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冥途の土産に許してやって

「長谷ちゃんか。いつ?いや、俺を刺したのはあんたか。」


 戦友であった伊藤いとう廉太郎れんたろうの髙への処置を後ろから眺めている長谷貴洋は、髙の呼びかけにうれしそうに微笑んだ。


「ごめん。僕の計画に邪魔だったから。」


 髙は自分の口からあきらめの吐息が吹き出したことを感じていた。


「違いますね。僕を刺したのはかわさんで、それであんたは僕を救出したんだ。あんたが騙している青天目の、彼が自分で我が子を殺した記憶を隠したように。」


「青ちゃんは平坂に完全に支配されていて、意識も体の自由もなかったからね。これから生きて行くのにそんな記憶は不要でしょう。それからね、正直に答えると君を刺したのは百目鬼君。思いきりが良すぎる彼に僕も驚いちゃったよ。」


「え?嘘。」


「本当。君を刺せば僕かマサトシが現れると踏んだんだろうね。思わず人命救助するお馬鹿さんだって君が僕達を結論付けたから。君達は失礼だね。」


 髙は刺されたことよりも、百目鬼のろくでなさに笑い声を上げていた。

 そして、目の前の嘘つきを揶揄う余裕まで湧いてきたのである。

 部分麻酔のせいでハイになっているのかもしれないが、なぜだか彼はとてもわくわくとした高揚感の中にあるのだ。


「でも乗せられた。そして彼は僕をあんた方の世界に送る事に成功か。本当に怖い人だ。目的のためには手段を選ばない。あん人によく似ている。」


「全くの別人なのにね。不思議だよ。」


「それでかわさんは一体どうしたのですか?」


「うん?三條英明の意識も目覚めてしまって混乱中。だから許してやって。あの子は幸せを堪能して、諦めて、もうすぐ昇華する。」


「玄人君は戻って来ますか?」


「そのための誘拐。マサトシはあの子に自分の寿命を捧げて誠司の魂ごとあの世に逝くつもりだ。その場合は君も百目鬼君も、マサトシの存在自体を忘れられるから悲しみを感じることも無い。だから心配しないで。」


 髙は再び身を起こそうとしたが、見えない手に次々に体を押さえつけられて、冷たい手術台に再び押し付けられた。


「ちくしょう。」


「でもさぁ、偶然でもマサトシを君の手元に置けて、僕は安心この上なかったよ。ありがとう。あの子に暗示をかけていたでしょう。警察官なのにあんな暗示のせいで殉職したらとね、気が気じゃなかったの。どうしてあの子は警察官になろうとするのかねぇ。警察に良い思い出などないでしょうに。」


 髙は楊が「痛い。」と叫ばれると身を竦ませてしまう性質を思い出していた。

 そのことだと思い当たり、そして、凄く残念だと彼は落ち込んだのである。

 彼は警察組織に一人くらいは、そういう馬鹿に存在していて欲しかったのである。


「僕や誠司に関する事件には聞こえない意識を向けないって、暗示は最低でしょう。僕は伝説の警視監だもの。関った事件は数知れず。事件の関連性を追えなければ危険な案件だってどっさりじゃない。」


「え?かわさんの痛いって叫ばれると手を離す事じゃなくて。」


 長谷は、はぁあ、と大きく息を吐いた。


「あれは困った性質だよね。だから警察になっちゃ駄目なのに。あれはね、あの子があの子である根幹の性質なんだよ。あの子はね、誠司の時は僕のせいで不幸だったからさ、痛いと叫ぶ人間も平気で蹴り飛ばせただけだよ。蹴り飛ばさなければあの子は確実に痛めつけられるからね、仕方が無い。だからさ、誠司は変容してしまったんだ。だからあの子を許してやって。どうせ忘れてしまう相手なんだから良いでしょう。あの子の冥土の土産にってね。」


 髙は自分が田辺大吉であった時代の、彼の知っていた誠司の姿を思い出していた。

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