第三十七話 奴隷の親子仲をどうしたらいいかわからない
ケミィの両親が買い戻しに来た事をメジクから聞いたカール。
別れの予感を感じながらも、カールは両親に会う事を決意するのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様、洗濯終わりました」
「ケミィ、ちょっとここに座れ」
「? わかりました」
リビングのテーブルの、いつも座る正面ではなく横を示され、首を傾げながら従うケミィ。
「何ですか? 隣に座らせてもらえるなんて、お仕置きをもらえるような良い事をした覚えはないですけど……。あ! ハーレムのお礼ですか!?」
「何で良い事とお仕置きが結びつくの!? あとハーレムに関してはお礼を言う筋合いにない! そうじゃなくて、お前に客が来るんだ」
その言葉に首を傾げたケミィの顔色が、一瞬で変わった。
「客……? っ! まさか両親ですか!?」
「そうだ。奴隷市場で俺が買った事を知り、クード製薬に買い戻したいと直談判に来たのをメジクが連れて来た」
「そんな……! こんなに早く……!? どうしてそんな無理を……!」
珍しく動揺するケミィに驚きながらも、カールは努めて落ち着いた声で語りかける。
「お前、お母さんの病気を治すために奴隷になったんだってな」
「! そんな事まで……!」
「そういう事情なら、俺はお前との奴隷契約を破棄してもいいと思ってる」
「ご主人様! 何を……!?」
「お前のせいで死にたい気持ちとかどっか行っちまったからな。お役御免ってやつだ」
「待ってください! ご主人様! 私は……!」
ケミィの言葉を遮るように、ノックの音が響いた。
「お、来たみたいだな」
「ご主人様! 待って! 話を聞いてください!」
「話はご両親と会ってからだ。メジク! 入ってくれ!」
「待って! お願い! ご主人様……!」
声を張り上げたカールは、すがるケミィを無視する。
少ししてメジクが四十前後の男女を伴ってリビングに入って来た。
「……! メディ……!」
「……あぁ! メディ、メディなのね……! 良かった無事で……!」
涙ぐみ、抱きしめんばかりの愛情を見せる二人に、メディと呼ばれたケミィの反応は冷たいものだった。
「お父さん、お母さん、どうして来たの? あの時もう死んだ事にしてって言ったじゃない」
「そんな事できるわけがないだろう? 父さんと母さんは必死に働いて、お前を買い戻すためのお金を貯めて来たんだ。さぁ、うちに帰ろう」
「結構です。お帰りください」
「そんな事言わないで。まだ多少の不自由はあるけど、また一緒に暮らせるから……!」
「私を買い戻すお金があれば、何不自由なく暮らせますよね? だからそうしてください。私は帰りません」
「メディ! お前……!」
「メディは死んだんです。私はカール様の奴隷・ケミィです」
「お願いよメディ……! 私はメディのお陰でこうして健康になれたの……! だから」
「恩を感じているのなら、もう放っておいて! 私なんかいない方が二人は幸せでしょう!?」
「ケミィ!」
ぱしっと音が響いた。
ケミィが叩かれた頬を押さえ、信じられないものを見るような目で立ち上がったカールを見る。
「ご、ご主人様……?」
「お前ここまで心配してくれている親御さんに何て事言うんだ! 自分の身を売ってまで助けたかったんだろ!? そんな態度取るもんじゃねぇ!」
「……!」
カールの真剣な言葉に、リビングは時が止まったように静まり返った。
やがてケミィの目に涙がにじむ。
「え、あ、おい、ケミィ……?」
「……っ!」
戸惑うカールの横をすり抜け、ケミィは部屋を飛び出した。
呆然と見送るカールに、メジクの声が飛ぶ。
「追うのだカール殿! 今の頑ななケミィ殿の心を開けるのはカール殿だけだ!」
「う、わ、わかった!」
駆け出そうとしたカールは、扉の前で振り返り両親に頭を下げた。
「娘さんに手荒な真似をして、申し訳ありません……」
「いえ、娘を思っての事、嬉しく思います」
「どうか娘をよろしくお願いいたします……!」
深々と頭を下げる両親にもう一度頭を下げると、カールは扉が閉まる音がしたケミィの部屋へと向かった。
(ケミィ……! あいつやっぱり本当は……! くそ! 何とかしてあいつとご両親を仲直りさせねぇと! その結果、あいつがここを去る事になっても……!)
読了ありがとうございます。
ケミィが両親を拒絶する理由は?
叩かれた事に喜ばず、涙を見せた理由は?
カールとケミィの今後は?
そして今回こそシリアスは生き残れるのか?
次話もよろしくお願いいたします。





