第十話 奴隷はキューピット役に向かない
ツケを支払う際に、ケミィを嫁にしてはと魚屋のおかみから煽られたカール。
ケミィの斜め上の積極さに冷静さを取り戻したカールは、服屋へと足を向けるのであった。
どうぞお楽しみください。
「あ、ここですね」
「おぉう……」
女性向けの服屋の前で、カールはうめいた。
あまりの明るさと可愛らしさに、魂が炙られるような拒否感に包まれる。
「さぁ入りましょう」
「……お前だけで行ってきて。金は払うから」
「わかりました。じゃあ超ミニスカートとか、おへそ丸出しのシャツとか、シースルーのネグリジェとか買ってきますね」
「何その悪意しかないチョイス! 店員から即通報されるだろそれ!」
「それならムチで叩きやすい背中開きの服とかにしましょうか?」
「背中開きの服のそんな活用方法初めて聞いたわ! そもそもうちにムチとかないしな!」
「ならメイド服と看護師服とシスター服ならいいですよね?」
「やめろ! 一つ一つは仕事着として問題ないのに、まとめ買いすると意味が生まれる組み合わせじゃねぇか! ……わかった! 一緒に行く!」
苦虫を噛み潰した顔で、カールはケミィと共に服屋に入る。
「いらっしゃいませー」
「!」
迎えた女店員に、カールの不機嫌さが一気に吹き飛んだ。
長く艶やかな黒髪。
きめ細やかな肌。
小さい顔。
そして豊満な胸。
男として目を奪われるもの無理からぬ事だった。
「あら、カール先生。そちらのお嬢さんの服をお探しですか?」
「え、えぇ、あの、いくつか見せてもらえますか?」
「かしこまりました」
女店員が棚をあちこち回るのを、カールは魂を抜かれたように見つめる。
「……ご主人様」
「はっ!」
ケミィに袖を引っ張られ、ようやく我に返った。
「成程、ああいう方がお好きなんですね」
「え、あ、ち、違うぞ! そ、そういうのじゃなくてな……!」
「ならとりあえず若くて美人な女の人には、誰彼構わず興味が向く感じですか?」
「ばっ! そ、そんな見境ない感じじゃなくてだな、その……!」
「それとも珍しくまともに話してくれる、若い女の人に感激してますか?」
「……見境ない方でいいです」
項垂れるカールに、ケミィは溜息をこぼす。
「仕方ありませんね。私が話をするきっかけを作って差し上げましょう」
「えっ!? ほ、本当か?」
「はい。まず私がそこの脚立に登ります」
「ふんふん」
「そして頭から落ちます」
「は?」
「頭から血を流して倒れている私を、店員さんが目撃して悲鳴を上げます」
「おいおいおい」
「その怪我をご主人様が常備している万能薬で治します」
「待て待て待て」
「その優しさと手際に店員さんはメロメロ! 二人のハートはだーいせっきーん!」
「そんな血みどろのスリルとショックとサスペンスなんか求めてないんだよ! 何でお前はそういちいち物騒なの!?」
「じゃあ普通に聞いてきますよ。好みのタイプとか」
「ほ、本当か……?」
「はい。『お金持ちで、奴隷の女の子を殴る度胸もないくらい優しくて、骸骨みたいな見た目の男の人は好きですか?』って」
「くそう! 一瞬信じた俺が馬鹿だった!」
「では行ってきまーす」
元気に行こうとするケミィの腕を、カールは慌てて捕まえる。
「いや行くな! 何で行けると思った! 絶対駄目だからな!」
「んもう、そういう引っ込み思案なところがモテない原因だと思いますよ?」
「お前の聞き方が身バレする気満々な点は棚に上げて俺を責めるの!? お前すごいな!」
「いやぁそれほどでも」
「皮肉だよ! この状況から褒め言葉かけられたら、聖人になれるからな! いいから何もするな! 服買ったらすぐ出るぞ!」
読了ありがとうございます。
ご主人様のために身体を張ろうとするケミィは健気だなぁ(白目)。
次話は来週月曜日となります。
よろしくお願いいたします。





