第十七話 奴隷が気をきかせてるようで全然きかせてない
村人から頼まれた薬の調合を、研究室にこもって行うカール。
仕事を終えて一息つくも、それ以上の大変が扉の外に控えているのだった。
どうぞお楽しみください。
「ふぅ、終わったぞ」
「お疲れ様ですご主人様。晩ご飯できてますよ」
研究室から出てきたカールを、ケミィが笑顔で出迎える。
「おぉ、タイミングいいな」
「今日のは自信作ですよ! さぁ食べましょう!」
「わかったわかった。あまり急かすな」
「冷めちゃったら勿体ないですよ! さぁ早く!」
「待て待て。その前に研究室に鍵をかけないとな」
するとケミィはぴたりと動きを止め、落胆の色をあらわにした。
「はぁ……。はいじゃあ早くかけてご飯にしましょー」
「やたら急かすから怪しいと思ったら、鍵のかけ忘れを狙ってやがったな!? 油断も隙もねぇ!」
「ち、違いますよー。もっと私を信じてくださいよー」
「信じてるぞ? 鍵をかけないでおいたら忍び込んで薬を持ち出すって心から信じてる」
「ひどいです! お仕事ちゃんと頑張ったのに……!」
「そういえば家の中が随分綺麗だな」
廊下、リビングと進んだカールは、感嘆の声を上げた。
「もう全部の部屋掃除したのか?」
「研究室がまだ……」
「そこはいいって言ってんだろ! それ以外!」
「あとご主人様の部屋は」
「そこもいい!」
「えっ、言われてないので終わりました」
「くそう、先に言っておくんだった!」
頭を抱えるカールに、ケミィはにっこりと微笑みかける。
「ベッドの下にあった本については察しがついたので、元に戻しておきました」
「き、気がきくじゃないか……」
「しかしご主人様もちゃんと女の子に興味があったんですね。安心しました」
「理解のある母親かよお前!」
「ハーレム願望とは身の程知らず感が否めませんが」
「読んでんじゃねぇか! 察したんならスルーしろよ!」
「ご主人様の嗜好を知っておくのも、奴隷の務めですから」
「弱みを握ろうとしているにしか思えねぇんだよ!」
「はははそんなまさか」
目を逸らすケミィに、震える声で虚勢を張るカール。
「べっ別にハーレム願望なんて、男は大抵持ってるもんだし!? 別にバラされたところでダメージはないに等しいし!?」
「声裏返ってますよ」
「いいから飯だ! おかずは何だ!?」
「ご主人様のベッドのし」
「晩飯の話だよ! 蒸し返すな!」
「豚肉をオーニオの実と炒めて、ジンジヤの根をすりおろして絡めました」
「あー、この匂いはそれかぁ。美味そうだ」
「豚肉は疲労回復に効果がありますからね。お疲れのご主人様にぴったりかと」
「ありがとな。でも夜はハッスルしないぞ?」
カールの優しげな言葉に、ケミィが固まる。
「……思っていても言わないのが優しさではなかったんですか!?」
「お前にそんな優しさを要求する資格はねぇ! だいぶお前の思考パターンは読めてきたからな! ここからは反撃も覚悟するんだな!」
「ふむ、順調に嗜虐心が育ってますね。いい傾向です」
「一瞬でも勝ったと思った俺が馬鹿だった!」
「ご飯の後が楽しみです」
「何もねぇよ! 寝るだけだ!」
「はい!」
「あー、間違えた言い直すわ。睡眠だけだ」
「……はい……」
「がっかりしすぎだろ! でもしてやったりとか思ってないからな!」
「必死必死」
「やかましい! とにかく飯だ! くそう、やたら美味そうなのが逆に腹立つ! 細かい事は置いといて、冷めないうちに食べるぞ! いただきます!」
読了ありがとうございます。
おそろしくベタな隠し場所。
ケミィでなくても見逃さないね。
ちなみに本は『虹色メイド 〜今日のご所望は何色ですか?〜』という、七人の特色あるメイドに主人公が訳もなく溺愛されるベタでうっふんな小説です。
赤は強気、橙は陽気、黄色は無垢、緑は真面目眼鏡、青はクール、藍はダーク系、紫は大人なお姉さん。
で、みんな主人公にベタ惚れ。
カールの願望が透けて見えるようで悲しい……。
次話もよろしくお願いいたします。





