第三話 奴隷が寝床に納得しない
奴隷のはずの少女に振り回される天才薬師。
食事も終えてさぁ寝ようという段階で、またも奴隷から不満が噴出。
どうぞお楽しみください。
食事の後片付けを終えた男は大きく伸びをして、与えた寝巻きに着替えた少女へと話しかける。
「よし、着替えたな。風呂は買い取る前の身支度で済ませてるって聞いてるから、今日はそのまま寝るぞ」
「はい。激しくしてくださいね」
期待に満ちた眼差しに、男は怒りの声を上げた。
「寝るって言ってんだろ! 安らぎの代名詞である睡眠に何の激しさを求めてんだよ!」
「求めているのは別の意味の『寝る』ですよ」
「うっせーわバーカ! そもそもそんな貧相な身体に欲情なんかするかバーカ!」
「ご主人様は顔も体型も骸骨みたいに貧相だから、せめて女は豊満なのを選びたいと、そういう事ですか?」
「ごめん俺が悪かった。謝るからそういう事言うのやめて」
勢いを無くした男に、少女は更に言い募る。
「そもそもこの身体は脂肪が少ない分、ダイレクトに内臓や骨にダメージを与えられるんですよ?」
「そのアピールに魅力を感じるようになったら、人として駄目だと思う!」
「成長したら体格も変わってしまいますよ? 今試さないでいつ試すんですか?」
「今でない事は確かだよ! とにかくこの部屋で寝ろ!」
男は少女の腕を引き、部屋の扉を開けた。
「え、ここって……」
「くくく、元物置部屋だ。狭い上に窓も小さいが、まぁ寝るには問題ないだろう」
「大ありですよ! 何でベッドがあるんですか!? 何でカーペットが敷いてあるんですか!?」
「何で当たり前の事でキレられるのお前!? ある種の才能だよもう!」
「冷たく硬い床に直に寝かされた上から踏まれて、『おやぁ? カーペットは喋らないものだぞ?』っていう展開をどこでやればいいんですか!?」
「そんなのここではないどこかでやれ! いや! どこでもやるな! いいから寝ろ!」
「分かりました……」
「おもむろにカーペットを剥がそうとするな! ベッドで寝ろ! じゃなかったら噂を覚悟の上でお前を返品するからな!」
「そこまで言うなら仕方がないです。今日のところはベッドで我慢します」
「よし。よしじゃないがよし」
渋々ベッドに入る少女。
とりあえず男が安堵の溜息をついたのも束の間。
「あ! この敷布団ふかふかですよ! もっとかったいのに改善する事を要求します! できればトゲ付きで!」
「それは改善とは言わないからな! いいから黙って寝ろ!」
読了ありがとうございます。
トゲ付きの布団とは(哲学)。
次話もよろしくお願いいたします。