第二十六話 奴隷と元同僚に仲良くなってほしくない
奴隷のケミィと元同僚のメジクに翻弄されるカール。
傍から見れば両手に花だが、二人の本性を知るカールには恐怖しかないのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様ー。お昼ができましたよー」
「あぁ、今行く」
ケミィの声に、カールは器具を片付けて研究室を出る。
勿論鍵は忘れない。
「今日のお昼はきっと驚きますよ」
「へぇ、そんなすごいのを作ったのか?」
笑いながらリビングに入ったカールは、そこで固まった。
目の前に絶世と呼んでいい美女が座っていたからだ。
勿論見覚えも心当たりもない。
「え、あの、どちら様で……?」
「まぁそういう反応になるだろうな。私も鏡を見て誰だこいつと思ったよ」
「! その声! お前メジクか!?」
「正解だ。馬子にも衣装とはよく言ったものだ。服装と化粧でこれほど変わるとはな」
カールは立ち上がったメジクを見つめる。
頭の後ろできつく縛り上げていた黒髪は、ふんわりとまとめられて、肩から前に流れた先は落ち着いた色の細いリボンでまとめられている。
顔は目元の化粧で、切長でキツそうなイメージが和らぎ、頬紅の効果もあってか、険の取れた表情になっていた。
白のブラウスには襟元やボタンの縫い目のところに刺繍が施され、上品かつ可愛らしさも醸し出している。
薄紫のロングスカートはタイトなシルエットになっていて、メジクのスレンダーな身体によく似合っていた。
「どうだ、この姿は」
「あ、え、いや、何でそんな格好を……?」
「ケミィ殿の紹介で服屋に行ったら、服装だけでなく髪型や化粧まで細かく教えてくださってな」
その言葉に、カールは隣で微笑むケミィに目を向ける。
「ケミィ! またお前は余計な事を!」
「あれ? メイド服の方が良かったですか?」
「違う!」
「看護師服でしたか。失礼しました」
「違ぇって! ちなみにシスター服でもねぇからな!」
「もっと刺激的なものをお望みだと……?」
「衣装から離れろ! そうじゃなくて、何でメジクにそんなアドバイスしたんだよ!」
カールの詰問に、ケミィはさらりと答える。
「ご主人様は幸せを願っていらっしゃるんですよね? 幸せや望みを叶えるには、あらゆる可能性を模索しなくては」
「う……。それは、そうだが……」
ちらりとメジクを見る。
見た目は街なら誰もが振り返る姿。
確かに十分以上に恋愛対象になり得る容姿だが。
「カール殿! ドレシー殿からやつれメイクなるものを習ったのだが、試してみても良いか!? そのふくよかになり始めた頬をこけさせてみたい!」
「あれに何の可能性を見出せと!? ドレシーさんはドレシーさんで何を教えてるんだよ! 幸せを貪欲に追求する姿勢は見習うべきかもしれないけど!」
「ハーレムを作るにはたくさんの女性が必要なんですから、細かい事気にしていちゃ駄目ですよ!」
「細かいか!? これ細かい事か!? あとハーレム願望を現実にしようなんて大それた考えはねぇ! 頼むから忘れて!」
するとメジクの目が更に輝いた。
「ハーレムか! 良いな! 自然にカール殿がやつれていく!」
「いやぁ! 食いつかれた! 違うんだ! 俺は別に……!」
「あとメイドもお好きです」
「この獅子身中の虫!」
「成程! 他に好きなものはあるか!?」
「後は女の子を殴るのを趣味にさせる予定です!」
「予定じゃねぇ! 単なる妄言だろ!」
「それは相当体力を使うだろうな! 傷は回復薬で治せるから、カール殿がげっそりするまで続けられるな!」
「聞いて! 話を聞いて! 何で決定事項として扱われてんだよ!」
「最高ですね!」
「あぁ!」
がっしり手を握るケミィとメジク。
「悪魔の同盟! 俺の悠々自適のスローライフが高速で地獄に急転直下なんですけど!」
「大丈夫ですよご主人様。ちゃんとメイド服着ますから」
「それでチャラになるかぁ! むしろメイドに対して若干のトラウマを抱えつつあるんだけど!」
「ならばシスター服か?」
「お前ら自分の性癖が服装で誤魔化せるレベルだと思ってんの!? 考え甘くねぇ!?」
「私が買ったシスター服着てみます? きっと超ミニになっていかがわしさが上がると思います!」
「うむ、それは試してみたいが、破れたら悪いな」
「それはそれで無理矢理致されたシチュエーションで使えるので大丈夫です!」
「もうやだこいつら! とにかく昼飯ができてるなら食うぞ! メジクは明日から仕事あるんだから飯食ったら帰れよ! ケミィは飯の片付け終わったら説教だ! いいな!」
読了ありがとうございます。
「人間見た目じゃない!」
「ご主人様が言うと説得力がすごい」
意味としては逆ですが。
次話もよろしくお願いいたします。





