第十九話 奴隷の母親みたいな助言に逆らえない
ケミィの一緒に寝たいという要求を却下したカール。
しかし朝になればまたケミィの手出し口出しが始まるのであった。
どうぞお楽しみください。
「ご主人様、起きてください」
「……んむ……」
「朝ご飯できてますよ」
「……もうちょっと、ねる……」
「駄目ですよ。ご飯冷めちゃいます」
「……さめてたって、うまいし……」
カールの寝ぼけ声に、ケミィの頬が緩んだ。
「……そんなに私のご飯が気に入りました?」
「……いままで、パンとほしにくとかだったから……」
「むぅ、比較対象が失礼です。あったかい方が美味しいですから、さぁ起きてください!」
「あとにじかん……」
「がっつり二度寝の態勢ですね。ならば……」
目を光らせたケミィが、布団の中に潜り込む。
「……ん……? なに……? んふふ、くすぐった……、っ!?」
覚醒したカールが、海老のように後ろ向きに跳ねた。
壁に背中を打ち付けたが、痛みよりも動揺が支配したカールが怯えた目で叫ぶ。
「な、何する気だ!」
「反応が乙女」
「あ、朝っぱらからそういう事は良くないぞ!」
「夜ならいいんですか?」
「あ、朝は特に駄目って事だ! 夜は普通に駄目!」
「朝の方がいいじゃないですか。明るい方がしやすいですし」
「し、しやすいって何がだ!」
「掃除です」
「……掃除?」
「はい」
膝立ちで腰に手を当てたケミィが、ぽかんとするカールに頷いた。
「ご主人様が起きないなら鍵をお借りして、研究室のお掃除をと思いまして」
「な、何だ、そうか……」
息を吐くカール。
それを見たケミィの顔がにやにやと歪む。
「期待しちゃいました?」
「は!? し、してねぇよ!」」
「その割に研究室の鍵を取られそうになったのに、その事はどうでもいい感じでしたね」
「か、鍵はそう簡単に取られないようにしてるからな! 大丈夫だと思ってるだけだ!」
「ちなみにどこに隠してるんですか?」
「それはく……、言うかぁ! お前どこまで会話に罠張れば気がすむの!?」
「首ですか。なら明日はそこを狙いますね」
「くそう、暗証番号式の金庫買わないと! いや、まずこの部屋に鍵を付けて……!」
するとケミィは、にやけ顔を消して真顔でカールに迫った。
「駄目ですよ! そうしたらこうやって朝起こしに来れないじゃないですか!」
「頼んでねぇからな! くそう、一人の時は好きなだけ寝てられたのに……!」
「それが良くないんだと思いますよ」
「な、何がだ?」
目を丸くするカールに、ケミィは指を振りながら説明する。
「朝から起きて活動して、夜は早めに寝る。そうしていく事で、今の死体のような顔色はかなり改善すると思います」
「ぐぬ……、言い方にはものすごく引っかかるものがあるけど、健康のためには確かにそうか……。わかった。朝はちゃんと起きるようにするよ」
「それがいいと思います」
にっこり微笑むケミィに、カールもにっこり微笑み返した。
「ただし部屋に鍵は付ける」
「何でですか!」
「お前のその満面の笑みに恐怖しかないからだよ! 今朝みたいな事されたら、それこそおちおち寝てもいられねぇだろ!」
「鍵探しですか? えっちな事ですか?」
「どっちもだよ!」
「どっちもって事はやっぱり期待されてたんですね」
「ち、違う! とにかく今日は鍵と金庫を買いに行く!」
カールの決意を、ケミィが両手を広げて遮る。
「待ってください! これから三日、私が朝起こしに来た時にちゃんと起きれてたら鍵もやむなしとは思いますが、起きれないなら鍵は許可できません!」
「お前俺の母ちゃんかよ! お前に許可される必要ねぇからな!」
「あれぇ? 早起きの必要性を理解して実行できるなら、余裕で起きられますよねぇ?」
「うぐっ……!」
煽るような口ぶりに、カールの勢いが止まった。
「まさか口だけで起きる気はないとか言いませんよねぇ?」
「お、起きれるわ! 超余裕だわ!」
「では約束ですよ。私は朝ご飯を作ってから起こしに来ますので、ちゃんと起きててくださいね」
「お、おう!」
「ちなみに早起きできる薬とか、寝ないでいられる薬とかは使用禁止ですよ」
「あ、当たり前だ! 絶対早起きしてみせる! お前見てろよ! 『ご主人様を甘く見てました』って言わせてみせるからな!」
三日後。
「も、もう一度チャンスをくれ! 今度こそ……!」
「駄目です。早起きの習慣ってすぐには身につかないんですよ。しばらくは大人しく私に起こされてくださいね」
「ちくしょう……! ちくしょー!」
読了ありがとうございます。
眠気には勝てなかったよ……。
フラグ建てまくったせいでもありますが。
休みの前日に普段と同じ時間に起きて、実りある休日を過ごそうと固く決意するのに、気がつけば昼。
この現象に学名をつけるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
次話もよろしくお願いいたします。





