第十五話 奴隷を風呂に入れるのに心配しかない
筋トレでかいた汗を流すべく風呂に入ったカール。
色々な不安から大急ぎで出るも、今度はケミィを風呂に入れる事への心配が押し寄せるのであった。
どうぞお楽しみください。
「出たぞ! 余計な事はしてないな!」
「……ご主人様、早ーい……」
風呂から上がったカールを、ケミィが若干不満げな表情で迎える。
「不満そうな顔すんな! それは俺の方がやりたいわ! 生まれてこの方こんなに早く風呂上がった事ないからな!」
「一緒に入ればゆっくり入浴できましたのに」
「お前の言う『ない事ない事』を『ある事ない事』に変えられてたまるか!」
「私が一人前になるまでちゃんと育ててくだされば、微笑ましいエピソードになりますよ?」
にっこり微笑むケミィに、カールは首を激しく横に振った。
「なるかぁ! 五、六歳ならともかく、一人で風呂に入れる歳のお前と一緒に入ったら、必然性がない分変な意味が付け足されるわ!」
「むぅ、ご主人様は頭が硬いですよ。もっと柔軟に考えないと」
「おう! カチカチで結構だ! モラルを緩める気は全くない!」
「身体もほぼ骨で硬いですしね。腕なんか枝かと思いましたよ」
「腹いせに人のコンプレックスをつつくのは良くない事だぞ! くそう、今に見てろ! 健康的な身体になって見返してやるからな!」
「がんばれー」
ケミィの乾いた声に、カールの声のボルテージが上がる。
「感情を無にして応援するな! どうせできないとか思ってんだろ!」
「はい」
「素直! 『そんな事ないですよ』くらい言え! お前もうちょっとやる気を高めてやろうとか思わないの!?」
「そんなことないですよー」
「タイミングなのか本音なのかわかんねぇけど、悪意だけは伝わったわ!」
「話も終わったところで、私もお風呂入っていいですか?」
しれっと告げるケミィの言葉に、カールはがっくりと脱力した。
「……マイペースにも程があるだろ……。まぁ入るなとは言わんが……」
「何ですか?」
「いや……」
口ごもるカール。
少し考えたケミィが、大きく一つ頷く。
「あぁ、目を離すと何するかわからなくて心配ですか」
「自覚あるなら控えろよ!」
「今更いい子の振りしたって信じないでしょう?」
「振りって言っちゃう時点でな!」
「心配なら一緒に入ります? 背中ひっぱたかせてあげますよ?」
「背中って流すもんじゃねぇのか!? 流さねぇけども!」
「白い肌がご主人様の手形で赤く染まっていく様、ぞくぞくしません?」
「するね! お前の発想に! とにかく風呂の使い方を教える!」
「はい」
言われて服のボタンに手をかけたケミィを、カールは慌てて止めた。
「待て! まだ服は脱ぐな!」
「ボタンに手をかけただけなのに、反応が過剰ですね」
「これまでの流れから見たら、誰も俺を責めないと思うぞ! いいからそのままこっち来い!」
「おお、結構広いですね」
「身体は湯船からくみ出して洗うように。今入ったばかりだからそのまま使えるだろ」
「ぬるい!」
「まだ入ってもいないのに!?」
「奴隷のお風呂と言ったら水風呂か熱湯と相場が決まっているでしょう!?」
「出たな謎の奴隷理論! 知らんわそんな相場! それにその状態を提供するには、俺が一回水風呂か熱湯に浸からないといけねぇじゃねぇか!」
「奴隷のために身体張るご主人様格好良いー」
「そんな雑なよいしょで自分の風呂を地獄にする気はない! とっとと入れ!」
言い放つカールに、ケミィは首を傾げる。
「でもこれ、今日はいいですけど、追い焚きとかどうするんですか?」
「あぁ、それはこの魔法薬を使う。水と反応して熱を生み出す薬でな。一粒入れるとこの量の湯で温度が約一度上がる」
「つまりあと六、七十粒入れれば沸騰させられると」
「何だその目は! 駄目だ! 使わせないぞ!」
「いえ、純粋にすごい薬だなぁと思っただけです。さすがご主人様! つきましてはお風呂の掃除や沸かすのを私にお任せください!」
「掃除と水を入れるところまでは任せるが、薬は俺が入れる! 不満そうな顔できる立場かお前! いいからとっとと風呂に入れ! ……今脱ぐな! 俺が出てからにしろ!」
読了ありがとうございます。
水をお湯に変える魔法薬は、カールが『風呂沸かすのめんどい』と作ったものです。
市販したら売れそうな気もしますが、カールにその発想はありません。
もし売っていたら、仕事を奪われた木こりが斧で襲ってくるかも……。
次話はまた月曜更新になります。
よろしくお願いいたします。





