは手を丸め拳を作るとライトの頭を殴る。
ライト 「いてっ!」
フンっ!と鼻を鳴らすリリアに殴られたライトはじ~んと痛む頭を抑え涙目になる。
姉弟は2人のやり取りに思わず顔が緩み笑う。
リサ 「じゃあ、ご飯を食べたらお願い!」
エル 「後で案内するね!」
会話をしているとおばさんと店員が皿を持ちテーブルの上へ置いていく。置き終えるとおばさんは風魔法で6本のフォーク浮かし適切な位置まで運ぶと静かに置く。
「おまたせ~!ウィンド村、名物の日ノ国風キノコパスタ!」
皿の上で湯気が躍る料理にライトは一目散にフォークを手に取りパスタを荒く巻くと口の中へ運ぶ。
ライト 「あっつ!ふまい!あっつ!」
出来立て熱々の料理をがっつくライト。ライトの反応を眺めていたネイリーは、パスタをぐるぐると巻きフーフーと息を吹き、適温に冷めた麺を口の中へ運ぶ。
ネイリー 「キノコの風味とこの味付け…」
色合いが茶色に近いパスタの麺と独特で味深い日ノ国風キノコパスタを前にネイリーは動いていたフォークが止め味わう。
リサ 「おばさんが何年か前にエレメンタル街下層で"ショウユ"って調味料を購入した時に日ノ国の商人から聞き出したレシピらしいよ!」
エル 「この村はキノコがよく獲れるからウィンド村の定番メニューになったんだ!」
続いてリリア、マレインも麺を口の中へ運ぶ。
リリア 「んー!日ノ国っておにぎりで有名な場所だよね!美味しい~♪」
マレイン 「…っ!うん、美味しい。キノコの風味と塩っ辛い味が合うね」
頬っぺが思わず落ちてしまいそうな表情で食事を楽しむ4人。リサとエルもフォークを握ると、パスタの麺を慣れた手付きでくるくると巻き口の中へ運ぶ。
リサ 「あーー!これこれ!」
エル 「やっぱこれ!美味し~!」
6人は出来立てのパスタを冷ましながら口に運ぶ。4人はキノコの風味と醤油で味つけをした未知の料理に至福な笑みで味を噛みしめていた。
ライト 「ふ~~~。美味かったな!」
ネイリー 「そうだな。案外、量があったな」
リリア 「お腹一杯~!」
マレイン 「お腹も膨れた事だし…。会計しようか」
空になった皿を前にマレインは手をあげると、おばさんは反応し駆け寄る。
マレイン 「お会計を頼むよ」
「1皿300シルが6皿だから…お会計1800シルで」
ライト 「安っ!」
量良し、味良しで更に価格も安くライトは驚く。ライトの反応にリサとエルは微笑む。
リサ 「ふふ!安いでしょ!」
エル 「ここの料理はコスパが良いんだ!」
姉のリサが細かなお金をジャラジャラと音を鳴らし取り出している間にマレインは既におばさんの手の上へとお金を置く。
マレイン 「はい。これで」
リサ 「ちょっと!マレーイン!私とエルの分は自分達で支払うよ!」
リサは会計を阻止するかのように手を広げるが、マレインは首を傾げる。
マレイン 「えっ?稽古に付き合って貰ったんだ。お昼代は別途支払いで払わせてよ」
エル 「はぁ~~。何だか奢って貰うように連れてきてしまったみたい…」
会計を済ませると6人はドアを開け店外へと出る。空を見上げると太陽は高い位置にあり日の光が眩しく目を細める。
リリア 「じゃあ、リサ、エル。お母さまの所まで連れていってもらって良い?」
リサとエルは頷くと歩き始め、4人は背後からついていく。歩き始めると、ライトはウィンド村の風景を改めて見渡す。
村の中心にはこじんまりとした飲食店、青果店、衣服店などが円を描くように並んでいたが離れると雑乱とした家が密集で建てられライト達は狭い道を通っていく。
ライトはふと空を見上げると太陽の光は薄く、窓から洗濯を干す者、毛布の埃を払い家事をする者、小さな子供が騒ぎ立てる音。
中心から離れた村の人々は忙しいという言葉にピッタリ当てハマる暮らしだった。
狭い道をひたすら進み続けると、日の光が強くなり家が数軒程、建てられている場所へと抜け4人は解放感を味わう。
姉弟を筆頭に歩き続ける事、10分。ライトの視界の端にこじんまりとした古い家が入り込み首を動かす。
木は痛み、激しく地が揺れたら直ぐに崩れ落ちてしまうのでは無いかと思う程の感情が湧く家にライトは指を差す。
ライト 「あの家は…誰も住んでいないのか?」
古い家にライトは指を差すと全員が焦点を合わせる。
リサ 「あぁ!あれは12聖将のスレン様の家だよ!聞いた話によると、昔は月1に帰ってきてたみたいだけど」
エル 「最近は姿を見掛けないって村の人が話しているね」
2人の話を聞き終えるとライトはスレンが住んでいた家へと歩み寄る。
ネイリー 「興味があるのか?」
マレイン 「ライトはやっぱスレン殿の大ファンなんだね」
ライトの後を追うようにネイリーとマレインも続いて歩く。
リリア 「私、先にリサとエルのお母さまの具合を診てくるね!」
ライト 「わかったー!また後でな!」
リリアはライト達に大きな声を出すと、手を大きく振りリサとエルが住む家へと向かっていった。
後で落ち合う事となったライト達は古い家の間近まで辿り着くと上から下へと目で追うように眺める。
ライト 「すげー家だな…」
年期の入った家をマジマジと直視していると、家のやや後ろに人影があり、ライトは身構える。
ライト 「誰かいるっ!」
ネイリー 「誰だ…!?」
マレイン 「えっ?」
3人は腰を落とすと人影が見える位置の方へ徐々に迫る
ライト 「えっ…?」
人影の正体を見た途端、ライトは驚く。
人影の正体は…!?
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