第49話 更なる高みへ③
5メートル先に置かれた土の壁の前に立つライトとネイリー。衝撃波を作り出し、破壊する訓練が開始してから数時間が経過した。
ライト 「クソーーー!全然壊せねぇ…」
手本として見たライディールの動き通りに、剣を振るライトだが未だに威力の弱い衝撃波が繰り出されていた。数時間、剣を振り続けていたライトは座り込み剣を草が生えている地面に差し込む。ネイリーは休憩する事も無くひたすら拳に力を込め衝撃波を生み出そうとし続けていると…。
ライト 「!?!?」
ネイリーの拳からようやく衝撃波が出来上がり5メートル先にある土の壁を破壊する。
ネイリー 「ハァハァ…。壊せた!!」
ライディールは鼻ちょうちんを作りスピースピーと寝息の音を立てていたが、土の壁がガンッ!と壊れる音が聞こえ、目を開ける。
ライディール 「ん……寝てた。最初に壊せたのはネイリーか」
ライディールは完全に目を開き、ふあぁ~とあくびをし、起き上がる。
ライト 「マジかよー!先越されたー!」
休憩していたライトも、突然の出来事で立ち上がる。ネイリーから5メートル先に設置された土の壁は跡形も無く崩れているが、ライトはいざ自分の土の壁を見ると傷1つもついておらず思わず拳を握りしめ悔しい顔をする。
ライディールはスレンの方へ振り向き、更に頑丈な土の壁を設置して貰おうと声を掛けようとした時、リリアが『聖魔法の盾』を詠唱している様子が目に映り、手を叩く。
ライディール 「よし、ネイリー!次の試練はこれだ!」
ネイリーから5メートル先に離れた位置にライディールは特殊能力で小さな盾を設置する。
ネイリー 「叔父上、次はこれを壊せるようにするのですね?」
ライディール 「ああ、そうだ。先程のように1連だけでは中々壊せないぞ」
ネイリーは先程、土の壁を壊した感覚を思い出しながら特殊の盾に向い衝撃波を繰り出す。衝突すると、『カンッ』と音が鳴る…が盾は傷1つも無く頑丈だった。
ネイリー 「クッ!!硬い…」
稽古し続ける事、更に数時間後。太陽は地平線まで到達し、辺りの視界が段々と暗くなる。その日は稽古終了となり、全員ブルー村の宿屋へと戻る。
―――【ブルー村宿屋】
宿屋に戻る途中、ブルー村の市場で爆買いした料理をスレンはテーブルの上に置く。能力を最大限に消費していたライト、ネイリー、リリアは空腹の余りに次から次へと料理を口の中へと運ぶ。特に”例の2人”は料理を奪い合っていた。
ライディ―ル 「おい!ライト!それは、私の肉だぞ!」
ライト 「チッチッチ…!流石の師匠でもこの肉は譲れないぜ!ですます!」
海産物の料理ばかりが並べられている中、僅かな肉を2人は奪い合っていた。中々折れない2人に懲りたスレンは雷のナイフを作り出し強制的に2分割すると、雷で真っ黒となった肉に興味が薄れ仕方なしに他の料理を口の中へと運ぶ。
30分後には全員、満腹となり宿泊する部屋へとそれぞれ戻り寛ぐ。
ライト 「全然、衝撃波出せなかったなぁ。ネイリー何かコツがあるんだろ?教えてくれよ!頼む!」
ネイリーの前でライトは正座し、両手を合わせ必死にお願いをする。だが、ネイリーは目の前で正座しているライトから目線を逸らす。
ネイリー 「少しは自分で考えろ」
ライト 「ちぇー…」
賑やかな2人だが、リリアはそんなやり取りすら耳に入らず、思い詰めた顔で今日の事を振り返る。
リリア (スレン様の詠唱した魔法を全力で『聖魔法の盾』で阻止しようとしたけど全然ダメだったな…)
―――【数時間前】
土の壁を破壊するスレンに対し、リリアは必死で阻止していた。
スレン 「『雷の線』!」
リリア 「『聖魔法の盾』!」
スレンは土の壁に向い、雷魔法の初級魔法である『雷の線』を詠唱しリリアは破壊されぬよう、『聖魔法の盾』で守る。最初の1,2回は『聖魔法の盾』でガード出来たが、スレンの魔法のスピードについてこれず、瞬きの差で土の壁はあっという間に破壊される。
スレン 「リリアさん、休む暇のなく『雷の線』を私は詠唱しますよ?」
リリア 「は、はい!」
その後もスレンは休む暇をリリアに与えずひたすら『雷の線』を詠唱し、リリアもひたすら『聖魔法の盾』を詠唱する。その日、結局リリアは土の壁を守る事が出来た時間は最長で5秒間だった。
―――【現在】
ライトはリリアの口数が少ない事に気付き、顔を覗き込む。
ライト 「リリア!スレンの姉ちゃんとの稽古はどうだったんだ?」
顔を俯けていたリリアはライトの声で、ハッと我に返り振り向く。
リリア 「う、うん…。中々上手く出来なかったなぁ…」
リリアは浮かない顔を見せ、返答をする。
ネイリー 「ライト、リリア、焦る事は無い。私が今回、衝撃波を出す事に成功したのは昔に叔父上から直々に戦術を学んでいたから成功したんだ。2人の実力は今回の魔人との戦いの件で十分に知っている。2人なら絶対に成功する」
納得のいく結果が出せずに浮かない気分でいた2人の顔からネイリーの言葉で活気を取り戻し笑顔になる。
ライト 「へへ!明日こそ土の壁を壊してやるぜ!」
リリア 「うん!私も絶対に土の壁を壊されないように頑張る!」
一方ライディールは別の部屋でネイリーから貰った『ガラス砂』を見つめ、一人でニヤニヤする。
ライディール (メルディルムは『議会』で毎回毎回、私の愛しい妹のアイリーと姪のネイリーが作った物を自席に置いて私に見せびらかしてくる!だが私は今回、ネイリーから新たに作った物を貰ったんだ!次の『議会』で見せびらかしてやる!)
ライディール 「ははは!次の『議会』が楽しみだな~!」
ライディールが大声で笑う一方、スレンは知らずにドアノブを回す。
スレン 「先輩。レンとアンに…」
ドアを開けると丁度、ライディールはネイリーから貰った『ガラス砂』を見つめながら大声で笑い出す場面に出くわせ身を震わせる。
スレン (ゲ…。例の『ガラス砂』を見つめながらブツブツと独り言を言ってる。しかも、笑ってるし…ついに頭おかしくなったのかな?こわっ)
恐怖を感じたスレンはドアをすぐに閉じその場から立ち去る。そして、ウルフティの小屋にマジッグベッドを出し座る。
スレン 「君のご主人、とうとう頭がおかしくなったかも…。いざという時にはご主人を置いて一緒に帰ろうね」
スレンはライディールが愛用で乗っているウルフティの頭を撫でる。ウルフティは不思議そうに首を傾げながら「わふ?」と声を出していた。




