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魔法薬作りの天才で、金も名声も寿命も思い通りの俺だけど、買った奴隷が思い通りにならない  作者: 衣谷強


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第二十八話 奴隷が本当にドMか信じ切れてない

ケミィに初級回復薬の作り方を教える事になったカール。

マウントを取るつもりだったのに、考えをあっさり看破され、何も得る事なく教える羽目になったのであった。


どうぞお楽しみください。

 研究室で、カールはケミィに初級回復薬の作り方を実演していた。


「まずはこの薬草を茎ごとすり潰す」

「はい」

「次にこっちの薬草は、葉っぱだけを細かく刻む」

「はい」

「で、これを湯にかけるが、その際にこの蒸留器を使う」

「何故ですか?」

「この二つの薬草を混ぜて、加熱する事で生まれる薬効成分には揮発性がある。だからこれまでは沸騰した湯で短時間加熱して、汁を搾る方法が主流だった」

「へぇ……」

「だがどうしても茹でる間に揮発し、薬効が弱まってしまう。それならいっそ揮発させたのを蒸留すれば効果高くないか?と思い、この方法にたどり着いた」

「成程……!」


 思いの外真剣に話を聞くケミィに、カールは軽い驚きと共に頬を緩める。


(おちゃらけるかと思ったけど、真面目に学ぶ気があるんだな……。これなら教え甲斐もある……、って待て!)


 抽出を真剣に見守るケミィを見ながら、カールは慌てて気持ちを締め直す。


(いや油断をするなカール! ケミィの事だ! 『この薬だとどれくらいの怪我に効くか試して良いですか?』くらいの事は聞いてくるはずだ! 騙されんぞ!)


「ご主人様」

「な、何だ?」

「この薬だとどれくらいの怪我に効くか試して良いですか?」


 ケミィの笑顔に、カールの怒りと絶望が炸裂した。


「裏切れよ! 裏切ってくれよぉ! 一字一句違わず予想通りの発言しやがって!」

「ご主人様、私をそこまで理解してくれているんですね!」

「したくはないけど必要に迫られてな! 可能なら一生知りたくなかったよ!」

「まぁまぁ、新たな知識は人生を豊かにすると言いますし」

「ドMを知って得る豊かさなんかいるか! 俺はアブノーマルな世界とは無縁なんだよ!」

「メイドハーレムはノーマルですか?」

「くそう、その内安全かつピンポイントに記憶を消す薬を作ってやるからな! 製法どころか理論も思い付いていないけど!」

「そんな非生産的な事より、抽出の終わったこの初級回復薬の使い方を教えてください」


 カールの叫びもどこ吹く風のケミィに、カールはがっくりと肩を落とす。


「おのれマイペースめ……。これは患部に塗るタイプの回復薬だ。軽い切り傷や擦り傷、火傷なんかに効果がある。患部に適量塗り伸ばすんだ」

「わかりました」

「あ! 今はまだ容器に触るなよ! 熱持ってるから火傷するぞ! ……あ」


 言ってカールは後悔した。


(こいつの事だ! それこそ『薬を試す絶好の機会じゃないですか』とか言ってわざと触るに決まってるじゃないか!)


 するとケミィは、


「わかりました。じゃあ冷めるまでの間、薬草を潰すのに使ったすり鉢を洗っておきますね」

「え? あ、うん……」


 呆気に取られるカールをそのままに洗い物を始めた。


(おかしい……。いや待て。今までも過激な言動はあったけど、実際に自分を傷付けた事はなかったな……。もしかして、俺をからかうために嘘を……!?)


 そう考え出すと、全ての辻褄が合う気がした。

 そこでカールは、


(よーし、化けの皮を剥いでやろう……!)


 と一人ほくそ笑むのであった。




 翌朝。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「ケミィ、後片付けが終わったら、ちょっと頼みがある。庭に来てくれ」

「わかりました」


 そう伝えると、カールは庭に行き、バケツに水を溜め、いくつかの薬品をその中に入れた。

 バケツの中の水はおどろおどろしい緑色になり、細かな泡が絶えず湧き上がっては弾ける。


(これでよし……!)


 意地の悪い笑みを浮かべるカールの元に、ケミィがやってきた。


「お待たせしましたご主人様。ご用事は何ですか?」

「あぁ、この薬品を研究室まで運んでくれ」

「わかりました」

「ただ気をつけろよ。これは皮膚を溶かし激痛が走る劇薬だ。身体に付かないようにな」

「……」


 目を見開いてバケツに歩み寄るケミィに、カールは笑みを深める。


(本当に皮膚が溶けるとなれば躊躇するだろう! 中身はただの色付き炭酸水だけど、これでケミィの本性がわか)

「わーい」

「ノータイムで頭から行ったぁ!? ば、馬鹿かお前!」


 バケツを頭上で空にしたケミィは、びしょ濡れのまま怪訝な表情を浮かべた。


「……何かしゅわしゅわして気持ちいいですけど、全然痛くないじゃないですか! どうなってるんです!?」

「どうなってるんですはこっちの台詞だ! 普通頭から行く!? 指で試したりしねぇの!?」

「そんな事したらご主人様が止めると思ったので一気に行ったのに……! 騙すなんてひどいです!」

「いやそれは悪……」


 言い募られてたじろぐカールだが、すぐに正気に戻る


「……くはねぇだろこの場合! 本物の劇薬だったら、皮膚が溶けて大事になったんだぞ!」

「望むところです」

「望むな! 大体自傷はしねぇんじゃねぇのかよ!」

「ご主人様からいただいた薬品の痛みなら、ご主人様に痛みを与えられたも同じです!」

「何だその理屈! 迂闊に薬品の運搬も頼めねぇ!」

「……もう。防護服もなく危険な薬品を蓋なしの容器で運べなんて、ようやくご主人様が目覚めてくださったのかと思ったのに……」

「目覚めるかぁ! くそう、やっぱり真性のドMかよ! もういいから風呂に行ってこい! あ! 待て! 風呂は俺が沸かすからちょっと待て! タオルかぶって待ってろ!」

読了ありがとうございます。


何故勝てると思ったのか、これがわからない。

まぁ人は自分の望む解答を正解と思いがちなところがありますからねぇ……。

ねぇカール、陰謀論って知ってる?


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カールさんとケミィちゃんの相互理解が深まっていて微笑ましいですね(やりとりの内容からは目を逸らしつつ)。 [気になる点] ケミィちゃんは本当に危険な薬と思って被ったのか、カールさんの嘘を見…
[良い点] ノータイムとは(笑) 愛されていて良かったね!カールヽ(=´▽`=)ノ
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