第二十九話 奴隷の誘惑になんかに惑わされない
ケミィに初級回復薬の作り方を教えるカール。
なかなか真面目に取り組む姿に感心するも、油断は禁物なのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様……」
「何だ」
「もうこんなに溜まってるじゃないですか……」
「そうだな」
「もう我慢の限界です……。思いっきり激しくしてください……!」
「駄目だ」
「欲望を解放して、一緒に気持ち良くなりましょうよ……」
「いい加減にしろ!」
うっとりした顔のケミィに、とうとうカールがキレた。
「いくら初級回復薬の試作がたくさんできたからって、そのバットで何させる気だ!」
「んもう、わかってるくせに」
「わかるからこその怒りと叫びだよ! 何が一緒に気持ち良く、だ! 言っておくけど初級回復薬はあくまで外用薬だから、骨折とかには大した効果ないからな!」
「じゃあムチの方が良いですね」
バットを引っ込めたケミィに差し出されたムチを見て、カールが悲鳴に近い声を上げる。
「何で持ってんの!? どこで買ったそれ!」
「信頼と安心のドレシーさんのお店です」
「不信と不安が高まる一方だよ! 何でそんなもんあの店にあるんだ!?」
「んもう、わかってるくせに」
「くそう、この村絶対おかしいよ! 街ではこんな歪んだ性癖を見る事なかったのに!」
「それはご主人様が人と深く関わらなかったからですよ。ご主人様のメイドハーレムみたいに、誰しも人に言えない願望を隠し持っているものですから」
「ドヤ顔で肩に手を置くな! 親指を立てるな! 何ちょっと先輩風吹かせてんだ腹立つ!」
「腹が立ったらフィスト一発!」
「宣伝文句みたいに言うな! ったく、こんなもんが大量にあるからいけねぇんだ! 密閉してても薬効は徐々に揮発するし、適当に処分して……!」
大量の初級回復薬を睨み付けるカールの袖を、ケミィが引き留めるように引いた。
「駄目です! 私の苦心と欲望の結晶を!」
「その後半の禍々しさが一番の理由だよ! 回復薬は治療するためのもので、お前の被虐趣味の後処理用じゃねぇ!」
「だからって使いもしないで捨てるなんて辛すぎます! もはやこの薬は私の子どもも同然ですから! ねー、ケミィル一号から三十五号」
「子どもという割には名前の付け方雑! あと最後の『ル』はもしかして俺の名前か!?」
「それはそうですよ。二人の共同作業で生まれた薬ですから」
「俺を巻き込むな! どうせ『二人で作ったんだから二人で使いましょう』とか言うつもりだろう!」
「ご名答!」
「嬉しくねぇ! そもそも後半はお前一人で作ってたじゃねぇか! とにかく自傷や他害以外で使う方法がなければ処分する!」
「むう、では薬湯にしましょう」
ケミィの提案に、カールの顔から険が消える。
「薬湯……、成程な。風呂に混ぜるなら大量に使えるし、試作品だからさして罪悪感もない。悪くないな」
「じゃあ早速今日のお風呂でやりましょう」
「わかった」
やれやれと溜息をつくカール。
(これで約束通り初級回復薬の作り方は教えたから、器具と材料をやれば暇な時に一人で作るだろう。こいつに暇を与えると何するかわからないからな……)
そして回復薬に目を向ける。
(正直ここまでのめり込むとは思わなかったけど……。真剣にやるし、効能も十分。薬湯に使えば無駄もないし、肩の荷が降りたな)
充足感に包まれるカールをケミィが現実に引き戻す。
「じゃあ一緒に入りましょうか」
「は!? 何言ってんの!? 別で入るに決まってんだろ!」
「でも薬効成分は揮発性ですよね。すぐ入らないと効果が薄れてしまいます」
「じゃ、じゃあ今回はお前に譲るからゆっくり味わえ!」
「まぁまぁ、お背中流しますよ」
「いらん!」
「あれあれ〜? 私みたいな貧相な身体には何も感じないんじゃないですか〜? それなら一緒に入っても問題ないですよね〜?」
「それはそうだが、一緒に入る理由にもならん!」
「ご主人様……」
ケミィの目がきらりと光る。
「ご主人様は、弟子の頑張りと成果に興味がないと、そうおっしゃるんですか?」
「攻め方変えてきやがった! くそう、薬作りに関しては本当に真面目にやってたから、そこは評価したいけど!」
「なら私水着着ます! それならどうですか?」
「う……」
「ご主人様も水着着て、そうしたら海とかと変わりませんよね?」
「いや、しかし……」
「ご主人様の許可なくお身体に触ったりしません! 殴ったり蹴ったりして欲しいですけど我慢します! 純粋にご主人様に教えてもらった成果を共有したいんです!」
「うぐ……」
「お願いします……!」
頭を下げるケミィ。
カールは葛藤し、頭を抱え、悶え、そして……。
「……すまん、やっぱ無理……」
理性と恐怖心が辛くも勝利した。
するとケミィは、
「はぁ、こういう方向性には弱いと思ったんですが誤算でした。やはり勢いで押し切った方がヘタレのご主人様には向くようですね」
そう言って溜息をついた。
「あっぶねぇ! 頑張ってたしそこまで言うなら良いかなと思ったけど、これで『次のご褒美は殴ってくださいね』って言われそうな気がして避けて良かった!」
「むう、理解してもらえるのは嬉しいですけど、そこまでわかってるなら受け入れる方向で検討してくださいよ」
「お前こそここまでバレてるんだからもう諦めろ!」
「もう、パパったらおこりんぼですねー、ケミィル一号」
「誰がパパだ! 認知なんかしねぇぞ! とっとと風呂入ってつるつるにでもぴかぴかにでもなってこい!」
「元々毛は生えていませんよ?」
「肌の話だよ! 毛なんか知るか! とにかく湯を沸かすのは俺がやるから、薬を風呂場に……、その薬は違うだろ! どさくさ紛れに他の薬に手を出すな!」
読了ありがとうございます。
へいへーい! カール先生ビビってるー!
なおビビって正解の模様。
次回新しいハーレムメンバーが!?
(ジ◯ンプの次回予告風)
次話もよろしくお願いいたします。





