第二話 奴隷が夕食に満足しない
村の女性達から魔物扱いされて、絶望した天才薬師。
自分の死後の始末に奴隷を雇おうと思ったら、実に積極的なドMが来た。
そんな話です。笑ってやってください。
「とりあえず飯だ」
「これって……」
少女の目の前に出されたのは、固いパンに薄いスープ、葉物野菜だけのサラダに少しの焼いた鶏肉。
一般家庭での夕食と比べても、見劣りのする品揃えだった。
「……こんなのって酷いです……」
「食事に文句をつけるとは、奴隷のくせに生意気だな。言ってみろ、何が不満だ?」
「石とか砂じゃないんですか!?」
「それは出された時にキレろよ!」
男のツッコミにも、少女の勢いは止まらない。
「だってこんなの普通のご飯じゃないですか!」
「そうだよ! そこにツッコまれる事態は想定してないよ! 量が少ないとか、品が貧相とか、そっちで攻めてこいよ!」
「石や砂を口に含ませて、その頬を踏みつけて『どうだ旨いか?』という流れは!?」
「流せそんなもん! 忘却と時の彼方に押し流せ! くそう! 『もう少し良いものを食べたかったら言う事を聞くんだな』ってマウント取れると思ったのに!」
「調教のレベルが低過ぎます。もっと直接的に力の差を思い知らせないと」
「何でされる側からダメ出しされてるの俺?」
「もしくは一度お腹いっぱいに食べさせてから、お腹をこう」
「やめろ! 飯が不味くなる! いいから食え!」
「……いただきます」
少女は不満そうにしながらも、食事を始めた。
男も向かいに座って食事を始めたが、少女の様子を見て手を止める。
「……へぇ、お前ちゃんとマナー教わってるんだな」
「まぁ奴隷になる前は普通の家で育ちましたから」
「それが何で奴隷に?」
「……言いたくありません」
固い言葉に、男は慌てて手を振る。
「わ、悪い。言いたくないよなそんな事……」
「は!? 何でそこで引くんですか!? そこは『なら身体に聞くとしよう。徹底的にな……!』と拷問に及ぶのが常識でしょう!?」
「『自分の常識、世間の非常識』って言葉をお前に贈るよ!」
「自分の立場を考えないで、村全体に無意識パワハラした人の言葉だと重みが違いますね」
「お前情けって言葉知ってる!? そういう事言うなら俺にも考えがあるぞ」
「鉄拳制裁ですか? 調教ですか?」
「わくわくした目で見るな! そんなのお前の一人勝ちじゃねぇか!」
「なら一体何を?」
「人目もはばからずさめざめと泣く」
男の意外な言葉に、少女の顔が引きつる。
「どうだ? 大の大人の醜態に、お前は耐えられるか?」
「も、申し訳ありませんでした……」
「分かれば良い」
「今後はこのような事は申しませんから……」
「まさかこんな手で勝てるとは」
「そんなに傷つかれていたとは……。後で頭を撫でて差し上げます……」
「うん、その辺にしておこうか。そろそろ優しさが辛さに変わる時間だから」
「こんな、こんな骸骨みたいな見た目でも、私はご主人様にお仕えしますから!」
「優しさの皮を被って、心の奥底に消えない傷を刻もうとするな! 謝る気ないだろお前! いいから早く食えちくしょう!」
読了ありがとうございます。
少女のレベルが高すぎる。
メンタル弱めの薬師に勝ち目はあるのか。
次話もよろしくお願いいたします。