第三十二話 奴隷と元同僚と女店員に囲まれて生きた心地がしない
悪夢の三者会談に巻き込まれたカール。
多勢に無勢な上に女性が苦手なカールに、勝ち目など欠片もないのであった。
どうぞお楽しみください。
「……」
「あ、師匠、着終わりました?」
「あ、あぁ、まぁ……」
リビングの入口から顔だけを出したカールは、気まずそうにリビングを見回す。
「カール殿。顔色が優れないようで何よりだ」
「お、おうメジク、一カ月振り……」
メジクの不穏な挨拶にも、ツッコむ余裕すらない。
「カール先生」
「ど、ドレシーさん……!」
「私のお持ちした服、着てくださったの?」
「は、はぁ、まぁ……」
「まぁ嬉しい! 見せていただけます?」
「……はい……」
ドレシーの観念したカールは、その姿を見せた。
「まぁ! 思った通り、フリルとリボンがいい感じに映えてます!」
「奥歯を噛み締め、必死に耐える表情がたまらなく良いな!」
「うわキツ」
「ケミィ……! 聞こえてるぞ……!」
「まぁまぁ師匠。褒められても微妙でしょうから、率直な感想を受け止めておくのも大事ですよ。ドレシーさん、カツラとかお化粧とかはしないんですか?」
「うーん、してもいいんだけど、そうすると普通に女の人に着せてるのと変わらなくなっちゃうでしょ? 私は『男の人が女性の服を着る』っていうミスマッチの先を見たいの」
「た、探求者ぁ……!」
小声で呟くのが精一杯のカールの袖を、てててっと駆け寄ったケミィが小さく引く。
「どうしたんですか? いつもだったら『業が深いなおい!』とかツッコみますのに」
「……いや、ドレシーさんの性癖に頭がついていかない……。それと慣れない服着てる心細さが……」
「着替えたいですか?」
「……当たり前だろ……。一刻も早く着替えてぇよ……」
「わかりました! 新しい服をお持ちしますね!」
「ちょ、違」
「ドレシーさん! 師匠がお召替えをご希望です!」
「まぁ! 嬉しいです! カール先生は細身だから女性向けの服でも似合うってケミィちゃんが教えてくれたから、たくさん持って来てるんです!」
ドレシーの言葉に、カールの声にいつもの勢いが戻った。
「やっぱりお前かケミィ! いくらドレシーさんが男を女装させるのに目覚めたからって、俺のところにすぐ話が来たのがおかしいと思っていたんだよ!」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねぇ! 全っ然褒めてねぇ! 俺をいじって遊ぶのもいい加減にしろ!」
「遊んでなんかいないですよ。師匠のハーレム完成のために、いつだって真剣です」
「キメ顔やめろ! めちゃくちゃ腹立つ!」
「か、カール先生……?」
「!」
おずおずとかけられたドレシーの声に、我に返るカール。
(しまった! ついいつもの勢いで声を荒げちまった! 普段穏やかな印象の俺が怒鳴ってる姿なんて見せたら……!)
「素敵……!」
「はい?」
「可愛らしい服で打ち消されがちな男らしさが見えて、とても素敵なバランスです!」
「え、あ、はぁ……、ありがとう、ございます……?」
「いつもの物静かな感じより、その方が服も映えます! 是非次の服もその男らしい口調と態度でお願いします!」
「……もう好きにしてください……」
何もかもを諦めた顔で項垂れるカール。
その様子にメジクとケミィが目を輝かせる。
「おぉ! いい感じにげっそりしているなカール殿! 『それでも耐えなければ……!』という悲痛な顔をこちらに向けてくれ!」
「うっせぇ! 万能薬は市販用には作っていません報告は以上です帰れ!」
「かなりストレスが溜まってますね。これは今夜あたりいよいよ……?」
「期待しても無駄だ! 暴力になんか屈しないからな! もうとにかく早く終わらせたい! 何でも着るから早く持って来い!」
読了ありがとうございます。
ん? 今何でも着るって言ったよね?
カールの地獄はまだ続きます。
次話もよろしくお願いいたします。





