第41話 大人げない
正式にリリアが仲間と加わり3人は次なる目標、ダイヤスファ国に向う事を決意した。その後、海岸沿いで暫くキラキラ輝く海をウットリした表情で眺め終えると各自、自由にブルー村を探索しその日は安静に休養した。
———【翌日】
リリア 「ライト―!そろそろ起きなよ?」
ライト 「うぅん…ふぁーい…」
リリアに叩き起こされマジッグベッドの上で横になっていたライトは目を覚まし天井を見つめる。朝に弱いライトはようやく起き上がると瞼が半分しか開いておらずフラフラになりながら階段を下る。1階に辿り着くとテーブルの上にはまだ誰も手を付けていない朝食が並べられネイリーは既に着席していた。
ネイリー 「相変わらず寝起きは間抜けな顔をしているな」
ライト 「……ねみぃ…」
気の抜けた声でネイリーに何とか反応をするライトはようやく椅子に座り、未だに瞼が半分しか開いていない状態で料理を口の中へと運ぶ。料理を1口、2口…と運ぶ回数が多くなるにつれライトは半分しか開いていない瞼が徐々にハッキリと開き始め食事を終える。
ライト 「ふーーー。美味かった!今日からライディールのおっさんとスレンのねえちゃんに稽古して貰えるんだよな?」
ネイリー 「あぁ、そのつもりだ」
リリア 「はぁ~~~!12聖将から直々に稽古だなんて…こんな貴重な体験が今日出来るんだよね!生きてて良かった~!」
3人は朝食を済ませるとライトの意識も完全にハッキリと戻りハツラツとした声を出し、ネイリーと一緒に食べ終えた食器をキッチンまで運ぶ。リリアは鼻歌を歌いながらキッチンまで運ばれた食器を洗い流していた。
ライト 「おしっ!全部片付いたな…!魔人との戦いで背中が痛かったけど、リリアの回復能力のお陰で身体の調子も元に戻ったな!稽古を頼もうぜ!」
傷が差ほど重症では無いネイリー、リリアは12聖将のライディールとスレンのお陰で応急措置で傷は完治した…が、ライトのみサバルの黒い衝撃波で吹き飛ばされ大きな岩に背中が当たった衝撃の大きな傷跡が残っていた。だが、リリアが扱う回復能力と生命力の高さの故かライトは背中の大きな傷跡が早い段階で治り、3人は足並みが揃うように完治した。ライトは身体を準備運動のように柔軟に動かすが、リリアは食器を洗い終えたにも関わらず再びキッチンの前でマジッグバッグを漁りながら声を出す。
リリア 「私はもう少しやる事があるから先に向ってて~!」
ネイリー 「リリアが残るなら私も残ろう」
ライト 「んじゃ、そこら辺で2人が来るまで鍛錬でもしてるな!」
ライトは一足先に宿屋から外出し鍛錬が出来るような場所を探し歩き回る。数分間歩くと砂浜の上に唯一、草が生えている場所を発見すると、ここなら動きやすいであろう…と考えその場へ駆け寄るように近づくと人影が見え立ち止まる。
ライト 「ん?あれネイリーのおっさんとスレンのねえちゃんか?」
立ち止まるライトは人影の方へ直視すると、ライディールとスレンの姿だ…と確信し遠く離れた位置からその場で見続けていた。
ライディール 「スレン!今日も全力でかかってこい!」
スレン 「…分かりました。遠慮はナシでいきますよ?」
互いに距離を取ると、2人は鋭い目つきで見つめ合う。そして、ライディールが「ニヤッ」っとした表情が合図で互いに動き始める。
スレン 「『雷の槍』!」
3本の雷の槍が目で追うのが厳しい程に素早くライディールが立っていた位置まで向うが既にその場に人影など無く、1秒たりとも無駄な行動など出来ない状況の中
スレンは辺りを見渡す。
ライディール 「ライディール式~!『剣の衝撃波5連』!」
既に宙を舞っているライディールは、大剣を大きく振ると5連発の大きな衝撃波がスレンに向い即座に身体の周りに防御シールドを張りながら次の行動に移る。
スレン 「『雷の裁き』!」
