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百目鬼家にはみんなが集う、のだ

 なんと、山口が今まで一週間行方不明だったのは、長谷に囚われて行方不明だった間の残りの講習を受けていたからだという。

 融通の利きすぎる講習が可能だったのは、白波の金の力であるだろうことは誰にでも理解できた。


 おそらく淳平以外。


「え。わかったけどよ、警察の仕事はどうしたの?」


「え?俺があんな暴力沙汰を起こしたから懲戒を受ける前に休職しろって、かわさんが。皆には本部の人格矯正の研修だって言っておくからって。講習を受ける手配も。」


 そこで何が起こったか理解した淳平と楊が、当たり前のように茶を飲んで寛いでいる妖怪の存在に振り向くと、妖怪はうれしそうに笑い出した。


「ジェット!お前!お前が俺の振りして悪さをしていたんだな!」


 自分が知らない間に人を不幸にしていたと悩んでいた男は、自分の知らない悪行が全て目の前の男によるものだと、ようやく気がついたようだ。

 楊の隣に座る玄人が、あからさまな呆れ返った顔で楊を見つめている。


「お前は今迄に気付くことはおろか、考えついてもいなかったのか?」


 そんな玄人の心の声が聞こえるほどだ。

 彼は見た目と違って内面はろくでもない。

 俺は親友の純情さに同情するよりも、情けなさに笑いながら妖怪に向き直った。


「あんた。白波の神主は脇に置いて置くって。この嘘吐きが。」


「ははは。だって、淳平君は白波の血を引いていないでしょ。完璧な悲願達成じゃないからお金が取れないじゃない。これは関係ないよ。クロちゃんを確実に覚醒させるためにはね、淳平君から引き離す必要があったというだけ。淳平君に愛されるために男の子の体のままでいたいって気持ちを捨てさせるためにね。」


 淳平は長谷のセリフに玄人の自分への思いを再確認したのか、長谷を神様を見る目で見つめるだけでなく、彼に騙されっぱなしだった事など洪水の後の濁流の如く流してしまったではないか。

 俺は馬鹿な子供がろくでなしにこれ以上騙されないようにと、鬼の気持ちで妖怪に真実を突きつけるしかなかった。


「嘘吐きめ。計画的だろうが。淳のお陰で今年の正月の白波は氏子獲得と売り上げが物凄かったからな。白波の子供同然となった淳が神職を得たことで、クロの復活の支払いはボーナスつきだったのではないか?」


 当たり前だが、長谷はクリームを舐めた猫の満足そうな顔を見せた。


「畜生!銭ゲバな親父に乗せられて、騙されて、役職失った俺一人が貧乏くじかよ!」


 俺は叫び声を上げた親友が哀れになり、髙に口止めされていたことをつい彼に伝えようと思ってしまった。

 決して彼のリアクションを知りたかっただけではない。


「お前は今度公安の特別対策課の課長だろ。公安て言えば警察庁直属なんだってな。本部とも直接連携して、もっと大掛かりな物になるって言ってたぞ。頑張れよ。」


 楊は妖怪に叫んだ中腰のまま固まり、ぎぎぎとオイルの必要なブリキ人形の動きをして俺を見返した。

 「目玉ん」と渾名をつけられた幼小時代を彷彿とさせる大きな目玉で、楊が俺を真っ直ぐに見ている様は、後ほど髙に嫌がらせを受けたとしても構わない面白さだ。


「何?何なの?それは、何?」


「髙がさ、面倒臭いってね。表家業だと今回みたいに一々申し開きするのが面倒だって切れちゃったらしくてね、裏に潜るってさ。」


「嘘う。田辺ちゃんが裏に潜ったら大変じゃない。本気で死人と戦争する気だね、彼は。クロちゃんにバンバン死人を死体に戻させて黄泉平坂よもつひらさかの悪鬼の軍団を呼ぶつもりだ。ははははは。あぁ、面倒臭そう!僕は一抜け。」


 楽しそうに歌うように髙の本意「らしきもの」を楊に騙った長谷は、ぽんと目の前から姿を消した。

 なんて最悪な性格の妖怪なのだろう。

 彼が意図したとおり、楊は五歳児のように今にも叫びだしそうな顔だ。


 そんな楊の姿に、淳平も玄人も嬉しそうな顔で笑いさざめいている。

 俺は家族の居る幸せと、親友のいる幸せを大いに噛みしめて、できる限りの大声で楊の不幸を笑い飛ばしてやった。


                (おしまい)



お読みいただきありがとうございました。

これで一先ずは馬はいななくのシリーズは終話となります。

長々とした物語をお読みいただき、ありがとうございます。


結局長谷の妖怪化については事情が本文では有耶無耶ですが、生前から手癖の悪い男が青森の滋ちゃんを訪ねた時に鼬を盗まないわけはなく、命のやり取りの秘術を知ってしまったならば、彼は嬉々として使いまくり、不老不死になってしまったというだけです。

そして、寂しがり屋の彼は、自分の寿命が終わる年に自分の人生を終わらせましたが、長谷であることは辞めていないので滋ちゃんみたいに忘れ去られていません。

というか、滋を別の人間に仕立てた時に、忘れ去られるこの方法はやばいなと、自分はしない事にしようと決めたという、ろくでなしなのです。

それで実際の呪術者としても妖怪としても上位の滋ちゃんから自分の記憶を隠していたのでした。

滋ちゃんが武本の人で良かったね、長谷ちゃん、そんな感じです。

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