第七話 奴隷を連れ歩きたくないけど独りにもできない
終活のために買った奴隷に、終活を邪魔されている天才薬師・カール。
とりあえず新たな仕事を与えようとするも、一瞬たりとて気が抜けないのであった。
どうぞお楽しみください。
「それではご主人様、私の仕事は雑用という事ですが、何をすればよろしいですか?」
「……そうだな」
カールは腕を組んで少し考え、ケミィに任せても問題なさそうな仕事を一つ一つ口にしていく。
「まずは料理」
「はい」
「その後の食器洗い」
「はい」
「洗濯もできるか?」
「はい」
「後は掃除を」
「わかりましたっ! お任せくださいっ!」
目を輝かせて頷くケミィに、眉間にシワを寄せたカールは一言付け加える。
「……研究室を除く」
「……わかりましたぁ……」
「露骨にテンション下がった! 野望がわかりやす過ぎていっそ清々しいわ! くそう、市場で鍵と金具を買ってこないとな……」
「お買い物ですね! 行ってらっしゃいませ!」
「……」
満面の笑みで送り出そうとするケミィを見ながら、眉間のシワを深くしつつ、しばし考えるカール。
「……お前も来い」
「え、よろしいんですか?」
「……連れ歩きたくはないけど、お前の身の回りの物も買い揃えないといけないからな」
そのカールの言葉に、ケミィは再び目を輝かせた。
「じゃあ首輪買いましょう首輪!」
「真っ先に要求するのがそれかよ! そもそもそんなもん服屋に売ってるわけないだろ!」
「当たり前ですよ。買うならペットショップですって」
「何で俺が非常識みたいな目で見られてんの!? そんなもん使えるか!」
「大型犬用のなら十分使えますよ?」
「サイズの問題じゃなくて倫理的な問題な! 首輪なんか付けてたら、奴隷って丸わかりになるだろうが!」
「そうですね。そうしたらご主人様が、村の女の子に骸骨扱いされた当て付けに、自ら死のうとした事もバレちゃいますもんね」
膝から崩れ落ちかけるも、何とか立て直すカール。
「事実だけど、そこすっごいナイーブだからな! 遊び半分で触れていい場所じゃないからな!」
「はーい。気をつけまーす」
「素直さと軽さに不安しかない」
「じゃあ首輪は家の中でだけにしますね」
「買わねぇって言ってんの! 何で伝わらないかな! 文化の違い!?」
「えー、ご主人様、ケチな男はモテませんよ?」
口を尖らすケミィに、カールは負けじと言い返す。
「金の問題じゃねぇからな! 首輪以外なら買ってやるから、ちゃんと言う事を」
「じゃあムチと手錠と重りつきの足枷と」
「それこそどこで売ってんだよ! 一般的な服とか肌着と靴、後はクシとか歯ブラシとかの日用品に限る!」
「えー……。なら私留守番してますよ」
「駄目だ! お前研究室に鍵がつけられる前のラストチャンスだと思っているだろう!」
「……別に」
「見破られたからってふてくされるんじゃない! とにかく支度して行くぞ! くれぐれも余計な事言ったりしたりするなよ! いいな!」
読了ありがとうございます。
研究室危機一髪。
地味にカールの耐久力が上がってますね。
もっとも守ってばかりじゃ勝てませんが。
そして攻めたらケミィを喜ばせるだけ。
……詰んでる?
次話もよろしくお願いいたします。





