第三十九話 奴隷と両親が仲直りできたけどその後が良くない
ケミィの本心を知り、喜ぶべきか悲しむべきかわからなくなったカール。
両親との話にわずかな希望を託すが、そんな極小の可能性が通るほど世の中は甘くないのだった。
どうぞお楽しみください。
リビングに戻ったケミィは、両親に頭を下げた。
「……お父さん、お母さん、ごめんなさい……。私、ご主人様の所にまだ居たくて、酷い事言っちゃった……」
「父さん達こそ悪かった。会えたのが嬉しくて、メディの気持ちを考えていなかった……」
「……メディはまだ十一歳なんだから、親元に居てほしいと思うけど、巣立つのを見守るのも親の務めとわかっているわ。たまには帰って来て親らしい事もさせてね」
「ありがとう! お父さん、お母さん!」
「良かったですな! ケミィ殿!」
二人に抱きしめられ、子どもらしい笑顔を浮かべるケミィ。
その姿に心からの微笑みを贈るメジク。
そして微笑みたいけど微笑めない引きつった顔をしたカールが、発言のタイミングを伺っていた。
「……えー、あのー、そのー、ちょっと待ってもらいたいんですけど……、あの、何で娘さんがうちに居続ける流れになってるんですかね……?」
親子の感動の場面に割り込む気まずさを顔中にみなぎらせたカールの言葉に、両親が涙に濡れた笑顔を向ける。
「難儀な性癖を抱えた娘で、他人様にご迷惑をおかけしていないか、身体を壊しはしないか、それだけが心配でしたが、カールさんなら安心です!」
「娘さんの性癖をご存知だったんですね! くそう、奴隷生活で身についた歴史の浅い性癖じゃなかったのか!」
「昔坂道から転げ落ちてひどく擦りむいた時、消毒をしたら『染みて痛かったのに痛くなくなった! むしろ気持ち良い!」と言ってからずっと痛みを追い求めて……」
「脳内麻薬の効果かな!? お母さん! そこは止めましょう!? 教育は親の責務ですよ!」
「……私共も努力はしたのですが、出血を伴うものや骨折以上の怪我を禁じるのが精一杯で……」
「お疲れ様ですお父さん! でも可能ならもう一歩頑張ってほしかった!」
「『どんな怪我でも治るお薬ができるまでは我慢しなさい』、そう言い聞かせ続けて……」
「その時点から俺に丸投げする未来は確定してたんですか!? お母さん予知能力者!?」
必死にツッコみ状況を変えようとするカールに、両親は穏やかな笑みを浮かべた。
「万能薬を作れるカールさんの元なら、どんな怪我を負っても治してくださるでしょうし、娘にビンタした姿を見て、カールさんなら大丈夫だと確信しました……!」
「娘と離れるのは辛いですが、これほど娘にぴったりな方の元に嫁げるなら感謝しかありません……!」
「何かいい感じに話してますけど、これ押し付けですよね!? 俺に娘の厄介な性癖押し付けてるだけですよね!?」
「いやいやそんなまさか」
「えぇ娘の幸せを考えた苦渋の決断ですわ」
「ならこっち見ましょうか! さっきから視線が合わないんですよ!」
なおも言い募ろうとするカールの腰に、ケミィが抱きつく。
「うわっ! 何だ急に!」
「これで私達の仲は両親公認ですね! 嬉しいです!」
「公認って言っていいのかこれ!? 俺この人達をお義父さんお義母さんって呼べる自信ないんだけど!」
「そんな事は些細な事です。大事な事は私がずっとご主人様と一緒にいられる事ですから」
「え、う……」
たじろぐカールに、ケミィは紅潮した顔で潤んだ瞳を向けた。
「ご主人様……、私、ご主人様の赤ちゃんがほしいです……!」
「うっく……! だ、騙されんぞ! どうせ出産を最高の激痛イベントとか思ってるんだろ!」
「何て事言うんですか。好きな人との子どもがほしいのは、女の子として当たり前の気持ちですよ?」
「う、ぐ……!」
「まぁ六割は痛みに期待してますけど」
「過半数がそれならもう正解じゃねぇか! 謝れ! 生命の神秘と俺の男心に謝れ!」
二人のやり取りを見て、両親はうんうんと頷く。
「こんなにメディの事を理解してくれているなんて……! カールさん、娘をよろしくお願いいたします……!」
「メディ……! 幸せになるのよ……!」
「何安心した顔で帰ろうとしてるんですか! まだ話は……! あ! こらケミィ! 抱きつく振りして止めるな!」
「この度は遠路はるばるお疲れ様でした。帰りの馬車便の時間はこちらになります」
「メジク! 何丁寧に送り出そうとしてんだ! くそう、うやむやにして流そうったってそうはいかねぇからな! 俺は絶対ケミィに手は出さないからな! 二重の意味で!」
読了ありがとうございます。
これで万事解決ハッピーエンド。
不幸な人が一人いる? 誰かなぁ……。
ドレシーの元恋人、とか?
次回最終話となります。
どうぞ最後までお付き合いください。





