第一話 奴隷の言ってる事が理解できない
当作品は、ハイテンションラブコメディー的な何かです。
言葉のやり取りだけですが、多少どぎつい表現がありますのでR15つけてます。
お読みの際はお気をつけください。
笑い飛ばしてもらえましたら幸いです。
「……あの、ご主人様。どうか優しくしてください……」
奴隷として買われた少女は、震える声で懇願する。
それを冷たい目で見下ろす男。
彼は奴隷の懇願を嘲笑うように、口の端を歪めた。
「安心しろ。貴様を弄んでどうこうするつもりはない。貴様は俺の死後、指示された通りにこの家の処分をすれば良い」
「え……?」
少女は驚いた顔で男を見上げる。
「ど、どういう事ですか?」
「俺はじきに死ぬ。それまでに家の物の処分の仕方を教えるから、それを覚えろ」
「死、え、ご、ご主人様は魔法薬作りの天才で、病も寿命も関係ないのではないですか?」
「そうだ」
「それなら何故……?」
「……この世に飽いたのだ」
疲れた顔で息を吐く男。
「確かに万能薬の開発で、財産も名声も寿命さえも確たるものになった。だがそれでもどうにもならないものがある事を知った」
「それは一体……?」
「人の心だ……」
重い沈黙。
その重圧に抗って、少女は口を開いた。
「……あの、まさかとは思いますけど、女の人にふられたから生きる気力を失った、とかじゃないですよね……?」
「……」
「ご主人様?」
「……」
「こっち見ましょうか」
男は冷や汗を拭いながら少女に顔を向ける。
「そ、そんな事でし、死ぬわけがないだろる」
「めちゃくちゃ動揺してるじゃないですか。え、本当に恋の病で死ぬんですか? 年頃の乙女ですか?」
「ち、違う違う違う! 説明させて! 今まで研究一辺倒で、でも成果が出たから、こう、人並みの幸せとか考えたわけだよ!」
「はぁ、それで?」
「で、その、この村の村長に『誰かいい娘いない?』って聞いたんだよ」
「は?」
「村長はさ、俺が万能薬成功して、悠々自適の生活しようと場所探してこの村に来た時、『何でもお世話しますから是非!』って家も畑も世話してくれたから、その、今回も……」
「で、オチは見えた気がしますけど、どうなったんですか?」
「……村で若い女の子達が『あんな骸骨みたいな男の生贄になるのはいやぁ!』って大騒ぎして、酷い押し付け合いをしてた……」
「うわぁ思ったより酷かった」
「俺はまず話し相手くらいからと思ってたのに、何か拒否権のない命令みたいになっててさぁ! あれだよ! 普段は恵みをもたらすけど、怒らすと災厄をもたらす魔物!」
「的確ですね」
「という訳で引き継ぎが終わり次第俺は死にます。これから教える事をしっかり覚えて実行してね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
少女は必死な声を上げた。
「そ、そうすると私はどうなりますか!?」
「あぁ、ちゃんとお金は渡すし奴隷契約も破棄するから、自由の身って事で故郷とかに帰ればいいよ」
「そういう訳にはいかないんです! ご主人様に買ってもらえてようやく夢が叶うと思ったのに!」
「夢?」
「はい!」
少女の声に力がこもる。
「骨が折れるまで殴られて、回復薬で全快させられて『さぁもう一回だ』とか!」
「えっ」
「皮膚の焼けただれる薬をかけられた後で、『再生薬がほしいか? くくく、塩水三杯被ったら飲ませてやろう』とか!」
「ひぃ」
「毎晩再生させられて破瓜の痛みを何度も味あわせられ続けるとか、そういうプレイができる理想のご主人様なんですから、死んじゃダメですよ!」
「やだ何この子こわい」
ドン引きの男に、少女はとことこと近づく。
「という訳でとりあえず一発」
「どっちの意味でだよ! どっちの意味でもしないけど! お前さっきの『優しくしてください』は何だったんだ!」
「あぁ言っておけば嗜虐心を煽れるかなぁ、と」
「計算尽くかよあの表情! じゃあ奴隷市場での哀れを誘う必死なアピールも演技か!」
「はい!」
「『どんな辛い事でも耐えます!』ってそういう意味か!」
「はい!」
「くそう、やり切った笑顔しやがって! もういい! お前は返品する!」
「あれぇ? よろしいんですかご主人様ぁ」
男の言葉に、少女はにたりと笑った。
その剣呑な雰囲気に、男は一歩たじろぐ。
「な、何だ」
「だって私、女の子ですよ?」
「それがどうした」
「私は返品されたら、ご主人様にされた、ない事ない事を吹聴します」
「何ぃ!?」
「そうするとご主人様は『権力で女を差し出させようとしたクズ』で」
「ごふっ」
「『金で幼女を買う異常性癖者』で」
「がはっ」
「その上『色々満たされたから天国に旅立ったド変態』と歴史に名が残りますね」
「何だよお前生きた地雷かよぉ!」
膝から崩れ落ちた男の絶叫が響いた。
しかし少女は笑みを崩さずにじり寄る。
「ですから、それを避けるには、まず私を手酷く保護して」
「どんな保護だ!」
「私が健やかに育つよう丁寧に虐待を施して」
「お前の精神が健やかじゃない!」
「そうすればご主人様は奴隷を人として育て上げた立派な人になれますよ」
「幼女性愛者から幼女虐待者に超進化するだけだろそれぇ!」
「やだなぁ。その時はちゃんと『私が望んでやってもらってます!』って言いますよ」
「墓穴の下掘って地獄でも呼び出す気かよお前!」
「とにかくこれからよろしくお願いします、ご主人様」
満面の笑みを浮かべる少女に、男は大きく溜息を吐いた。
「……噂撒かれるのは厄介だからここに置いてやるけど、虐待とかしないからな」
「酷い!」
「酷いのはお前の頭だ!」
「そんな事言うなら、私村中で『ご主人様が虐待してくれません!』って叫んで回りますよ!」
「むしろお願いします」
「くぅ、手強い」
「よくわからんが勝った気分」
しかし少女はめげた様子もなく、ぐっと拳を握り、男の前に突き出した。
「いつか必ず手を出させてあげますからね!」
「どっちの意味でも出さねぇよ!」
読了ありがとうございます。
まぁこんな感じです。
ラブになりそうもない気がしますが、よろしければお付き合いいただけましたらありがたいです。
よろしくお願いいたします。