第35話 可愛さ故の行動
ライディール 「私は12聖将の一人。ライディール・ルメルスだ。よろしくな」
スレン 「私も12聖将の一人。スレン・エルディです。よろしくお願いします」
ライト・リリア 「「12聖将ー-----!!??」」
誰もが子供の時に『将来は12聖将になる!』と夢を口をする憧れの存在が目の前にいる事に気付いた瞬間、ライトとリリアは驚きの余りに叫ぶように大きな声を出す。本来なら聞きたい事は沢山あるが、2人は急の自己紹介で頭の整理がまだ出来ず口を開きながら硬直していた。
ネイリー 「たまたまブルー村の視察に来たのですか?12聖将はお忙しいとお聞きしますが…」
スレン 「先輩、ネイリー姫のマジックマップに―――」
ライディールは手でスレンの口を塞ぎ、目が泳ぎながらも笑みを作り返答をする。
ライディール 「うん。そうだよ?たまたま視察に来たらネイリー達が倒れこんでてね……」
すぐ隣にいるライディールにスレンは口を塞ぎられ言葉を発する事も出来ず、不満な表情で睨みつける。
スレン (本当はネイリー姫が持っているマジックマップを隠れて改造していたくせに…しかもストーカーみたいに場所をリアルで特定する為に…)
睨みつけるスレンに対しライディールは『余計な事は言うな』といわんばかりのアイコンタクトをする。そして、ライディールの一言で魔人達との戦いの場面を思い出したのか、ライトはマジッグベッドの上にあぐらをかき、悔しくて唇を噛みしめる。
ライト 「しかし、今回の依頼は達成したけど俺ら3人だけで解決は出来なかったな…」
ライトの言葉に続き、ネイリーとリリアも魔人達の戦いを思い出し、マジックベッドの上に座りながら顔を俯き悔しい表情をする。
ライディール 「1体の魔人だけは元気だったがな、それ以外の魔人は君らで倒したのだろう?」
スレン 「あれは本来、12聖将の戦いだ。君たちだけでも何体か殺せたのは十分です」
悔しい表情を見せていた3人は顔をあげ、圧倒的な戦力のある12聖将からの十分な言葉で自信が満ち溢れ、表情は輝きを取り戻す。
ライディール 「まぁ、ブルー村の村長に我らも同行して一緒に報告しにいってやるよ。報酬は貰えるようにするから気にするな」
リリア 「え?視察に来たのにどうして私達が依頼を受けたのを知っているのです?」
ライディール 「あっ!君たちが寝ている間に村長と話したのだよ!」
何の違和感の無く淡々と話すライディールに疑問を抱きながらリリアは首を傾げ質問をする。ライディールは焦りを見せ咄嗟に思いついた見え透いた嘘をつくが、スレンは冷めた目で見つめながら、ため息を吐く。
スレン (先輩、ネイリー姫が心配で後を追っていたとか恥ずかしくて言えない…。私達12聖将なのに…)
———【ライディール・スレン尾行目線】
時は遡り、ライト達がブルー村の依頼を冒険者ギルドにて受けている最中。ライディールとスレンは冒険者ギルドの離れた位置で草や木が多い茂みの中、しゃがみ込みながら身を潜め入口を見つめていた。
スレン 「ライディール先輩、私達12聖将ですよね?」
ライディール 「何だスレン、頭がおかしくなったのか?」
スレン 「12聖将の仕事って魔王軍と戦う事が『優先』だと思うのですが…」
ライディール 「うむ。その通りだ」
フードで顔を隠し、只ひたすら冒険者ギルドの入り口を眺めている中、言っている事と実際に行動している事に矛盾しても尚、堂々と言い放つライディールにスレンは不服な表情を見せる。
スレン 「……。何故、その12聖将がネイリー姫の後を隠れて追っているんです?」
ライディール 「私達はネイリーが受けた依頼を達成するまで見届けるんだ。これは立派な護衛任務の勉強にもなる!あ!ネイリーが冒険者ギルドから出てきたぞ!やっぱりネイリーは可愛いなぁ~~~!!私の天使だ~~~!!」
スレン (うっわ…。いい歳したおっさんが何言ってるんだ…?引くんだけど…)
ネイリーが冒険者ギルドから出た瞬間にライディールは鼻を伸ばしながらニヤニヤした表情を見せるが、スレンは思わず後ずさりしてしまう程に引いた表情をする。しかし、ライディールの目にネイリーの側に立つライトが映ると急に声を荒げる。