スレンはライディールに目掛けて空から大きな雷を地面にかけて詠唱すると大きなドガンっ!と地響きする程の爆発音が鳴り、大きな煙がモクモクと舞う。狙いを定めた場の煙が微かに薄くなるとライディールの姿は既に無くスレンはライディールの行動パターンを分析しすぐ接近すると先読みし雷魔法で造形を集中しながらイメージをし『長い片手剣』を作りだし構える。
ライディール 「ははっ!さすがスレン!私の行動を先読みしたな!」
未だに視界は大きな煙が舞いライディールの声が聞こえるものの、姿を確認する事が出来ず、作り出した『長い片手剣』をスレンは両手で握りしめ身構え警戒する。慎重に身構えながらライディールを探っている間にスレンの目の前に急に姿を現し大剣で斬りかかるがスレンは『長い片手剣』でライディールの大剣を受け止める。
スレン (くっ…。さすが先輩だ。剣は雷を通しやすいのに身体の周りにシールドを張りながら私のサンダーソードを受けている…)
近接攻撃能力所持者のライディールにスレンはサンダーソードで受け止め続ける。しかし、近接攻撃能力者と近接戦となった場合、力の差で負けるのは一目瞭然で案の定たったの10秒で手に握っていた紫色に光り輝くサンダーソードはすぐに薙ぎ払われ草の上に落ちると塵のように跡形も無く消える。
スレン 「はぁ…。今日も負けです」
ライディール 「スレン、私は『近接攻撃能力者』なのだから近づけては勝ち目はないぞ?お前の強みは『攻撃魔法能力』だから出来るだけ敵は近くに寄らせるな」
スレン 「はい。肝に銘じます…」
2人の稽古を実際に見たライトは心が躍るように気持ちが昂り2人の側へと駆け寄る。
ライト 「ライディールのおっさん!スレンのねえちゃん!凄い稽古だったよ!!俺にも稽古してくれ!!」
ライトは目を輝かせながら2人に話すが、ライディールは無表情で目線を逸らし素っ気のない態度をする。
ライディール 「フンッ!誰が貴様に教えるか!断る」
スレン (えー…。いつまでネイリー姫と一緒にいる時間が長い事を根に持ち続けてるんだ…?)
ライディールに稽古相手を断れたライトは落ち込んだ表情を見せる。その場でライトは立ち尽くしているとネイリーとリリアが駆け寄るように近づきライディールは先程までの表情から一変し鼻を伸ばしニヤつく。
ネイリー 「ライト待たせたな。ライディール叔父上にお願いがあるのですが昔のように稽古して頂けませんか?」
リリア 「良かったらスレン様も私達に稽古して頂けたら嬉しいのですが…」
ライディール 「勿論だよネイリー!!!それにリリアちゃんだったな?ネイリーのお友達なら尚更教えねばな!よし、今日は2人共稽古しちゃうぞ!ささ、スレンもこっちに!」
ライトが稽古のお願いをした態度とは全くの別人のように振る舞うライディールにスレンは失望した目で見つめる。
スレン (ライディール先輩、大人げないです…。いつもあなたには尊敬していましたが今回のライト君に対しての対応は人として幻滅しました)
その後、ライディールは満面の笑みでライトを空気のように扱いその他のメンバーを近くに呼ぶ。ライディールの側へ歩くとネイリーの瞳に落ち込んだ表情で顔を俯けているライトが映り反応する。
ネイリー 「叔父上?ライトも一緒に稽古をお願いします。彼とはこれから一緒に各国を周る予定なので強くなって貰わなくては困ります」
ライディール (困る!?ネイリーの困り果てた顔は見たくない!私はネイリーが幸せそうに笑う顔が一番好きだ!)
ライディールは頭を抱え考え込むと次第に大きなため息を吐き、空気のように扱っていたライトの方へようやく振り向く。
ライディール 「わかった。そこの少年も一緒に稽古をする。さぁ、ついてきなさい」
ライト 「ほんとか!おっしゃー!!」
稽古の了承を得た瞬間にライトの表情から笑顔が戻り、皆が立つ位置まで駆け寄る。先程までライディールに失望していたスレンは安堵し、思わず微笑む。