第二十三話 奴隷が勧めるけどお酒とか飲んだ事ない
村人に自分が万能薬を開発した事をバラされないために、ケミィに過去を話したカール。
カールを誤解していたとケミィは涙を流したが、翌日にはいつも通りになってしまったのだった。
どうぞお楽しみください。
「ひゃー、すっきりしたぜ! 先生ありがとな!」
「次からはあまり飲み過ぎないでくださいよ」
「お大事に」
村の男が上機嫌で帰ったのを見送って、ケミィはカールに問いかける。
「今の薬は何ですか? 来た時は死にそうな顔してた人が、すごく元気になりましたけど」
「ただの酔い覚まし。二日酔いにも効果があるんだよ」
「あの人二日酔いだったんですか……。それにしても、飲んであんなすぐ効くなんてすごいですね」
「速攻性の麻酔薬を微量に配合してるんだ。飲んだ時には麻酔で苦痛が軽減して、その間に酒や悪酔いの成分を分解する」
「おぉ、さすがご主人様」
「何だ! 今度は何を狙っている!?」
「反応が過敏」
ふとケミィが気づいたように問いかける。
「そういえばご主人様がお酒飲んでいるの、見た事ないですね」
「飲まねぇからな」
「どうしてですか?」
「好き好んで神経毒を身体に入れる理由がないだろ」
「えー、ご主人様は色々我慢してるんですから、たまには解放した方がいいですよ」
その言葉に、カールの表情が曇った。
「……お前、あわよくば俺が酒乱で、酒の勢いで手を上げるのを期待してんだろ」
「それはおまけですよー。ご主人様のストレス発散が本来の目的ですってー」
「隠す気がないのがいっそ清々しい! でも駄目なものは駄目だ! そもそもうちには酒なんか」
「先生ー! うちの宿六がお邪魔してませんかー!」
「!」
扉の外からの声に、カールは咳払いをして声を整える。
扉を開けると年配の女性が、瓶を抱えて立っていた。
「コルーさん? ご主人なら今帰りましたけど」
「あら! あの人ったら……。『日頃のお礼に先生に良い酒差し入れるんだ』なんて言っておきながら、うちに置き忘れて行ったんですよ」
「えっ」
「安酒ですけど、あの呑んべぇの一押しですから味は確かだと思います。どうぞ飲んでやってください」
「あの、いや、その」
戸惑うカールの横からケミィがするりと出て、コルーから瓶を受け取る。
「ありがたく頂戴いたします』
「あ、こらケミィ! お前……!」
「駄目ですよ師匠。遠慮は美徳かもしれませんが、心遣いが嬉しいなら素直に受け取らないと」
「まぁ! 先生もお好きで?」
「お好きですよねぇ?」
「あ、う……」
厚意から来る贈り物の断り方を知らないカールは、
「ありがとう、ございます……」
精一杯の笑みを浮かべて頭を下げたのだった。
「さぁご主人様! 準備は万端です!」
「うるせぇ! くそう、ものの見事に晩飯を全部酒のつまみで統一しやがって!」
「今日のメニューは炙り腸詰め、揚げ芋、ピナツの種の塩炒り、燻製卵、マムーク蛇の蒲焼です!」
「おい! 何か今最後に変なのなかった!? ヌメリウオじゃねぇのこれ!?」
「いただいた芋酒にはこれが一番合うそうです」
「それにしたってこれ確か毒蛇じゃねぇか……」
「すごく色々元気になるみたいですよ! さぁお酒と一緒に召し上がれ!」
「酔い覚ましに加えて鎮静剤も用意しておかねぇと……」
「そんなの後でいいじゃないですか! 私もジュースを用意しましたし、はいはいグラス持って持って! かんぱーい!」
「か、乾杯……」
「ご主人様?」
「んあ……? うん……」
「いい感じに酔っ払いました?」
「うん……、頭がぼーっとする……。薬、飲まないと……」
カールのとろんとした様子に、ケミィがにやりと笑った。
「その前に、何か込み上げる気持ちとかないですか?」
「気持ち……?」
「私に対して、こう、むかむか、とか、むらむら、とかないですか?」
「……感謝」
「え?」
「ケミィにはいつも助けられてるなぁ……。ありがとなぁ……」
「え、あの、ご主人様?」
戸惑うケミィに気付いた様子もなく、カールは張りのない声で喋り続ける。
「飯も美味いし……、朝は懲りずに起こしてくれるし……、買い物とか掃除とかも、こまめにしてくれるし……、ありがたいなぁって……、いつも思ってる……」
「あの、えっと、じゃ、じゃあご褒美に一発叩いてください!」
「それはできない」
「急にキリッと!」
「ケミィはいい子だから……、叩くとかできない……」
「はぁ、そうですか……。じゃあ悪い事したら叩いてくれます?」
「注意はする……。でも叩かない……。ケミィは叩いても喜ぶだけ……」
「むぅ、妙に冷静。本当に酔ってます?」
「多分……」
「頭撫でてくれます?」
「うん……」
言われるまま、ケミィの頭を撫でるカール。
「おぉ、間違いなく酔ってますね。それなら次は……」
「おはようございますご主人様」
「……うあ……。頭痛ぇ……。しまった、薬飲み忘れたか……」
「はい、薬お待ちしました」
「おう、助かる……。ふぅ、楽になった……」
落ち着いたところで我に返り、青ざめるカール。
「はっ! マムーク蛇の蒲焼が意外に美味かったなーって思ったぐらいから記憶が途切れてる……! お、おい! ケミィ! 昨晩俺何かした!?」
「はい。色々としてもらいました」
ケミィの笑顔に、カールの顔色は青から白に変わる。
「な、何したの俺!」
「秘密です」
「怖い怖い怖い! 頼む! 教えて!」
「知りたければ折檻でも拷問でもして」
「そういうのいいから! 何でこれまで見た事ないレベルのいい顔してんの!? ちょっ、待て! スキップで楽しそうに逃げるな! 話し合おう! な!」
読了ありがとうございます。
何をしてもらったんでしょうなぁ……(ゲス顔)。
まぁカールは酔ってもへた……、真面目なので、大した事はしてません。
マムーク蛇「誠に遺憾である」
次話もよろしくお願いいたします。





