第三十四話 奴隷を問い詰めるも埒があかない
望まないハーレムが完成してしまったカール。
首謀者であるケミィを糾弾するも、大人しく反省などするはずもないのだった。
どうぞお楽しみください。
メジクとドレシーが帰った後のカール宅。
「ご主人様、今日はハーレム完成記念日ですのでご馳走を用意しました! さぁどうぞ召し上がれ!」
「……おう、まぁいいから一旦座ろうか」
「はい」
豪華な夕食が並ぶ食卓にケミィが座ると、カールは机を強く叩いて叫んだ。
「おっまえは何してくれとるんじゃこのボケナスー!」
「何に怒っていらっしゃるんですか? 心当たりが多過ぎてわかりませんけど」
「自覚あるんじゃねぇか! ならその中から今日やらかした事全部だよ!」
「えっと、今朝はまずご主人様が起きる前に、寝てる姿をメジクさんとドレシーさんに見せて」
ケミィの言葉に、カールは大慌てで手を振る。
「待て待て待て! お前初っ端からすごいのぶっ込んできやがったな! そんな事してたの!? 全然気が付かなかった!」
「それと、ご主人様の服をお二人に見てもらってダメ出しをしてもらってたり」
「おい馬鹿何て事してくれてんだ! ドレシーさんにはまだしも、いっつもスーツだったメジクに何か言われる筋合いはねぇぞ!」
「メジクさんですが、仕事に差し支えない範囲でのお洒落を楽しむため、ストライプやチェック柄のスーツを気分で使い分けているので、二十着近くお持ちだそうですよ」
「嘘ぉ!? 裏切られた! 俺と同じでお洒落には興味がないんだと思ってたのに!」
衝撃を受けるカールに、ケミィの説明は続いた。
「ちなみにご主人様にアプローチする際には、ボタンの穴より小さいハート模様を散りばめた、特注スーツを着ていたそうです」
「わかるかそんな細かい模様! 解かせる気のない間違い探しだろそれ!」
「乙女心をそういう風に雑に扱うから、ご主人様はモテないんですよ」
「大きなお世話だ! 細かい違いに気付くのがモテる秘訣なら、ひよこ鑑定士はモテモテだろうが!」
「ご主人様! いくらモテたいからって、転職はお考え直しください!」
「しねぇよ! ものの例えだ! くそう、話が進まねぇ! ハーレムを無理矢理作った事だよ!」
カールの叫びに、ケミィは小首を傾げる。
「? 何か問題が?」
「そこは自覚ねぇのかよ! 俺は確かに、その、ほら、あ、あんな小説を持ってはいたけどよ……」
「『虹色メイド 〜今日のご所望は何色ですか?〜』ですね」
「暗記すんな! 声に出すな! とにかく、本当にハーレムをしたいわけじゃねぇんだよ! だから今回の話はなかった事にしろ!」
「ご主人様はハーレムに何か良くないイメージをお持ちですか?」
「そ、そりゃあるだろ! 女を取っ替え引っ替え好きなようにするなんて……」
「つくづくご主人様は思考が乙女ですね」
「う、うるせぇ! べ、別に普通だろうが!」
必死に抵抗するカールに、ケミィはぴっと人差し指を立てた。
「でもよく考えてください。メジクさんがご主人様のやつれた姿がお好きなのは、そうなるまで頑張り続けた努力と誠実さに惹かれたとも言えるんです」
「……き、詭弁だ!」
「ドレシーさんだってあの美貌ですから、女装をしてでも恋人になりたい男性は他にもいたでしょう。その中でご主人様を選んだのには、特別な意味があると思いませんか?」
「……ざ、財産とか……。ほ、ほら、服は仕入れ放題とか言っていたし!」
「何にしてもこのハーレムは、私達の意思を無視したものではありません」
「俺の意思はがっつり無視してるけどな!」
「確かにご主人様の希望とは違うかもしれませんけど、ご主人様の持つ魅力に惹かれて集まった女の子達を、気分一つで追い払うんですか?」
「うぐ……」
しばしの沈黙。
やがてカールはゆっくりと口を開いた。
「……わかった。本当に俺の事が好きかそうでないかわかるまで、保留って事にしておいてやる……」
「流石ご主人様! お優しいですね!」
「甘いとかチョロいとか思ってんだろそのにやけ顔! そもそもお前はどうなんだ!」
「え? どうなんだ、とは?」
「お前が望む暴力は一度も与えた事ないのに、それでも俺の事好きとか思うのか!?」
「思います」
「……へ?」
思わぬ即答に、目を点にするカール。
「私はご主人様の事が大好きですよ」
「うぇ、な、何で……?」
「それは是非拷問にかけて聞き出していただいて」
「くそう、また引っかかった! もういい! とにかく飯だ! ……何で夕飯にヌメリウオとマムーク蛇が夢の共演果たしてんだよ! ……負けねぇぞ! いただきます!」
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仕方ない 未来の自分に 先送り
カール 心の俳句
立った! フラグが立った!
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