第二十話 奴隷の助手仕事が油断ならない
朝早起きできず、起こされるのが日課になってしまったカール。
一人きりだった日常にがんがん食い込んでくるケミィに、なす術を持たないのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様。今日の依頼、伺ってきました」
「あぁ、悪いな」
ケミィがカールの元に来て一ヵ月。
村の中ではカールの助手となっているケミィは、食材の買い出しの際に薬の御用聞きのような事もするようになっていた。
ケミィが買い物ついでに薬の依頼を聞き、薬をカールが渡す形にしてから、薬の依頼とカールの評判は順調に上がっていた。
「今日の依頼は、村長さんの腰痛の薬と」
「あの人姿勢直さねぇから、いつまでも薬頼みになるんだよなぁ……」
「マドムーさんからは肌がツヤツヤになる薬」
「厚化粧をやめてもらわん事には、いたちごっこなんだけどなぁ……」
「それと力が強くなって、近くにいる奴隷を殴りたくなる薬の三つですね」
「最後のはお前の願望だろ!」
カールの叫びに、ケミィは驚いた表情を浮かべる。
「な、何故私だと!?」
「わかるわ! むしろわからないでか!」
「ど、ドレシーさんの依頼かもしれないじゃないですか!」
「ドレシーさんのどこに奴隷を殴りたくなる必要があるんだよ! お前騙す気ある!?」
「ドレシーさんの名前を名前を出せば何とかなるかと……」
「ドレシーさんへの信頼感なのか、俺を馬鹿にしてるのかわかんねぇけど多分後者だな! とにかく作るかそんなもん!」
するとケミィは挑発的な目をカールに向けた。
「えぇ? ご主人様天才なのにこんな薬も作れないんですかぁ?」
「技術の問題じゃなくて倫理の問題な! 薬師のプライドがそんな禍々しい薬の製造を許さん! だいたい依頼だとしたら支払いはどうするんだ!」
「身体で払います! さぁ思う存分楽しんでください!」
「楽しいのお前だけだろ! それに身体で払うも何も、お前は俺の奴隷じゃねぇか!」
「おー、つまり身も心も既に俺のものだと。きゃー男らしー」
「都合のいい解釈! 身も心も全くもって思い通りにならんけどな!」
「ご主人様が欲望を抑えているのが悪いんですよ」
「え、何俺のせいなの!? 意味わかんねぇ!」
ふとケミィが真顔になる。
「ご主人様はこれまで頑張ってきましたよね?」
「何急に! 怖い怖い怖い!」
「研究に打ち込み、青春を投げ打って、人々のための万能薬を完成させた……」
「う、あ、ま、まぁな……」
「だからご主人様は幸せになるべきだと思います」
「……」
「なので己の力を誇示するべく、金にあかせて買った私を力の限り思いっきり殴」
「あー、良かったいつものケミィだー」
安堵の表情を浮かべるカールに、ケミィは頬を膨らませた。
「むぅ、ご主人様の中で私ってどうなってるんですか?」
「ドMの化身」
「ひどい! もっと他にないんですか!?」
「お前の自己評価だとどう思われてると思ってんの?」
「『ストレスの捌け口』とか『生サンドバッグ』とか思ってもらえてると思ったのに……」
「そっちの方がひどくねぇ!? あと捌け口どころか目下のストレスは主にお前からもたらされてるからな!」
「つまりいつも私の事を考えてくれているんですね」
「事実だけどもそんなもじもじして言う類のものじゃねぇ!」
「では私が嬉しくなったところで、薬作りに入りましょうか」
「お前のメンタル鋼か何か!? とにかく薬を作ってくるからお前は掃除でもしてろ! 違う! 研究室じゃない! いい加減諦めて本当に!」
読了ありがとうございます。
慣れていくのね……。
さてこのままカールの評判が良くなれば、金持ちインテリのカールは嫁の一人や二人見つけられそうですが、果たして……?
次回更新は来週月曜日の予定です。
よろしくお願いいたします。