ライディール 「おい!!あの少年、ネイリーに近寄っているぞ!!ネイリーの事が好きなのか!!」
スレン 「先輩、落ち着いて下さいって。一緒にマジックマップ見てるだけですって」
スレン (ある意味、魔王軍と戦うより大変だな……)
草や木に囲まれる茂みの中、スレンは頭を抱えながら大きなため息を吐く。
———【夜】
冒険者ギルドからブルー村に向けて出発した3人は集落にて野宿をする支度をしていた。視界は集落のポツポツとあるたいまつと家の中の明るさのみで視界は暗くなっても尚、ライディールとスレンは茂みの中に身を隠し眺めてながら会話をする。
スレン 「今日はこの集落に寝泊まりするみたいですね」
ライディール 「野宿か…。かわいい子に旅をさせろとはこういう心境なのだな……」
リリアの作ったクリームシチューを平らげ、3人は他愛のない会話をしていた様子だった。次第に集落の人達が暮らす家の中も暗くなり、3人はいよいよ就寝となりマジッグベッドを出し始めるとスレンも就寝の準備をし始める。
スレン 「まぁ、この集落だと安心だと思いますよ。私達もそろそろ寝ましょうよ」
マジッグベッドを2つ置き、パンパンと布団の誇りを手で払い寝る支度をするスレンを傍目に、ライディールは気にもせず物陰に身を潜め遠くから3人のやり取りをジーっと見続けていた。見続けてから暫く時間が経つと、ライディールの身体はピクッと反応し口を開く。
ライディール 「あの少年、ネイリーから毛布を借りているぞ…!」
スレン 「毛布ぐらい良いじゃないですか。もう私達も寝ましょうよ」
ライディールの言葉でスレンも3人の方角を見つめるとただ単純に毛布を借りているだけだったので何の気にも留めずマジッグベッドの上に移動し横になると空の幾つもの星を見つめた後、目を閉じる。ライディールもその内、寝るであろう…とスレンは特に心配もせず深い眠りに入ろうとした瞬間…だった。
ライディール 「あーーーっっ!」
大きな声を出すライディールにスレンは目をハッキリと開き、星を再び見る余裕も無い程の早さでマジッグベッドから起き上がり不快な気分で反応をする。
スレン 「もう、何ですか?先輩」
ライディール 「あの少年、ネイリーの半径5メートル以内で寝ていやがる!!!」
ライディールが指を差す位置にスレンは振り向くとライトとネイリーは特に近い…とは感じず首を傾げる。
スレン (よくそこまで詳しく距離を測れるな…。普通に見ても距離が離れてるぐらいしかわかんないんだけど…)
先程までしゃがみ込んでいたライディールは身を潜める思考も無くなり堂々と立ち上がり背中に背負っている大剣を鞘から抜き始める。
ライディール 「ダメだ、私の体があの少年を許すなと言っている!!!!」
大剣を握りしめ、殺意のある表情でライトが横になっている位置まで走る。しかし、走ってすぐにスレンは阻止するかのようにライディールが走る方向を先読みし、土魔法を一瞬で詠唱し目の前に大きな土の壁を置く。
ライディール 「グフゥゥゥッッッッ!!!」
スレンが詠唱した大きな土の壁にライディールは思いっきりぶち当たりバンッッ!!と響く音が鳴り、衝撃で倒れこむ。頑丈で崩れる様子も無い土の壁を目の前に、痛みに踠くライディールをスレンは見下ろすように見つめ口を開く。
スレン 「先輩、ここで尾行しているのをネイリー姫にバレたら帰るしか選択ないですよ?そうなると、依頼達成するまで見届ける事もできませんよ?」
痛みが和らぐと大の字で空を見上げ横になるライディールは、星を眺めながら心の中で葛藤しているのか、スレンの言葉にすぐ反応はしなかった。しかし、暫くすると折れたのかようやく口を開く。
ライディール 「ぐっ…。分かった。ここは我慢する……」
———その後もライディールはライトの行動が気に入らない時があると、すぐに背中に背負っている大剣を鞘から抜き始め、握りしめながら何度も殺意剥き出しの表情でライトに斬りかかろうとしていたが全てスレンの魔法で阻止されていた




