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疑うらくは是、命が九天より落つるかと(馬終話)  作者: 蔵前
二 良純和尚はお山から玄人を思う
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いつもこんな風に誘拐されかけます、その実例

 発端は何時もと変わらない日常であった。

 俺は外の仕事を人並み以上にこなしているが、家事だっても人並み以上にこなしているのだ。

 町内会のお付き合いという雑事など、家事をしない玄人に全部任せても非難はされないはずであろう。


 そればかりか、近所のおば様連中と玄人が仲良くなることで彼への監視の目が行き届き、彼に起きた不審な出来事には必ず俺にご注進が来るという、生きている録画機能付監視カメラを設置できるのだ。


 使わない手は無い。


 それに、狙われやすい彼を常に守ってやりたいが、近所ぐらいは自由にふらふら遊ばせてやりたいという俺の親心もあるのである。


 俺が非難される謂れは無い。


 けれども、今回はそれが失敗であった。

 新しく町内会に入ったという金だけはある新婚家庭の旦那が、玄人に懸想してしまったのである。


 話は簡単だ。

 町内会のゴミ清掃に必ず参加する玄人に近付くために、その男も毎回必ず参加して、終には、おば様連中の信頼を勝ち取ったのだ。

 絶対に町内会の政に参加しない腐れ坊主と罵られる俺とは違う。

 彼は半年かけて玄人の清掃グループに潜り込み、ゴミの片付けを一緒にしようと玄人を誘い、ゴミの集積場近くに隠しておいた自家用車に彼を乗せようと企んだのである。


 半年もかけてその程度とは、あきれ返る無能の馬鹿だがな!


 ところが、そんな馬鹿一人も上手にいなすことも出来ないのが我が家の馬鹿だ。


 大声もあげずに困った困ったと、およしになって程度の抵抗では、相手の劣情を煽るばかりなのである。

 嫌々する玄人に尚更発情した男はその場で彼を犯すほどの勢いとなり、玄人を車に押し込めようと一層頑張り出したのだ。


「え、ちょっと。やめて下さい。僕は帰らないとです。」


「ちょっとお茶を飲むぐらいいいだろう。それに君は亭主に隠れて浮気もしているじゃないか。何だ二人も!亭主がいないと家に引き込んで!あと一人ぐらいいいだろう!」


 そのセリフから考えるに、彼は町内会の参加だけではなく、玄人のストーカーもしていた模様だ。

 しかし、我が家の馬鹿は彼のセリフに、「誰のことだろう?僕を誰かと間違えている?」ぐらいしか思い当たらなかったようである。


 可哀相な山口と楊。


 ぽやっとしてしまった玄人に「今だ!」と思ったらしき男は力を込めて、自分の方へと玄人を引っ張った。

 偶然にもこの動きが抵抗する玄人の腕を捻りあげたのである。

 玄人は痛みによって甲高い悲鳴を上げた。

 しかし、男はその声に冷静になるどころか、自分が取り返しのつかない事をしたと背水の陣の気持ちとなったようで、そのままぐいぐいと玄人を引き摺ったのである。


「いや!ちょっと放して!い、痛い!」


 玄人は左腕を捻られる痛みと連れ去られる恐怖に足がすくんでいた。

 するとそこに、颯爽と助け舟が現れたのだ。

 助け舟は捻られた玄人の腕を支える心遣いをしながら、男の腕を見事な制圧術の応用を使って振り払い、彼を完全救出したのである。


 本人はそう語っていたが、俺は普通に男の腕を跳ね上げただけだと思う。

 人は下からの思いがけない力には対処できないのだ。

 腕の関節は上部に140度も跳ね上がるが、下部には5度程しか曲がらない。

 だからこそ上から力を与えられても耐えられるが、下からは簡単に跳ね上がる。

 骨の突き出た肘は、鍛えていようが叩かれれば痛いし痺れる。


「何やってんの。」


 助け出した男は腕の中の玄人に言い放ったが、こんな目に遭うのは彼の責任ではない。

 彼は一見だろうがガン見だろうが物凄い美女であるのだ。


 母方の白波家の美しい女顔を引き継ぎ、彼の顔は顎がちょっととがった卵形の輪郭に、小作りの綺麗な形の鼻と下唇が少しぷっくりとした形の良い唇がついているというものだ。

 そしてそれだけではなく、武本家の東北人の血によるものか、大きな黒目勝ちの両目は白波にはない華々しく凄い睫毛に縁取られているという、可愛いが勝るこの上ない美女なのだ。


 女性化する前から異性愛者のはずの男達に襲われかける程の美貌であったのに、女性化した今では俺の見立てによって常に誰よりも美しく見えるように整えているので尚更だ。

 親友の楊にはその行為を呆れられているが、一緒に住むのならば自分好みで美しい方が癒されるものであろう。


 禅僧とは質実を大事にするものだ。

 自分の物を煌びやかに飾ってどこが悪い。

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