一度体験始動すると、意識消滅を除き、以降の退室、逃走、忌避、呪詛は受け付けられませんで、ご了承ください
ガブリエル「えっと。立花幸恵さん、近藤三郎さん、佐藤裕也さんの三名の入校ですね!」
俺には両隣の二人は、80の老婆と70のハゲおっさんにしか見えない。俺自身は見る事はできないが、恐らくは事故死した40歳の姿になっているだろう。
ガブリエル「入校当日ですが、一日に2つしか実習できないので、さっそくシミュレーション体験を2回受けてもらいます」
ガブリエル「寮のやり方については、お渡しした資料をよく読んでおいてい下さい。掟を破ると、講習を無効にされるうえ、ペナルティで次回講習まで1年ほど待つことになりますので」
ガブリエル「チキュウニホンのように、温情とか忖度とかないんで。気を付けてください」
(可愛い女性に見えるが、怖ぇぇ)
ガブリエル「では行きましょうか。42号室です」
スッと意識が抜けると、瞬間移動のように部屋移動した。4体まとめてだ。
「すごい。これが天界の力か」
ガブリエル「幽体になってからすぐは難しいですが、慣れれば300年位で身に着けられますよ!」
(先は長そうだ)
ガブリエル「ここにシミュレータ5台並んでいるので、左から順に好きに座ってください。あとは自動で意識連動するので、50分耐えてください。それで実習は通過となります」
「もし耐えられず離脱したら?」
ガブリエル「無効なので、次回同じ実習を予約して、受けなおしてください。掟なので当然ですね!」
(…東京に帰りてぇ)
ガブリエル「では三体座りましたね。では始めます」
VRゴーグルのような装置を目の前に装着し、ゲーミングチェアのような所に座って待つ。
デーンギュギュギューン!
天界運転映像研究会 デデーン!
(悪趣味なイントロと共に、可愛いキャラクターが会社説明するつまらない映像が流れる)
ナレーション「下界で運転するにあたって」 (以降ナレーション省略)
霊体のみなさん、ご入校おめでとうございます。この疑似体験では、来世で二度と運転事故を起こさないように、下界チキュウの悲惨な運転事故例を4件、体験することができます。
一度体験始動すると、意識消滅を除き、以降の退室、逃走、忌避、呪詛は受け付けられませんで、ご了承ください。
(えっ、色々ヤバいこといってねぇ?)
それでは、快適な運転の旅をお楽しみください。
ぐえぇぇっぇえーん… ウォーーーーン…。 (フェードアウト)
俺は坂本雄介、23歳。免許取り立てで彼女と2ケツで高速を飛ばしてた。そしたら…
キキィー!! どぅぅんん!
ぼぉぉぉぉお!!(炎) きゃぁぁぁ!! だれぁぁ!!
「ゆうすけ! しっかりして、ゆうすけ!」
俺を抱きかかえた真美は、片腕を失ってもなお、俺に語り掛ける。そうか、俺は重症なのか。
(痛い…苦しい…半身を貫いた鉄骨から血があふれ、燃えるように熱い…意識が…飛ぶ)
「はやく!! 早く119番を! だれかぁぁ!! 雄介を助けて!!」
そんなになくなよ。もう目が見えないんだ、声が遠くなって…。真美…。
(ずっとこの痛みが続くのか…全身がつった状態で5分耐え続ける感じだ。消滅したらハーレムできねぇ!)
ピーポーピーポー(10分後)
救急隊員「こっち! タンカー乗せて!! 心拍数135…血圧…」
真美「ゆうすけ。ごめんね。私が無理行って後ろに乗りたいって言って」
「真美。ほんとう、に。すまな…い」
(長い! さっさと死んでくれないと俺の精神がくるっちまう! 助けて!)
ピー…ピー…。 スゥン…
「心肺停止!」
死に行く途中、ずっと思ったことは、彼女への償いと、運転を軽んじた俺の後悔だった。
坂本雄介、享年23歳。事故から死亡まで13分20秒。
「ガハァツッ!!! はぁ、はぁ。 …。 ぜぇ、ぜぇ。 あぶねぇ消滅するところだった」
隣を見ると、爺の姿がない。婆は半透明になりながら、ギリギリ生存している。
ガブリエル「はい、一人目の疑似体験は終了です。では二人目25分です、がんばってください」
「まて!!! 死ぬ! 休憩を入れてくれ!!! 俺の精神は残り20%もない!!! 助けて!!」
VRゴーグルを取り外そうと手をかけるが完全にくっついて離れない。
プツン… (フェードアウト)
私の名前は藤崎美知恵、38歳。子育てが終わって、家庭の時間の余裕ができた私は、免許を取ってツーリングを始めた。運転中に軽い気持ちでバズドラしたら、こんな悲しいことになるなんて…
「らめぇぇぇ!! やめてくれ!! おれきえちゃう!!」
天界運転講習合宿卒業まで、あと13日
免許は3日前に取りましたが、いまだ車を運転していません。
初心者マークを貼るのは恥ずかしいですよね。ちょっと躊躇します。