第三十話 奴隷の話に慄くしかない
奴隷のケミィにうっふんな小説が見つかり、事ある毎にいじられるカール。
今日も今日とて、メイドハーレムのネタで攻め立てられるのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様、ただ今戻りました」
「お疲れケミィ。薬の注文はあったか?」
「いえ、それはなかったのですが……」
珍しく言い淀むケミィに、カールの表情が変わる。
「お、おい、何があった!? バレたのか!? お前が奴隷だとバレたのか!?」
「それは大丈夫です。外面の良さで私が人に遅れを取ると思います?」
「お、おう、頼もしいけど怖いな……。お前が何かでっち上げたら即俺が悪者にされそう……」
「お望みならば今すぐにでも」
「望まねぇよ! だいぶお前に食い荒らされてる感はあるけど、それでも俺の安住の地なんだ!」
「私もこんな良いところ手放す気はないので、ご安心ください」
「何か引っかかるものを感じるけど、怖いから流そう。で? そうしたら何だ? 何が起きたんだ?」
カールの問いに、ケミィはおずおずと口を開いた。
「……良い話と悪い話、どちらから聞きますか?」
「怖い怖い怖い! お前もう少し自分の言葉の重さを自覚して! もうこの空気に耐えられないから悪い方から!」
「わかりました。ドレシーさんなんですけど、彼氏と別れたそうです」
「おっ……、と、そ、それは悪い話だな、うん」
「顔にやけてますよ」
冷たい視線に、カールは咳払いを一つ。
「んんっ! で、良い方の話って?」
「まだ悪い方の話が残っています」
「……え?」
「別れた原因、私達かもしれないんですよ」
「ど、どういう事だ!? は! まさか村から俺の嫁になるよう別れる事を強要されたのか!?」
目を見開くカールに、ケミィは軽い溜息をついた。
「来た当初ならともかく、ばっちり馴染んだ今更そこまでしてもらえると思うなんて、思い上がりも甚だしいですね」
「厳しい! 違うなら良かったけど!」
「先月メジクさんが来た時、女性らしい服をドレシーさんの店で買ってもらったじゃないですか」
「ちょっと待て深呼吸させて。あの日の事を思い出すと呼吸が乱れる」
「恋ですか?」
「恐怖だよ!」
深呼吸をしたカールが先を促す。
「……ふー、よし、続きを」
「はい。男性だと思っていたメジクさんが服装と化粧で美しくなったのを見て、男性に女装をさせる楽しさに目覚めたそうです」
「……は……?」
「そのせいで彼氏と喧嘩になって、別れる事になったと言っていました」
「ふ、ふーん? そ、そう……。そうなんだ……。わ、悪い話って、それで、終わり……?」
「終わりですけどご主人様、声ぷるっぷるしてますね。罪の意識を感じていらっしゃいますか?」
「……今の時点で俺は悪くねぇし……。何かそれよりも別の恐怖があってさぁ……。それで良い話って……?」
「今度ご主人様に服を贈りたいそうです」
「ぐああああ! 嫌な予感ど真ん中ぁ!」
カールは頭を抱えて絶叫した。
「落ち着いてください。これはチャンスですよ。女装をするだけでドレシーさんをハーレムに引き入れる可能性が生まれるんです」
「だからハーレムはいいって言ってるだろ!? 何で伝わらないの!? 紙に書いて貼っとく!?」
「私書いておきますよ。『ハーレムは良いぞ』ですね」
「無駄に良い声出すな! いいの意味が違う! いらねぇって言ってんの!」
「やはり七人揃えてからの方がよろしいですか?」
「中途半端はいらねぇとかそういうこだわりでもねぇ! ハーレムから離れろ!」
「でもハーレムにドレシーさんを迎えたら、あの豊満な胸はご主人様のものですよ?」
「うぎ……!」
ケミィの言葉にカールは固まる。
「ね?」
「……ぅ……」
「では決定! 三人目はドレシーさんですね!」
「……!? ちょ、ちょっと待て! 三人目って事はお前とメジクが勘定に入ってんの!?」
「勿論です! 一番目はわ・た・し♪」
「ふざけんな! このまま行くと俺が、女装癖のあるやつれた暴力男になるじゃねぇか!」
「業が深いですね」
「仰る通りだよ! 弁解の余地もねぇよ! とにかくドレシーさんには上手い事断って来い!」
「えっ?」
「えっ」
固まる空気。
震え出すカール。
微笑むケミィ。
カールの怯えた声が時を動かした。
「……もしかして、話、進んでる……?」
「はい! 今月末メジクさんが来る日に合わせて顔合わせをしようかと、その日にご主人様の服を持って来てもらうようにお願いしました!」
「嫌あああぁぁぁ! 悪夢の三者会談! 俺は旅に出る! 探さないでくださいお願いします!」
「じゃあここで女子会していいですか?」
「女子会でも何でも好きにし……、駄目だ! お前その場で色々バラす気だろ!」
「えー? 何バラされたくないですかー?」
「答えたらピンポイントでバラされるやつ! わかった! 逃げない! 同席するから! その歌はメジクにはともかくドレシーさんの前ではやめてくれ!」
読了ありがとうございます。
ドレシー……。まさか君が……。
店の品揃えからして、薄々変な奴とは勘付いていたけれど……。
次回は月曜日に更新の予定です。
よろしくお願いいたします。





