第四話 奴隷が爽やかな朝を許してくれない
ドMの奴隷にツッコみまくって疲れ切り、泥のように眠った天才薬師(意味深)。
朝日は眩しく、鳥の声も清々しいが、そんな朝が長続きするわけもないのだった。
どうぞお楽しみください。
「おはようございます、ご主人様」
「……んぁ……」
揺り起こされて、意識が朦朧とした男は、ぼんやりと目を開く。
「起きてくださいご主人様」
「……う……。後五分……」
「ダメですよ。さ、起きてください。朝ご飯もご用意しましたから」
「……後十分……」
「伸びてるじゃないですか。起きてください」
「……うるさいなぁ……。俺はご主人様だぞぅ……」
「どうしてもうるさくて仕方がないと言うなら、これで黙らせてください」
「……ん……?」
右手に握らされる、手に馴染むグリップ。
先端にずっしりとした重さ。
眠気に誘われるまま、振り上げようとして、
「金槌じゃねぇか!」
男は意識を取り戻した。
「あぁ、惜しい!」
「惜しい、じゃねぇよ! こんなんで殴ったら裁判で明確な殺意を認定されるわ!」
「釘は叩けて私の頭は叩けないって言うんですか?」
「言うよ! 何にはばかる事もなくな!」
「ご主人様、冷たい」
「お前の考える人の温もりって何!?」
「それはもう身体から溢れる熱い血潮の」
「聞いた俺が馬鹿だった」
深々と溜息を吐いて、男は身体を起こしてベッドから降りた。
「で、朝飯作ってくれたの?」
「はい」
「まぁそれはありがとな。でも材料はどうした? 大した買い置きもなかったはずだが」
「ご主人様の知名度なら大丈夫だろうと、村の市場の人にツケをお願いしました」
「あー、成程。頭良いなお前」
「さぁ冷めないうちにどうぞ」
食卓に着いた男は、
「何じゃこりゃー!」
朝一番の大声を上げた。
「これはスタミナガメのスープ、こちらがギャリックのペーストを塗って焼いたトースト、アエンガイのローストサラダに、ヌメリウオの蒲焼です」
「これ全部村の市場で買ったの!? お前が!?」
「はい。何か問題が?」
「問題しかねぇよ! この食材、どれも夜の生活に悩む夫婦御用達じゃねぇか!」
「そうなんですか? 市場の人に『ご主人様が男らしくなる食材はどれですか?』と聞いたのですが」
「そしたら市場の方も、苦笑いしながらこれを揃えてくるわ! そして謂れのない偏見が俺を襲うわ! お前わかってやってるだろ!」
「何をですか? 詳しく教えてください」
「う……」
きょとんとした顔をする少女に、男はたじろぐ。
説明しようと口を開きかけ、
「……やめだ。飯にしよう」
諦めたように、目を逸らすように、ナイフとフォークを取った。
「そうですよ。細かい事なんか気にしないで、いっぱい食べてください。朝の元気の源は朝ご飯からですから」
「……おう」
「そして高まった獣欲を思う存分私に叩きつけてくださいね」
「やっぱりお前全部わかってやってるじゃねぇか! くそう、こんな食材なんかに屈しないぞ! いただきます!」
読了ありがとうございます。
朝の食事は元気の源(意味深)。
なおヌメリウオの蒲焼は既製品です。
この魚は『串打ち三年、裂き八年、焼き一生』と言われるほどの高難度食材ですので。
他は全部お手製。
地味にハイスペックな少女。
使い方は、まぁ、うん……。
次話もよろしくお願いいたします。