第三十三話 奴隷の作ったハーレムから逃れる術がない
ドレシーの女装ファッションショーに強制参加させられたカール。
永劫とも思える時間の果てに、一つの夢が現実になるのだった。
どうぞお楽しみください。
「いやー、堪能しましたねー!」
「本当です! こんなに楽しいのは久しぶりです!」
「私もカール殿がみるみる生気を失っていく様を満喫できた! ありがとうドレシー殿! ケミィ殿!」
「……あぱぁ……」
魂の抜けたカールを前にして、ケミィ、ドレシー、メジクは楽しげに会話を交わす。
「ドレシーさんはどれが一番似合ってると思いました?」
「やっぱり胸元ざっくり開きのワンピースね。絶対男性が着ない服だから、そのギャップがたまらなかったわ!」
「それにあの胸元から覗く薄い胸板……。より弱々しさを感じられて素晴らしかった!」
うっとりするドレシーに、メジクはうんうんと頷いた。
「メジクさんのお気に入りは?」
「へそだしシャツにミニスカートの組み合わせが良かったな! 浮き出たあばらと太くない太もも! いつまでも見ていられる!」
「またカール先生、ムダ毛が少ない上に色も薄いから、ミニスカートが映えるのよね。勿論モサモサの人が何の処理もしないで履くのも趣があるけど」
「なかなか奥が深いんですね」
メジクとドレシーの言葉に、ケミィは嘆息を漏らした。
「ケミィちゃんは?」
「何と言っても、私の深緑ワンピースとのお揃いコーデですね! 師匠の目に怒りの光が灯って、思わず期待しちゃいました!」
「同じデザインを男性と女の子で一緒に着たら、対比ですごく映えると思ったのよ。思った以上に素晴らしかったわ!」
「ぐったりしていたカール殿に蘇った怒りと抵抗の顔が、徐々に諦めに変わっていく様には、思わず歓喜の叫びを上げてしまいそうであったよ!」
三人は満足げな表情で笑い合う。
その姿は仲の良い姉妹か、歳の離れた友人の、微笑ましい光景に見えた。
「ぷぇ……」
深緑色のワンピースに猫耳と大きなリボンを付けられ、真っ白になったカールを視界に入れなければ、だが……。
「……師匠、師匠。そろそろ目を覚ましてください」
「んぁ!?」
ケミィに頬をぺちぺち叩かれ、我に返ったカール。
窓の外では夕日が空を橙色に染めていた。
「話がまとまりました」
「ま、まとまったって、な、何が!?」
「ハーレムの話ですよ」
「えっ」
頭が回らないカールに、ドレシーはぺこりと頭を下げる。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「は!? え!? 何で!? ハーレムですよ!?」
「だからですよ」
頭を上げたドレシーがにっこり笑った。
その笑顔に心臓が跳ねるカール。
「ハーレムならたくさんの女の子がいて、その子達に毎日色々着せ替えできますよね? カール先生お金持ちですから仕入れもたくさんできますし」
「欲望に忠実! つまりパトロンとしてって事ですか!」
「いえ、カール先生と恋人になって、したい事もたくさんあります」
「えっ」
一瞬にやけかけるカールであったが、すぐさま顔に影が落ちる。
「……女装、ですよね」
「はい!」
「彼氏さんの気持ちがよくわかる! こんなの無理だよ耐えられないよ!」
自分の服を見下ろしながら嘆くカールに、ケミィがぽんと肩を叩く。
「大丈夫ですよ師匠。現状なら三日に一回で済みます」
「それはお前とメジクがローテに組み込まれたらの話だろ!? 残り二日も地獄じゃねぇか!」
「大丈夫だカール殿。私達三人の利害は一致している。ハーレムという特殊な環境ながら、仲良くやっていけると思うぞ」
「そこの心配はしてねぇよ! むしろ一致団結している事の方が心配なんだよ! そもそも話の中心にあるべき俺が放心してる間に話がまとまっているのがおかしいし!」
「カール先生」
「何ですかドレシーさん! あなたもこの状況に疑問を持」
「お・ね・が・い」
「あ、う……」
ぽゆん。
蠱惑的な声と共に目の前で揺れた胸に、カールの頭に昇った血が降りていく。
「カール殿、私からも頼む。ずっと側に置いてくれ」
「め、メジきゅ!?」
左側からメジクの整った顔に迫られ、太ももに手を添えられ、更に思考をかき乱されるカール。
「……師匠」
「お、ケミィ、お前はいつも通……、!?」
不安定な思考に陥ったカールは無意識に安定を求め、からかわれる事を期待してケミィを見る。
しかしそこには潤んだ瞳で真剣に見つめるケミィがいた。
「お願いです師匠……。私達三人で師匠の人生を支えさせてください……」
「……ケミィ……」
最後の寄る辺を失ったカールから力が抜ける。
もはやカールに正常な思考力は残されていなかった。
「……わ、わかった。よろしく、頼む……」
「本当によろしいですか……?」
「あ、あぁ……」
「後から『やっぱりなし』なんて言わないでくださいね……?」
「も、勿論だ……」
「よっしゃー! 言質取ったー! いえーい!」
「いえーい! やったねケミィちゃん!」
「いえーい。流石はケミィ殿」
「!?」
突如切り替わった空気に呆気に取られるカールの前で、三人はハイタッチを交わす。
みるみるカールの顔が赤く染まっていった。
「ケ〜ミ〜イ〜! また計りやがったな!」
「だってこうでもしないと、師匠は千載一遇のチャンスを逃すと思いましたから。晴れてハーレムの完成です!」
「こんな詐欺みたいな手口での約束は無効だろ!」
「え? ハーレムいらないんですか?」
「いらねぇよ!」
「憧れのドレシーさんが入るのに?」
「……ぃ、ぃらねぇょ……」
「声ちっさ」
「うるせぇ! とにかくハーレムの話はなしだ!」
するとケミィは顔を押さえ、大声で泣き始めた。
「うえぇ〜ん! お師匠様に捨てられた〜!」
「!? け、ケミィ!?」
「うぅ……、一度は受け入れてくれたのに、くすん、手のひらを返して私達を捨てるなんて……」
「ど、ドレシーさん……!?」
「仕方ないさ二人とも。私達が気持ちを押し付けすぎたんだ」
「め、メジク……!」
「だからカール殿が悪くないと、村の人達に……、うう、きちんと、ぐすん、伝えようではないか……」
「泣き落としと見せかけて脅迫か! くそう、しかも致命傷だよ! わかった! 受け入れるからそのわざとらしい泣き方をやめろ! 泣きたいのは俺の方だよちくしょう!」
読了ありがとうございます。
夢は夢でも悪夢の方でした。
ハーレムができたよ!
やったねカールちゃん!
ここまで色気のないハーレムは初めてだぜ……。
次話もよろしくお願いいたします。





