第十八話 奴隷がスムーズに寝かせてくれない
疲れるお風呂タイムを終え、夕食の時を迎えるカール。
後は就寝だけとなっても、ケミィのちょっかいは止まらないのであった。
どうぞお楽しみください。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
「いや、自信作と言うだけあって、めちゃくちゃ美味かった。お前料理人としてでもやっていけるんじゃないか?」
「ありがとうございます」
カールの絶賛に、にっこりと微笑むケミィ。
しかしその笑顔はすぐに曇る。
「でも十一の子どもを雇ってくれるところなんてありませんし……」
「そ、そうか」
「どんなに適性があっても、子どもというだけで活かされません……。子どもである事がこんなに悔しいなんて……」
「……」
絞り出すような言葉に、カールは言葉を失った。
何とか励まそうと、カールは努めて明るい声を出す。
「ま、まぁここなら活かせるんだからさ、そんなに悲観する事もないと思うぞ!」
「……本当ですか?」
「あぁ! だからこれからも美味いりょ」
「なら思いっきりぶってください!」
「流れおかしくない!? 今の殊勝な気持ちはどこ行ったの!?」
戸惑うカールに、ケミィはしれっと答えた。
「だって奴隷で苦痛に快感を覚えるとか、これ以上の適性はなくないですか!?」
「いつそっちの話に切り替わった!? 手品!?」
「ここなら私の特性が活かせる……! 素晴らしいご主人様にお仕えできて、私は幸せです!」
「期待してくれてるところ悪いんだけど、力になれそうにないなー」
「殴られたい女の子を殴るだけの簡単なお仕事ですよ?」
「心理的なハードルが高すぎるんだよ! 誰が好き好んで子どもなんか殴るかぁ!」
「好き好んででなくてもいいんです! 人助けだと思って、さぁ!」
「どんなボランティアだ! 人を傷つける人助けなんて聞いた事ないわ!」
「お医者さんだって治療のために、刃物で人を傷つけますよ?」
「手術と一緒にすんな! 外科医の皆様に謝れ! お前の煩悩を切除できたらどれだけいいか……!」
「脳を削り取るなんて斬新!」
「違うし怖いから期待に満ちた視線をやめろ! あーもー! 飯も食ったし風呂も済んでるし、俺はもう……」
「寝ますね!?」
「……睡眠に入る!」
「分かりました」
寝室に向かうカールの後ろについていくケミィ。
部屋の前で立ち止まったカールが振り返る。
「何でついてくんの? お前の部屋はあっちだろ?」
「一つご主人様にお願いがありまして」
「何だ? ベッドにトゲなんか付けねぇぞ?」
「何でですか!」
「ベッドにトゲ付けるのが手間かかるからだよ! 付ける意味もわかんねぇし!」
「じゃあ既製品でもいいです」
「トゲ付きのベッドに既製品なんかあるかぁ! あったとしても探すのが難しすぎるだろ! 忘れそうになるけどお前は奴隷だからな! 主人である俺に余計な手間かけさすな!」
「まぁそのお願いはまた日を改めてするとして、今はそれではないのです」
「ないのかよ! そして諦める気が全くないのがまた怖い! だったらお願いって何だ!」
カールの叫ぶような問いに、ケミィが眉根を寄せる。
「昨日は疲れていたせいか、すぐ寝てしまいました」
「それがどうした?」
「ご主人様より早く寝るのは、奴隷として申し訳ないと思うんですよ」
「別にそんな事気にしなくていいだろ」
「いえ、仕える者として、ご主人様が何か申し付けたい時に寝ていた、ではいけないと思います」
「俺は気にしないけどな……」
「なので一緒のベッドで寝てください」
「は?」
不意を突かれ、目を丸くして固まるカール。
「お、お前何言って……」
「それなら何か用があれば揺り起こしてもらえますし、夜中に人を殴りたくなった時にも迅速に対応できます」
「おいもう半分本音漏れてんじゃねぇか!」
「駄目ですか? それならせめて、ご主人様が眠るまでベッドの横で待機させてください」
「怖ぇよ! そんな監視されて眠れるかぁ! ……あ! さてはお前、寝てる間にこっそり研究室の鍵を持ち出そうとか考えてんだろ!」
するとケミィはぽんと手を叩いて、満面の笑みへと変わった。
「あ! その手がありました!」
「しまった! 先読みのつもりが余計な事言った!」
「やっぱり一緒に寝ましょうよご主人様ー。私たまーにトイレに立ちますけど、気にしないでいいですからー」
「駄目だ! 部屋で寝ろ! 俺はめっちゃ寝付きいいから! すぐ寝るから! この部屋にも鍵がいるなちくしょう!」
「いっそ研究室の鍵をなくせば、色々な心配が解消できるのでは?」
「あー、なるほどなーってなるかぁ! とにかく鍵は俺が肌身離さず持って寝るから余計な事しないで寝ろ!」
「わかりました。では失礼します」
「え、ちょ、何で部屋に入って……。おい! ベッドの下から本を出すな! ティッシュを添えるな! それが余計だって言うんだよ! 早く部屋行って寝ろ!」
読了ありがとうございます。
うっふん小説を目の前でセッティングする非道。
あんまりだよ。
こんなのってないよ。
次話もよろしくお願いいたします。





