第45話 ライディールの過去①
———【ライディール(13歳)】
サファイアローメン国内に存在するゴールド街で上位貴族しか住む事が許されない土地でルメルス家の屋敷が立地されていた。ルメルス家の屋敷内からいつも仲の良い2人の兄妹がソファーの上で並び会話をしていた。
アイリー 「ライディールお兄様!」
ライディール 「何だい?可愛い妹のアイリー!」
アイリーは物心がついた時点から、兄であるライディールに溺愛されながら育ち恥ずかしい誉め言葉を受けても言われるのが当たり前…となり何の違和感も持たずに平常心で会話を続ける。
アイリー 「今日はお兄様にハンカチを作りました!」
微笑むアイリーは手にハンカチとは思えない得体のしれない物を兄であるライディールに突き出し見せる。
ライディール (これはハンカチ…なのか?まぁ、アイリーは天使のように可愛いからこのハンカチらしき物もきっと可愛い物だ)
ライディールは首を傾げていたものの、表情から笑顔を崩さずにアイリーからハンカチとは思えない得体のしれない物を受け取ろうとした瞬間だった。視界に手の指先が傷だらけな事に気付き笑顔を崩し、過剰な程に大慌てをする。
ライディール 「アイリー!作ってくれたのは嬉しいが指先が傷だらけじゃないか!」
アイリー 「これは…その…このぐらい大丈夫です!」
さっと背中に手を隠すアイリーは、ライディールに向い首を少し斜めに傾き可愛い仕草をしながら微笑む。
ライディール (いかん…。可愛すぎる…)
ライディール 「アイリー、ありがとう。大切にするよ、この…可愛いハンカチ!」
溺愛していた妹から初めてアイリー自ら作った物を見上げるように両手で持ち上げ輝いた瞳で見つめる。そして、ライディールの無意識的に言った言葉にアイリーは感動をしたかのように手を合わせ叩く。
アイリー 「ハンカチを可愛いだなんて…さすがお兄様は解っていらっしゃいますわ!お花のマークに時間が掛かってしまいました…」
感動をしているアイリーにライディールは両手を腰に当て妹の事なら何でも解るぞ!と動揺をしながらも堂々とした兄を作りあげ何とか話しを合わせる。
ライディール 「ははっ!私はアイリーのお兄さんなのだから何でも解るぞ!この……可愛いお花のマークの魅力は!」
ライディール (この刺繍のマーク花だったのか…。可愛いアイリーがまさか…とは思ったが、危うく獣人族のマークと口に出してしまいそうになった…)
実際に口に出す言葉と見せる振舞とは裏腹にライディールは心の中でどことなく動揺していた本音をぽつりと零す。
それからアイリーは初めて作ったハンカチをライディールから過度に褒められ、自分は刺繍が上手なんだ!…と変に勘違いし、この日を境目にモノづくりにハマってしまったようだった。
ライディールとアイリーは学校が長期休暇の為、実家へと帰省し屋敷にて他愛もない会話をし互いに楽しい日々を過ごしていた。
———【長期休暇が終わり…】
長期休暇が終わり学校に通い始める日々が再び始まった。アイリーは貴族校に通っていたが貴族校の中でも性格が少し天然で常に明るく容姿は美人と評判が良く周りの男子生徒の間では好意を寄せる人も多数いた。
また同性の女子の間でも誰でも平等に接し明るく、まさに天真爛漫な性格と言える程だった。
学校がお昼休憩中の中、アイリーは女子生徒と並び歩いていると、男子生徒はたまたま近くへと通りかけ足を止める。
「アイリーさん、長期休暇はいかがお過ごしでしたか?」
アイリーの目の前に立ち止まる男子生徒に少々驚いたが、嫌な顔を一つもせず可愛い笑顔で長期休暇の思い出話しをする。
アイリー 「お兄様と他愛のない話をしたり…あ!それと最近モノづくりにハマっていましてモノづくりをしていました」
男子生徒はアイリーに好意を寄せていたのか、この機会に距離を縮めたい一心で会話が絶えぬよう話しを合わせる。
「モノづくりですか!アイリーさんの作った物はとてもいい出来栄えそうですね」
アイリー 「ええ。私の自信作がありますの!こちらの物を作ったのですが…」
アイリーは長期休暇中に作った、ハンカチを取り出し男子生徒の前に突き出す。男子生徒の瞳にハンカチが映り出すと急にプフッ!っと吹き出す。
「あはは!これがハンカチですか!本当はメイドが作った物で自分が作ったとメイドの事を庇っているのですよね?いえ、なんせとても『下手』だった物で…アイリーさんが作った物ではないですよ———」
アイリー 「『下手』だなんてひどいです…これは私が丹精を込めて作ったのに!!」
男子生徒は話している最中だが、アイリーの心は傷つき泣きながら頬に軽くビンタをする。
「ガハッッッ!!」
アイリー自身に自覚が無く軽くビンタしたつもり…だが本来はバカ力で男性生徒はとんでもない速度で遠い場所まで吹き飛ばされ壁は木っ端みじんに崩れ落ちる。中の良い女子生徒は既に能力を認知していたのか離れる事は無かったが、この日を境目にアイリーは美女だがバカ力で怖いと印象を持たれ同学年の男子生徒から声を掛けられる数は少なくなっていった。
ルメルス家は代々上位貴族だが、とんでもないバカ力の持ち主の家系だったため、後にアイリーの娘であるネイリーもその遺伝を継いだあげくライディールから稽古を幼い頃からしていた為、さらにバカ力だった。そしてネイリーは母であるアイリーの不器用さも遺伝で受け継いでいた。




