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慣れ親しんだ地上を見たい、また転生したいって潜在意識があるのかも

 幽体に眠るという概念がない。ただ、下界=地球の生物がDNAで持っている睡眠と言う名の名残なごりを慣例に倣って天界でも使っているだけである。


 俺と幸恵の二人はベッドに入り込む。幽体なので、意識すれば軽い意識物は動かす事ができ、貫通したいと思えばベッドや布を貫いて移動する事ができる。

 人間の時の眠る姿勢にマネて、枕を凸凹で作って横になるふりをする。時間は早朝3時になった。



 幸恵「このような教習場の仕組みって、誰が考えたのでしょうね?」


「俺にもわからないですよ。来世に転生した時に、また悲惨な死で人生を無駄にしたくないのでは?」


 幸恵「車って便利ですが、一歩間違えると危険ですよね。ほんの一瞬の判断ミスと甘えが、自分だけでなく他人、家族の人生まで奪ってしまう」


「たしかに。天界でも、こういった運転事故を減らして、平和に暮らせるように下界を助けているのかも…」


 幸恵「正直、私は最後まで残って卒業できる自信はないです。だってほら、私こんなに老いて…」


 (ここで若返りの話をしてみるべきか? それとも黙るか)


「そんなことないですよ。幸恵さんの心はまだ若い! 運転が上手くなったらかわれるかもしれないですよ」


 幸恵「青春を取り戻そうにもね、誰にだって辛い過去はあるの」



「…」



 スゥーン!


 寮長ルシファー「はい、朝の点呼だ! オラッ! こそこそ隠れてないで顔見せい!」


 二人「!!?」



 ルシファー「えっと。立花幸恵たちばなゆきえ佐藤裕也さとうゆうや、二名OK」


 スゥーン!


 あっという間にごりマッチョ天使が姿を消した。俺たちはきょとんと眼を向き合う。


 幸恵「面白い天使さんですね」


「いやいやいや。ムキムキマッチョの強面天使でしたよあれ。面白って…」


 二人「え?」


 (やはり、見る人の心象で対象が変わるのは間違いないようだ。気を付けないと)


 幸恵「また来た時に、寮の話を色々聞いてみましょう」


「幸恵さんって結構、行動的ですよね」


 幸恵「そう見える? 前世で平穏だったころはただ生きて食事するだけで楽しみなんてなかったの」


 幸恵「でも死後にこの教習場を選んでよかった。ワクワクできる体験ができるし、貴方とも出会えた」


「…」


 幸恵「さあ、二日目の8時50分から学科が始まりますよ。一緒に行きましょう」




 ふと、老いた彼女の皺の一つ一つが輝くように消える幻想が見えた。



「この教習所の楽しみが、一つ増えたな」


 幸恵「ん、何か想いました?」


「いや、なんでもないです」





 カシエル「それでは8時50分になったので学科始めますね。教本の12ページ開いてください」


 天界では物質は存在しない。教本や机などは、仮想空間における虚像にすぎない。VRゴーグルで物体は見えるが、触れることはできない。子供の時の、おままごとごっこに近い。教本の内容は、カシエルが意識した仮想イメージで文字が刻まれ、それを受信することでこちらは「読んでいる」仮想体験をしている。受け取った情報を、霊体が受け取ることで学習したことになる。


 つまらなかった免許の学科をひたすら聞くだけだった。内容は、ほとんど変わらない。スマホやカーナビといった現代の技術が少し追加されただけで、俺はもう知っている。


 退屈な時間を過ごすため、俺は別のことを考えていた。


(下界って見に行けるものなのか? ちょっと抜け出してみたり)



 カシエル「佐藤さん。意識が漏れ出して丸見えですよ。下界には行けません、言ったら一発退場です」


「!? 俺の心を読んだだと」


 カシエル「私は長いこと天界に努めていましたから。新霊からにじみ出る思考を読み取るのは簡単です。次、授業をまじめに受けないなら教室出ていってもらいます」


「わ、わかった」 (恐ろしいスキルだ。下手に思考してバレたら卒業が送れる…嘘でも集中して聞こう)



 苦痛の50分、嫌だったが聞いた内容を反芻してまじめの振りをした。辛い。



「カシエルさん、ちょっと良いです?」


 カシエル「何かしら?」


「下界って、一般の霊はいく事ができるって聞きました。何で入校した霊たちはそれがダメなのですか?」


 カシエル「うーん。未練、かな。慣れ親しんだ地上を見たい、また転生したいって潜在意識があるのかも」


 カシエル「でも入校したら絶対ダメ! 卒業検定で使うからです」


「え? 最後の運転は下界で実際にやるということです?」


 カシエル「それは受けて見てからのお楽しみ、ですよ!」


「はは。きになっちゃいますね、卒業検定もカシエルさんも」


 カシエル「も、もう! 時間なので行きますね」



 最初は絶望しかなかったが、意外と楽しめそうな要素はあるではないか。

 監獄に入って数日は絶望するが、入った後は些細なことで幸せになれたりする。

 慣れというものは恐ろしいものだ。



 天界運転講習合宿卒業まで、あと11日

卒業検定は、一番苦しむ試練となります。

検定と結末はもう決まっているので、もし読めちゃった人はコメントください。


今のうちに伏線を用意しておきます。

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